人類は数百万年のあいだ自然光のもとで進化してきた。約200年前の産業革命以降、人々の生活様式は変化し、高度成長のシンボルの一つとして「明るさ」があった。そして、戦後の何も無い暮らしの中で「灯り」は希望を与えてくれた。特に蛍光灯の普及が大きな影響とも思える。蛍光灯の光は影が少なく隅々まで明るくなり「明るさ=豊かさ」と錯覚するかのようになった。高照度に対する意識が高まり、眠らない街が最先端都市のように報じられ、暮らしの中で光が氾濫するようになっていった。同じ頃、天体観測に支障をきたしているとされ「光害」という考え方が出現し、大気だけではなく生態系への影響も考慮する必要があるとされ始めた。その結果、環境省から「光害対策ガイドライン」が策定され光の氾濫にブレーキがかけられるようになった。20世紀末頃、地球温暖化が問題視され始めると「節電」が重要視され眼に見える電気として照明が矢面に立つことになる。そして、同時期に開発されたLED光源により照明業界の変化が始まった。これまでの光源は、熱を与えることで発光する燃焼形と、雷のような放電を細かく発している放電形の2種類が一般的で、自由に光を作ることが困難だった。そのような状況の中でLED光源は波長の短い光(青色光・紫外線)の素子に対して、波長を伸ばす蛍光塗料を塗布することで好きな色を作ることができる。そのために、必要となる「光の質」が研究されることとなった。光の影響は視覚への影響だけではなく、人を含む多くの生態系の「体内時計」に影響を与えていることが認知されることとなる。体内時計は、概日リズムやサーカディアンリズムと呼ばれ、約24時間周期でホルモン分泌を調整する役割を果たし日常を整える。そして、体内時計は身の回りの光環境によって大きな影響を受けているため、光環境は見た目だけの問題ではないとの再定義が始まる。数百万年を自然光の中で営んでいた人類は、明るくなることで目覚め、太陽が沈むと虚遅くするというリズムが出来上がっている。起きている間は幸せホルモンと呼ばれる「セロトニン」が分泌され、セロトニンは約15時間継続し減少すると睡眠ホルモン「メラトニン」の分泌が始まる。そして、朝日をあびることでセロトニンの分泌量は高まり、セロトニンの量に応じてメラトニンも分泌量が多くなる。つまり、より良い睡眠は朝日から始まるといっても過言ではない。また、セロトニンは強い光により効果が高まることから、夕方以降に高照度を浴びることでサイクルが崩れるとも言われる。夕方以降に高照度環境及びテレビやスマホなどのモニターを直視することで本来のサイクルが崩れることになる。照明の出現で延びた活動時間による弊害が問題視されることとなり、新しい価値観が求められている。