雑誌「Jships」の8月号。
特集は、「ステルス艦入門」ということで、購入。
近年、世界各国で、軍艦の「ステルス」化が、進んでいますよね。
個人的には、軍艦のような巨大なものを、「ステルス」にして、意味があるのかと思っていたところですが、やはり、大きな意味があるそうです。
当然と言えば、当然の話。
そもそも、なぜ、軍艦を「ステルス」にしようという発想が生まれ、実現に向かったのか。
世界で最初の本格的な「ステルス」といえば、アメリカの攻撃機「F117ナイトホーク」ですよね。このF117の登場には、驚いた。
F117ナイトホーク。
アメリカでは、1970年代から、この「ステルス」の研究が始まり、1977年に、実験機が、初飛行。1981年には、実用機が飛行し、1983年には、実戦配備。その存在は、1988年まで、秘匿されていたそうです。
この「F117」を製作した「ロッキード・マーチン社」の技術者は、アメリカ海軍にも、この技術を売り込むことに。
そこで、実験艦「シーシャドウ」が、建造されることになります。
1984年、実験艦「シーシャドウ」は完成。極秘にテストが行われます。
この実験艦「シーシャドウ」の存在が明らかにされたのは、1993年のこと。
このように、「ステルス」の技術、存在は、極秘中の極秘で、開発が進められた。
1988年から建造が始まった「アーレイバーグ級」駆逐艦にも、このステルス技術が、取り入れられているそうです。しかし、今の目で見ると、「ステルス」鑑には見えない。
アーレイバーグ級駆逐艦
そして、1996年に就役したフランスの「ラファイエット級」フリゲート艦が、現代のステルス艦の先駆けとなります。
ラファイエット級フリゲート。
2012年から就役が始まるスウェーデンの「ヴィスビー級」コルベット鑑では、更に、徹底したステルス技術が導入される。
そして、現代、最も、高度にステルス化をされた軍艦が、アメリカの「ズムウォルト級」です。
さて、軍艦を「ステルス」化することに、どのような意味があるのか。
実は、軍艦のステルス化には、大きなデメリットもあります。
それは、重量の増加、艦内スペースの減少、搭載艇の揚収や洋上補給や甲板作業がやりにくくなる、レーダーやアンテナの配置に制約を受ける、などなど。
しかし、それでも、軍艦をステルス化することには、意味がある。
軍艦にとってのステルス化の利点は「レーダーに映らなくする」ことではなく「レーダーの反射を小さくする」ということ。
この「レーダーの反射を小さくする」という効果によって、巨大な軍艦でも、小さな漁船のようにレーダーには映るそうです。
アメリカの「ズムウォルト級」など、レーダーには、小さな小舟のように映るそう。
つまり、相手に「艦種の誤認」をさせることが出来る。つまり、相手に、自身が軍艦だと察知されることを遅らせるという効果がある。
更に、現在、敵艦を攻撃する武器となるのは「対艦ミサイル」です。
対艦ミサイルは、自身のレーダーを頼りに、敵艦に接近する訳ですが、レーダーの反射を小さくすることで、この対艦ミサイルのレーダーが、自身を探知することを遅らせることが出来る。
それだけ、相手の対艦ミサイルに対処する時間が稼げるということ。
現代では、アメリカの巨大な原子力空母「ニミッツ級」でも、ステルス性能向上のための改修が行われ、新型の「ジェラルド・R・フォード級」では、ステルスを考慮した設計がされている。
もはや、今では、全ての軍艦に、「ステルス」性能は欠かせないものになっているということ。
ニミッツ級原子力空母。
ジェラルド・R・フォード級原子力空母。
さて、「ステルス」と言えば、一般的に「対レーダー」についてのステルスを思い浮かべるのが一般的。
例えば、形状に工夫をして、相手のレーダーの電波が、別の方向に反射をするようにする。
また、艦に、電波を吸収するものを貼り付け、または、塗りつけて、レーダーの電波の反射を減らす。
外観を、出来るだけ、のっぺりと平面にして、凸凹をださないというのは、ステルス艦の基本。
実は、この構想を、最初に考えたのは、ソ連の技術者だったそうで、1970年代から、ソ連の軍艦では、このような形状の軍艦が見られる。
実際に、当時、ソ連の軍艦が、レーダーに映ったものに比べて、実物は、かなり大きかったそう。
しかし、ソ連は、その後、崩壊し、その混乱で、ロシアでは、軍艦のステルス化というものは、進まなかったということ。
さて、この「レーダー」に対するステルスの他にも、考慮をしなければならないものがあります。
まずは、「赤外線」です。
敵の対艦ミサイルには、この赤外線を追尾する機能もある。そのため、軍艦は、赤外線の排出を、抑えなければならない。
例えば、煙突の「排煙」です。そこには、「熱」があり「赤外線」による追尾の対象になる。
この排煙を、周囲の冷たい空気と混ぜて排出をするという構造になった煙突が多いようです。また、煙突を、海面に近い艦尾の方に設けたり、直接、海中に排煙を出す軍艦もあるということ。
そして、「可視光」についてのステルスも、当然に、必要ということになる。
つまり、人間の目で、見えづらくするために、周囲の溶け込むような塗装、迷彩塗装などが、軍艦には、施される。
そして、軍艦なので、武装を持っている訳ですが、この武装もまた、現在では、出来るだけ、艦内に収めることになる。
軍艦に象徴的な主砲の形状もまた、現在では、平面的なものが、主流で、これも、レーダーの反射を考慮したため。
自身の艦のレーダーやアンテナも、敵のレーダーを反射しないように、一つにまとえられた「平面アンテナ」「統合マスト」と呼ばれるものが、主流。
さて、現在、軍艦の「ステルス」化は、これまでの軍艦の形状を進化させたもの、と、言うことになる。
しかし、最初から、「完全なステルス艦」を目指して、建造されたのが、アメリカの実験艦「シーシャドウ」、スウェーデンの「ヴィスビー級」コルベット、ノルウェーの「シェル級」ミサイル艇、アメリカの「ズムウォルト級」ミサイル駆逐艦の、四つ。
まずは、実験艦「シーシャドウ」。
非常に、独得の形状をしていますよね。
この船体形状は、側面から来るレーダー派を、真上に反射するため。
この形状を「ダンブルホーム」型と言うそう。
更に、電波吸収材で、船体は、構成されている。
更に、「SWATH」(半没水双胴船)という船体となっている。
これは、波から受ける力が少なく、波の中での運動が小さくなる。
そのため、揺れが少なく、波の高い海面や、高速での航行でも、安定性が良い。
実は、航行時の安定性が、良いと、ステルス性も、高くなる。
そして、排煙は、海中に排出されるようになっている。
このように、徹底したステルス艦となった「シーシャドウ」ですが、大きな落とし穴が。
普通、レーダービームは、海面で反射をして、スクリーン状では、白く、ぼんやりと映るそうです。
しかし、徹底したステルス化により、この「シーシャドウ」は、レーダーの映像に、その白い部分に、黒い穴が空いたように見えて、その存在を確認されることになる。
その結果、軍艦のステルス化は、「レーダーに映らない」ことではなく、「レーダーの反射断面積を小さくする」という方向に変化をすることになる。
1990年代後半から、スウェーデンで、5隻が建造された「ヴィスビー級」コルベット。
建造当時、革新的で、最高のステルス艦だったそう。
全長72メートル、全幅10メートル、満載排水量640トン。
穏やかな海象状態で、約22キロメートル、荒れた海象状態で、約13キロメートルまで、敵の対水上捜索レーダーに映らないそうです。
ちなみに、同程度の大きさの艦は、通常、約50キロメートルの距離で、探知されるそう。
1999年から就役が始まった、ノルウェーの「シェル級」ミサイル高速艇。
こちらは、エアクッション機能を用いたSES方式を採用している。
そのため、高速航行が可能。
自国の海岸に接近する不審船への防衛を任務としている。
レーダー反射面積を低減させるために、ガラス繊維強化プラスチックで船体が造られているそうで、更に、船体の荷重支持構造には、レーダー吸収材が使われ、更に、無響コーティングが施されている。
これにより、船外をレーダー吸収材で覆うよりも、大幅な軽量化が出来、ステルス性を実現させているということ。
ステルス性と、高速は、両立が難しいそうです。
ステルス性を高めるために、船体構造が複雑になり、それは、高速性を失わせること。
この「シェル級」では、SES方式を採用することで、それを実現させている。
そして、現在、究極のステルス艦となるのが、アメリカの「ズムウォルト級」ミサイル駆逐艦。
多用途任務に使われる汎用艦として、30隻が建造される予定だったそうですが、冷戦の終了と、価格の高騰で、3隻で、建造打ち切りとなった。
イージス艦のような広域防空能力や、対潜能力は持たないということ。
2016年に就役した「ズムウォルト級」は、高いステルス性を生かした、沿岸海域での特殊部隊の作戦支援や、対地射撃能力による火力支援を任務とする多目的艦として完成。
当初は、「155ミリAGS」による砲撃能力を重視した艦だったそうですが、砲弾の大幅な高騰などにより、砲塔は、撤去され、代わりに、極超音速ミサイルの発射装置が設置されることが決まったそう。
さて、日本の「もがみ型」護衛艦。
日本は、このステルス化の世界の傾向に遅れた印象ですが、この「もがみ型」護衛艦で、いよいよ、本格的な「ステルス」護衛艦が、登場。
どのくらいのステルス性があるのかは、もちろん、極秘なのでしょう。
こういった「ステルス」艦は、通常は、レーダーに映るための装備をつけて、航行をしているようですね。
当然、レーダーに映らなければ危険だから、と、言うことになる。
また、その性能を知られないようにするためでもあるのでしょう。