さて、「名探偵」と言って、思い出すのは、まず「シャーロッ・ホームズ」、今では「コナン」と言ったところなのでしょうかね。
名探偵もまた、数多いですが、個人的に、「名探偵」と聞いて、思い出すのが、もう一人。
それは、「名たんていカゲマン」です。
この「名たんていカゲマン」は、「山根あおおに」さんの漫画です。
僕が、子供の頃、月刊「コロコロコミック」に連載をされていたもの。
当時、月刊「コロコロコミック」は、まさに、藤子不二雄さんのための雑誌のようなもので、600ページという分厚い本の、ほぼ、半分くらいが藤子不二雄さんの漫画で占められ、更に、その半分くらいが「ドラえもん」だったと思います。
当時は、「ドラえもん」のテレビ放送が始まって間もない時期で、世の中は、まさに「ドラえもん」が大ブーム。
当時、「ドラえもん」の放送時間は、日曜日の午前八時半から。
土曜日も学校があったので、朝寝坊が出来る休みの日は、日曜日だけだったのですが、この「ドラえもん」を見るために、子供たちは、せっかくの休みの日曜日にも、早起きをしなければならなかった。
そして、年末には「大晦日だよ、ドラえもん」、正月には「お正月だよ、ドラえもん」と特番がある。
そして、当時はまだ、ビデオなど無いので、全て、リアルタイムで、テレビの前で見なければならない。
毎月、月刊「コロコロコミック」の発売日である15日が来るのが楽しみで、もしかして、早くに発売がされてないかと、前日の14日にも、近所の本屋を覗いてみたりもしたものです。
さて、この月刊「コロコロコミック」に、当時、連載されていた「名たんていカゲマン」ですが、作者は「山根あおおに」という人。
この「あおおに」って、何だろうと、子供の頃に思ったのですが、当時は、調べる手段がない。
この「あおおに」が「青鬼」のことだというのを知ったのは、大人になってから、トキワ荘に関する本を、色々と読んでいた時のこと。
山根青鬼さんは、双子の弟、山根赤鬼さんと共に、田川水泡さんの弟子として漫画家になった人。
「漫画少年」という雑誌を通じて、藤子不二雄さん、寺田ヒロオさんらとも親交があり、寺田ヒロオさん、藤子不二雄さんらが結成した「新漫画党」にも誘われたそうですが、青鬼さん、赤鬼さんは、参加をしなかったということ。
さて、「名たんていカゲマン」ですが、主人公は「カゲマン」こと「影万太郎」。
宿敵、「怪人19面相」の起こす事件に立ち向かい、対決をすることになる。
そして、カゲマンの頼れる相棒が、カゲマンの「影」である「シャドーマン」です。
カゲマンが、光を浴び、「シャドー」と叫ぶと、シャドーマンが登場し、怪人19面相を倒す。
しかし、カゲマンが、光に当たらないとシャドーマンは登場しない訳で、カゲマンは、度々、ピンチに陥る。
そこで、カゲマンは「カゲマン電池」というライトを取り出して、影を作ろうとする訳ですが、電池切れなどで、更に、ピンチが続くことも。
基本的には、推理ものという訳ではなく、ギャグテイストの強い漫画だった印象です。
自分の「影」が、心強い相棒になるというアイデアは、寺田ヒロオさんのデビュー作である「白黒物語」と同じですが、やはり、影響を受けているのでしょうかね。
さて、「影」と言えば、「分身」のことでもありますよね。
それは、「影武者」という言葉からも、よく分かる。
黒澤明監督の映画「影武者」は、武田信玄の影武者となった男を主人公にしたもの。
武田信玄とそっくりの身分の低い男が、武田信玄の死後、影武者として、信玄の代わりを務めるんですよね。
最初は、当然、おどおどと、不自然だったものが、次第に、本当の武田信玄のようになって行くんですよね。
しかし、結局、お役御免となり、放り出され、元の身分の低い男に戻り、最後は、合戦の中で死ぬことになる。
武田信玄が、自分の死を三年間は伏せ、その間は、影武者を立てろと言ったという話がありますが、結局、その死は、すぐに、周囲の戦国大名の間に広まったようですね。
快進撃をしていた武田軍が、突然、引き上げ、その後、動きを見せないとなれば、周辺の諸大名は、不自然に思い、情報収集にかかるでしょう。
やはり、戦国大名の死を隠すということは、不可能だったのでしょうね。
ちなみに、真田幸村は、大坂夏の陣で、複数の影武者を立てたという話があるようですが、写真の無い時代、立派な甲冑を着て、馬に乗り、旗印を立て「我こそは、真田幸村である」と叫べば、顔を知らない敵は、それを、影武者か、本人か、見分けることは、事実上、不可能だったのではないでしょうかね。
真田幸村を名乗る騎馬武者が、複数、戦場に出現をすれば、敵を混乱させるには、かなりの効果があったのではないでしょうかね。
さて、「影武者」と言って、僕が、個人的に関心を持っているのは、アニメの世界の話ですが、「機動戦士ガンダムUC」に登場する「フル・フロンタル」という人物。
このフル・フロンタルは、「ネオ・ジオン」のリーダーで、外見や声は、あの「シャア・アズナブル」によく似ていて、「フル・フロンタルは、シャアなのか」と、周囲からは、疑問が持たれることになる。
アニメの中で、その辺りの詳しい説明は無い。
しかし、ネットで調べてみると、このフル・フロンタルは、ネオ・ジオンの求心力の象徴となるために、シャア・アズナブルに似せて作られた強化人間であるということのよう。
恐らく、原作小説には、そのように書かれているのでしょう。
自分が、自分自身として生きるのではなく、「他の人物」として生きなければならない。
こういう気持ちは、どうなのでしょうね。
もし、自分が、誰かの「影武者」として生きなければならないとなると、何だか、人生が虚しい感じがする。
このフル・フロンタルは、ミネバ・ザビに、「シャアと違って、お前には中身が無い」と言われることになりますが、それは、フル・フロンタルが「影武者」である以上、仕方がないことなのかも。