梶井基次郎の小説「城のある町にて」は、個人的に、梶井基次郎の作品の中で、一番、好きな作品です。
内容は、基次郎の実体験を元にした私小説に近いもの。
登場人物の名前は、本名を使っている訳ではありませんが、恐らくは、全て、実体験が、そのままに近い形で、書かれているのではないかと想像します。
主人公の峻は、妹を亡くして間もなく、姉夫婦の住む町に、養生のためにやって来る。
しばらく、姉夫婦の家で暮らす峻と、姉夫婦を始め、周辺の人々や、風景の、何気ない話が続く。
舞台となるのは、三重県の松阪市で、「城」というのは松阪城跡のことだそう。
もっとも、小説の中に、固有名詞は出て来ない。
ウィキペディアを読んでみると、この「城のある町にて」に登場する信子という女性は、房子という人物をモデルにしているということ。
この房子は、基次郎の姉の夫、つまり、義理の兄の妹だそうで、どうも、基次郎は、この房子に好意を持っていたのでは、と、言われているそうですね。
基次郎は、房子に積極的に話しかけることは無かったそうですが、房子が女子師範学校の寄宿舎に戻った後、姉を通じて、島崎藤村の本を一冊、送っているそう。
僕が、この作品が好きなのは、やはり、日常の何気ない風景や出来事が、巧みに描写されていること。
そして、梶井基次郎の作品の中では、比較的、明るく、爽やかな雰囲気があること。
この「日常の何気ない風景や出来事」を、巧みに描写して作品にするというのは、日本文学、私小説の特徴なのでしょう。
そういう「私小説」を批判し、嫌う人もいますが、僕は、大好きです。
個人的には、この梶井基次郎の一連の小説の雰囲気は、つげ義春さんの漫画の雰囲気に、よく似ているような印象があります。
つげ義春さんは、圧倒的に評価のある漫画家ですが、その漫画が「文学的」と言うことで評価をされていますよね。
この「文学的」とは、どういうことなのか。
専門的な知識がある訳ではないので、分析、解説をすることは出来ませんが、確かに、つげ義春さんの漫画からは、他の漫画家にはない「文学的」な雰囲気を感じる。
そして、その作品の「雰囲気」が、最も、近いと感じるのが、梶井基次郎の一連の作品なんですよね。
他の人は、両者の作品を読んで、どう感じるのでしょうかね。