日本の典型的な原風景と言って、普通、人々が思い浮かべるのは「緑の木々に覆われた里山と、稲の実る多くの水田」といった景色なのではないでしょうか。

しかし、この「日本の原風景」と思わている景色。

実は、明治以降、もしかすると、昭和に入ってから作られた景色だったということを御存じでしょうか。

 

では、かつて、日本の国土は、どのような風景をしていたのか。

戦国時代や、江戸時代に、日本の国内を見て歩いた外国人たちは、「日本の山は『禿山』ばかりだ」と記しているそうです。

つまり、かつて、日本に里山には、「木々の緑」は無く、「禿山」だったということ。

 

なぜ、日本の山は「禿山」ばかりだったのか。

それは、稲作のための「肥料」を取るためでした。

 

昔、日本の農業で「肥料」として使われていたものとして有名なのは、「肥」ということになるのでしょう。

つまり、人間の排泄物で、「肥溜め」というものも、日本の各地に存在した。

しかし、それ以上に、稲作に必要だったのは、「草」や「芝」だったそうです。

この「草」や「芝」を大量に田んぼに撒き、それを、みんなで踏み込んで、稲作の肥料にしたそうです。

この「草」や「芝」を取るために、農村の里山は、木々が生えないようにし、草や芝を生やして、肥料を確保していたということ。

当時、そういった里山は「草山」とか「芝山」と呼ばれていたそうです。

 

しかし、山に木々が無ければ、保水力が無く、雨が降れば土砂災害を起こすということは、現代でも言われているところ。

当然、江戸時代も、各地で、大きな災害が起きていたそう。

これは、幕府も問題視をし、この「里山」を保全するために、幕府は「土砂留め奉行」という役職を作り、各地に派遣。

村々の里山を管理させたそうです。

この「土砂留め奉行」と、農村に住む人々の生活を、ファンタジックな要素を交えながら、面白いエンターテイメント漫画にしたのが、青木朋さんの漫画「土砂どめ奉行ものがたり」です。

 

 

とても面白く、良い漫画です。

所々に、当時の状況の解説もあります。

 

この本の中の解説にありましたが、やはり、この「土砂留め奉行」による幕府の政策は、結局、上手く行かなかったそうです。

それは、なぜか。

 

「土砂留め」のために、里山を保全するということは、その里山からは、稲作の肥料になる「草」や「芝」が取れなくなるということ。

肥料が取れなければ、当然、米の収穫が減る。

米の収穫が減れば、年貢が減り、それでは、幕府も、大名たちも、困ることになる。

この「土砂留め」の政策には、大きなジレンマがあったということ。

 

これは、現代の「地球温暖化」の問題に似ていると、この本に書かれていました。

つまり「二酸化炭素」を減らさなければ「温暖化」が、どんどん進んで、人類の危機が訪れるということは自明のこと。

しかし、「二酸化炭素」を減らすということは、「経済活動」の低迷を生むことと同じで、これでは、人類は困ってしまう。

 

「環境保全」と「生活の向上」。

 

いつの時代も、ジレンマを生み、なかなか、難しいことです。