灯台の街へ行くなら、何か光る物を忘れずに。 -13ページ目

ぎしりと軋む古い木造の床板は今にも抜け落ちそうだ。


縁すら無い簡素な窓から外を見れば、
憂鬱な曇天と水平線の曖昧な白い海が見える。


視線を下に落とすと断崖絶壁で、
北陸の海を思わせる荒波が
長い年月を掛けて岩肌を喰い抜こうとしていた。


もし床が壊れて転落したら、
私は船蟲(ふなむし)と?(うつぼ)の餌食になった後で
切立つ岩の狭間に流れ着き、富士壺の家となるだろう。


考えても、ぞっとしない。




振り返り、木造の廃屋に意識を戻す。


窓以外に何も無い(玄関も電球も、本当に何も無い)
薄暗い部屋の隅で、
子供が膝を抱えて座っていた。


服は着ていないけれど、
少女か少年かの判別はつけられない。


中性的な雰囲気ではあるけれど、
なにより皮膚の劣化が酷かった。


腐敗しているのとは違う。
腐らずに、そのまま乾燥してしまったような、
いつ黴(かび)に犯されてもおかしくない苔色の肌。


ぱさついた前髪の狭間から覗く相貌にぽかりと空いた、
眼球を失って久しい両目が私を凝視していた。


無機質で生気は感じられないけれど、
ゆっくりと呼吸をしている。


吐息に混じり、子供の口からは白い糸が吐き出され、
空気をゆらゆら漂っては先端から消えていった。


煙のような糸を数本吐き出し続けている口腔を観察していると、
時折、何かを言いたそうに唇が蠢いた。




声を聞こうと近寄る。


近付くほどに、子供の肌の色は次第に赤みを帯びてゆき、
手を伸ばせば触れられる距離に近付いた時には、
生きてる人間の普通の色に戻っていた。


失われていた顔のパーツも元通りになっている。
顔は、私のよく知ってる顔だった。




ふと悪寒がして、慌てて私は自分の頬に手を触れる。
やけにざらざらした感触だった。


目の前に座っている幼い私が、無邪気に笑い始めた。




…その笑い声と、携帯の目覚ましアラームがリンクする。
慌てて飛び起きると、まず背中に嫌な汗を感じた。
うなされていたのだろうか。


…そしてカーテンの隙間から差し込む朝日の明るさに
一種の不安を覚えて時計を見れば、
長針が優しく遅刻確定を告げてくれた。


…本日の私、寝坊で遅刻。
未だ社会人として未熟。