ルゥ-シュは焦っていた。
日本に送りこんだ部下からの連絡が途絶えていたからだ。

何度か試みたが、部下の二人からの返答はなかった。
数時間前に確かに大統領の娘を捕らえたと連絡が入ったが、それから後の連絡が入らなかった。


当初の予定では、娘の様子を見ながら次の作戦に移るはずだった。
だが急にウ-サナとュグーニラとの連絡が取れなくなっていた。
最後の連絡では、娘を捕らえ眠らせてあるという事だった。

絶対にエルンゼの二人から、娘を引き離しておかなければならない。
エルンゼの二人が諦めるまでの間、娘を確保しておくようにというのがルゥ-シュからの指令だった。

今のまま事態が進めば、世界は間違いなく核戦争へ突入する。
ビスクールにとってはその方が都合がよかった。

下手に細工をすると、歴史が変わるおそれがあった。
それよりはこのまま娘の思うままにさせた方が良いと判断したのだ。

ただエルンゼの二人の動きは封じなければならなかった。
エルンゼに干渉させるわけにはいかなかった。
だが娘を握っているはずの二人からのその後の連絡がない。


ウ-サナは、ルゥ-シュが見こんで送り込んだ。
ュグーニラの突進する性格をわかって、うまくリード出来る冷静な頭脳を持っていた。
だがルゥ-シュはウ-サナに任せた事を少し後悔していた。
そこへまたカイ-アからの通信が入った。

ルゥ-シュは、カイ-アからの通信を無視したまま部屋を出て行った。
自ら日本へ向かうために。
もうウ-サナに任せたままでは心もとないと思った。

ルゥ-シュは移動する間もエルンゼの二人の事を確認していた。


ユークとタイート。
この二人がエルンゼから送りこまれた戦士だった。

タイートの名前を口にした時、ルゥ-シュの心の隅に甘い感情が浮かんだ。
ルゥ-シュの知らない感情だった。


なぜだろう・・・
タイートという名前が、遠い遠い記憶の中に吸い込まれていった。

理解できない感情に戸惑うルゥ-シュの瞳から一粒の涙が流れた。
涙は頬をつたい、右手の甲に落ちた。
不思議な思いで、ルゥ-シュはその涙を見つめた。

じっと見つめているうちに、ルゥ-シュの記憶の中に大きな1本の大木が浮かんだ。
その木はとても大きなもので、枝を幾重にも広げ丸い葉が豊かに茂っていた。

大木はルゥ-シュにはとても懐かしく、いつの間にかとても安らいだ気持ちになっていった。
空は青く白い雲がぽっかりと浮かび、暖かい日差しが降り注いでいた。
木の下にいると、葉影が優しく日差しをさえぎってくれた。
さわさわと風に揺れて木がゆるやかに震えていた。

木の下でルゥ-シュは木にもたれながら、柔らかい草の上に座っていた。
ルゥ-シュを心地よい風が包んでいた。

そして・・・
そこにはルゥ-シュの他に誰かがいた。
ルゥ-シュのすぐ横に。

しかし誰なのかはわからなかった。
誰だろう・・・
そう思ったルゥ-シュは静かに横を見ようとした。

もう少し・・・

顔が見える・・・

「ルゥ-」
横にいる誰かがそう言った。

-私のこと?-

そして横にいる誰かがルゥ-シュの方を見ようと顔を向けようとした。

もう少しで見えると思った瞬間、ルゥ-シュの頭が割れるかと思うほどに痛くなった。
その痛みは立っていられないほどの激しい痛みだった。

ルゥ-シュは思わずその場にしゃがみこんだ。
1分ほど時間が過ぎただろうか、痛みは嘘のように消えた。

短い時間だったろうが、ルゥーシュには永遠に続くかと思うような痛みだった。
ルゥ-シュは痛みももちろんのこと、さっきの白昼夢のような出来事がショックだった。


              つづく