ルゥ-シュ・・・

やっぱりビスクールにいたのね。
どうしてビスクールに行ったの?
ビスクールには行ってはいけないと言われていたのに。

ビスクールに行けば私たちは嫌でも争いの渦に巻き込まれてしまう。

どうして?

それになぜビスクールの戦士なの?

いったい何があったの?


ユークの脳裏に浮かぶのは、母に抱かれたルゥ-シュの無邪気な笑顔だった。
ユークの耳にはルゥ-シュの可愛い笑い声が聞こえるようだった。

父と母が生きていた頃は幸せだった。
エルンゼの片隅で、親子4人はひっそりと生きていた。
質素な生活だったが、戦いとは縁のない穏やかな生活だった。

この生活を手に入れるために、祖父はエルンゼに残る道を選んだ。
祖父の判断は正しかった。

ビスクールへ行った一族は戦いに明け暮れ、心休まる時はなかっただろう。
一族はビスクールの大地と同じように、心も荒れて行った。

だがエルンゼでも、時は公平に不幸を運んで来た。
やがて祖父が死に、父と母が病で死んだ後、ユークとルゥ-シュは別々の里親に引き取られた。

ユークは父の学友だった、ある学者の家に引き取られた。
義父はユークに学問を教えてくれた。
ユークも努力して優秀な成績を収め、学校を卒業した。

その一方ユークはルゥ-シュが気がかりだった。
ルゥ-シュがある旧家の家に引き取られた事は聞いていた。

子供の頃のルゥ-シュはおとなしく、可愛らしい少女だった。


ルゥ-シュと別れたのは10年前、ユークが6歳、ルゥ-シュはまだ4歳だった。

別れの時、ルゥ-シュはユークの袖をいつまでもつかんで離そうとしなかった。

「ルゥ-シュ。いい子でいるのよ。元気でね。」

「いやだぁ。いやだぁ~。ルゥ-は行きたくないの。ユークと、ずっと一緒にいる。どこにも行きたくない。」

ルゥ-シュは泣き叫んだ。
その声を聞いたユークは、このままあの人のところへ行こうかと思ったほどだった。

しかし幼い子供二人で、禁断の森には辿りつけないこともわかっていた。

「ルゥ-シュ、約束したでしょ。いい子でいるって。」

「ルゥ-は、ルゥ-はずっといいこだったでしょ。ユーク。」

「うん、そうだけど。これからは私はいないから。もっといい子でいなきゃいけないの。」

「もっと?」

「うん。ルゥ-シュ。大きくなったらきっと迎えに行くから。待っていて。ルゥ-シュ。」

ルゥ-シュは大きな瞳にいっぱい涙を浮かべて、ユークを見つめていた。

そんな二人を見ていた里親が二人がかりでやっと引き離した。

やがてルゥ-シュはユークの前から連れて行かれた。
ユークは遠ざかって行く、泣きじゃくるルゥ-シュを見ていた。
そしてどうかルゥ-シュが幸せに暮らしていてほしいと願った。


しかし・・・


それぞれの思いを抱いていた三人は、この後再会する事になる。
ただ過去を失ったままのルゥ-シュに二人への愛情が残っているかは甚だ不安が残るが・・・



                 つづく