マクビテクスはカイ-アを呼んだ。
ルゥ-シュのその後の動向を聞くためだった。

マクビテクスはルゥ-シュが今何をしているのか、何を考えているのかわからなかった。
早くルゥ-シュの所在をつかみたかった。
しかしカイ-アまで連絡がとれなくなっていた。

「全く、何をしている。肝心な時に、役に立たないやつだ。」

マクビテクスは持っていたコップを壁に投げつけた。
コップは壁にぶつかったかと思うと、壁の一部に吸い込まれるように消えて行った。
後には何の痕跡も残っていない。

これではマクビテクスの怒りは収まりそうも無い。
コップが割れてこそ気持ちも晴れようというものだが、まるで何事もなかったかのように消えては何にもならない。
マクビテクスは今は旧式のただの壁がほしいと思った。
不要なものを投げても、何も吸収しないただの塊の壁を。


マクビテクスは25歳を過ぎた。
もう老齢と言われる年齢に達していた。

ビスクールではエルンゼと同様に寿命が30年程しかない。
30歳を過ぎても、存命するのは非常に稀だった。
マクビテクスが自分の意志で動けるのはあと3,4年。

28歳を過ぎると、少しずつ体力、気力ともに衰えてくる。
29歳を迎える頃になるとどんな立場の者でも、一線を退くのがビスクールでの慣例だった。

しかしマクビテクスは後進に道を譲るなどという考えは全く無かった。
自分が常に最高の存在だと思っていたし、周囲からも思われていた。


マクビテクスは禁断の森に近い小さな村で育った。
家は貧しかった。

父親は偏狭な性格で、他の村人たちと親しく付き合う事を嫌い村はずれのあまり人の近づかない場所に小さな家を建て暮らしていた。

母はおとなしく気の弱い人だった。
父は不満や嫌な事があるといつも母を殴っていた。

母はいつもそんな父に脅え、背中を丸め下ばかりを見ていた。

夕方になり、父が帰宅する時間が近づくと、母の目は落ちつかなくなり指先が微かに震えていた。
母は父の逆鱗に触れぬようにと思うあまり、返って身体が硬くなりぎこちない動きになり粗相をしてしまう。
その事にイラついた父はさらに母を殴る。
そんな両親を二つ上の兄とマクビテクスは幼い頃から見てきた。


マクビテクスの12歳の誕生日の日だった。
兄は母に言った。

「母さん、一緒に村を出てタンドの町に行こう。」
母は恐ろしい者でも見るような目で我が子を見た。

「なんて恐ろしい。そんな事を考えていたなんて。」

「どうして?母さん、どうして町に行く事が恐ろしいの?」

「父さんが許すはずないからさ。父さんはそんな事絶対嫌がるよ。町にいた頃、父さんは父さんの親や一族とうまく行かなくて・・・だからあの人は町が嫌いなんだ。だから二人で町を出てこの村に来たんだ。」

「そうだったの・・・でも結局この村でも父さんはみんなの嫌われ者じゃないか。」

「だけど・・・それは周りの人がバカだからだって父さんいつも言ってるじゃないか。とにかく父さんは賛成してくれないよ。」

「いいんだよ。父さんが賛成しなくて。僕は父さんと離れたいんだ。僕は・・・町へは父さんを置いて、マクビテクスと母さんと三人で行くんだから。」

「お前・・・そんな事したって・・・父さんはどうするんだい?」

「父さんには黙って行くんだ。」

「・・・無理だよ。そんなことしたら、きっと父さんに見つかってしまう。」

「見つからないようにすればいいじゃないか。大丈夫だよ。絶対みつかりゃしないよ。」

「ねえ、そんな怖い事考えないで、おとなしくこの村で父さんと母さんと4人で暮らしておくれ。」

「嫌だよ。この村で僕に何をしろっていうんだ?こんな小さな村でびくびくしながら暮らしていくなんて、僕は嫌だ。」

「お願いだからこの話しはもう終わりにしておくれ。もし父さんの耳に入ったら殺される。」

「母さんはそれでいいの?毎日毎日、父さんに殴られたり、蹴られたり。こんな生活続けたいの?」

「母さんはいいんだよ。父さんだっていつか優しくしてくれる日が来るよ。だから二人とももう少し辛抱しておくれ。」

「母さん・・・・・」


その日の夜、兄とマクビテクスは故郷を二人で出た。
兄ともその後、離れ離れになってしまった。

マクビテクスは一人で生きる事になってしまった。



                  つづく