扶貴が自分の部屋で進路票を前に置いたまま音楽を聴いていた時母の声がした。
 
「扶貴!ちょっと焼き芋買ってきて。」
 
「焼き芋?」
 
「今さっき焼き芋の車が通ったのよ。そこの角にとまってるから。」
 
「うん。わかった。」
 
母の言ったように、焼き芋屋の小さな車が停まっていた。
 
「おじさん、お芋ちょうだい。」
 
「いくつ?」
 
「中ぐらいの4つ。」
 
「おまけ一つ入れとくよ。」
 
以外に若い声が返って来た。
扶貴は焼き芋屋の顔を見た。
そこには、20歳ぐらいの若者がいた。
 
「何?」
 
「ううん。別に。」
 
 
扶貴は少し顔を赤くしながら、焼き芋の袋を両手で抱え走るようにその場を去った。
「ありがとう。」
若者の声が小さく聞こえていた。
 
 
それから二日後。
扶貴は学校帰りの途中、工事現場の前を通った。
 
「あれ、また工事なんだ。」
つい近くでも最近まで工事をしていたことを思い出した。
「工事っていつ終わるんだろう?」
つぶやきながら通り過ぎようとした扶貴だったが、ふと赤い棒を持って車両を誘導している一人の作業員に気づいた。
 
二日前の焼き芋を売っていた若者だった。
「あっ。」
 
その声に、若者が振り返った。
若者は扶貴の顔を見たが思い出せないらしく不思議そうな顔をしていた。
 
若者は車が来ていないことを確認しながら話しかけた。
 
「えっと・・・誰だったっけ?」
 
「焼き芋屋さん、こんにちは。」
 
「あ~。あの時の。」
 
「思い出した?」
 
「うん。この間はお買い上げありがとうございました。」
若者はさわやかな笑顔で言った。
 
「ぷっ!やあだ。ねえ、昼間も働いてるの?」
 
「そうなんだ。」
 
「大変なんだ。」
 
「まあね。ねえ、ちょっと待っててくれない?」
 
「うん?」
 
「ここもうすぐ終わるんだ。何かおごるから。」
 
「うん。いいよ。」
 
 
                   つづく