「静かに!」
教室には教師の苛立った声が響いていた。
しかし教師の声は、生徒たちの声に吸い込まれるように消えていった。

普段からそうなのだろう、生徒たちは我勝手に話し続け、教室は騒々しいままだった。
女性教師が眉間に少し皺を寄せながら、教卓を叩いた。
さすがに教室に響いたバンッという音に生徒たちの視線が教師に注がれた。

「ちゃんと聞きなさい。みんなの進路の事ですよ。いいですか。進路票の提出は明日まで。必ず提出する事。以上。」
今度は教師の声に誰もが飲み込まれたように、教室の中は静かになった。


芙貴は困ったなと、思った。
今、扶貴は高校2年生。
進路の事はまだ全く決まっていない。
どちらかというと決められないのだ。

2年生になれば進学の準備を始めなければいけないことはわかっている。
しかし将来なにになりたいというものもないし、OLになって結婚してという平凡な人生も嫌だった。

友人たちは言う。

「とりあえず大学に行っとけば?やりたい事なんてそのうち見つかるわよ。」

「そうね。」
とは言ったものの、大学に行ったところで果たしてみつけられるのだろうかという思いもあった。


扶貴は自分の事を、オリオンのようだと思っていた。
今まで何か困ったことがあると、すぐに逃げてしまうことが何度かあった。

その事に目をそむけ嵐が通り過ぎるように時間が経つのを待った。
苦しみもないかわりに克服したときの喜びも感じる事がなかった。

これまではそれでも何とかなってきた。
そしていつの頃からか扶貴は小さい頃に聞いたオリオンの話がいつも胸をなんだかもやもやしたもので満たすようになった。


オリオンは冬の星座だ。
暴れ者だったため、大地母神ガイアがさそりを使い毒針で刺し殺した。
その後二人とも天に上げられ、星座になった。
空高く威張っているがさそり座が東の空に上がると、こそこそと西の空に沈んで隠れてしまう。


-私はオリオンみたい。じっと隠れて見ないようにして来た・・・でもしようがないじゃない。-
扶貴の心の中でもう一人の扶貴がそうつぶやいた。



                   つづく