やがてビスクールの人々はフェオーレのいさめには耳を傾けず、独立の道を選んだ。
その頃地球のすぐ近くに地球と同じ大気を持つ星が発見された。

その星には空気も水もあった。
ただその星には危険な物質があった。
放射能が星を包むように満ちていたのだった。
月の裏側にあるその星は地球と兄弟星と言ってもいいようなまるでそっくりな環境を持つ星だった。

その星にも昔は生物がいたのだろう。
そして互いに争い、大地を汚し、住めなくなって星を捨ててしまったのかもしれない。
あるいは放射能によって生物そのものが滅亡したのかもしれない。
いずれにしろビスクールが望む新しい大地は悠久の平穏を約束するように人々は思った。


ただその星にも放射能は残っている事はわかっていた。
だが人間が住めないほどではない事が新たに報告された。
地球ほどの放射能の量はなく、場所を限定すれば十分住めると学者たちは王に進言した。

少なくとも当時はそう考えられていた。
独立を考えていたビスクールの人達はこの星を自分達の新しい住処とする事にした。
だがフェオーレは拒んだ。

「あの星に行くのは危険だ。きっと災いが起こる。私は全ての民に責任がある。どうかもう少しゆっくり時間をかけて考えよう。」

しかしこのフェオーレの言葉は人々の耳に届かなかった。
失望したフェオーレは地球に残った。
ノーブル家としての地位も名誉も全て捨てた。
フェオーレの家族はエルンゼの隅でひっそりと暮らし始めた。

そして何十年か経った時、ビスクールの人々はフェオーレの言葉が正しかった事を知った。
ビスクールの大地はそれ自体が放射能を含んでいた。
そしてさらに悪い事に地下深くたまった放射能を徐々に放出していた事がわかった。
放出される放射能は最初こそ微量だったが、近年恐ろしい勢いで増えていた。

ビスクールでは放射能に侵される人が増え、それをとどめる術を人々は持たなかった。
このままでは近いうちにビスクールは人が住める場所ではなくなる。

報告を受けたオルグ王は国を代表する科学者の数人を呼びつけた。

「どういうことだ。ここはついの住処ではなかったのか・・・」

「はあ・・・」

「放射能を除去する事は出来ぬのか?」

「この星の地下何千メートル下から吹き出しております。それを止める事は不可能かと。」

「なに。それでも学者か!何のために膨大な研究費を出してきたと思っている?」

「はあ、ですが・・・」

「お前たちは私の国を潰す気か?」

「いえ、滅相もございません。ですが私達にもどうしようもない事でして・・・」

「ばか者!」

「申し訳ござい・・・」

「お前達のような役に立たぬ者に用はない。こいつ達を牢に入れておけ。」

「ははっ。」

こうしてビスクールでも有数の学者たちは牢に幽閉された。
その後、放射能を除去する事がどうしても出来ないと認めざるを得なかったたオルグ王はエルンゼにねらいをつけた。

「マクビテクス。エルンゼを我が領地にする。近いうちにビスクールの地は放射能に覆われ住めなくなる。その前にエルンゼに我が国を築く。」

「はっ。エルンゼですか・・・」

「そうだ。もはやそれしか方法がなかろう。」

「しかし、エルンゼにはあの者がおりますぞ。」

「わかっておる。しかしもはや我が敵ではない。」

「ですが・・・」

「そなたはそんなにあいつが怖いか?」

「いえ・・そういう訳では・・・」

「ならばよかろう。エルンゼはもともと我が故郷。故郷に帰るまでのこと。」

「しかし、ことはそう簡単には・・・」

「ならばうまく行くように計らえばよいではないか。」

「はあ・・・」

「そなたに任せる。」

「は?」

「何度も言わせるな。エルンゼの事は任せる。私は気が長くない。よいな。」

マクビテクスは少し困ったような表情を浮かべたが、すぐに神妙な態度になった。
「はい。かしこまりました」


下を向いて殊勝に見えたマクビテクスだったが、その顔には笑みが浮かんでいた。

マクビテクスの笑みに気付かずにオルグ王は満足そうに部屋を出て行った。


「ふふふふふ。ばか者め。それでよい。お前はそれでいいのだ。」


                      つづく