二人の会話を聞いていたタイートが、ユークに話しかけた。

「おい。」

「何よ。」

「さっきから車がついて来てる。」

「わかってるわよ。それぐらい。」

「何だ。気付いていたのか。」

「当たり前じゃない。どうせビスクールでしょ。」

「どうする?」

「どうするってここじゃ攻撃も出来ないでしょ。」

「だけど」

「わかってるわよ。このまま彼女達と会うのは危険だし。」

「そうだよ。危ないよ。」

「しようがないわね。ひとまず東京に行きましょう。」

「東京?」

「ええ。あなたの家。中野太一の家に行くのよ。」

「僕の家って。あの?」

「そうよ。ビスクールもあそこはつかんでないはず。」

「でもあの家は僕が休養する間だけの所だろ?」

「うーん。通常はそうなんだけど、でも今回はそうでもないらいいの。」

「そうなのか・・・」

「とにかく突っ走るわよ。」

「ああ。」

こうして三人は一路東京を目指して走り出した。

タイートが怪我を治す間、暮らしていた東京の家に向かって。


そしてタイートたちの後ろを追っているビスクールの車にもやはり三人乗っていた。


ュグーニラ、ウ-サナ、そしてもう一人ルゥ-シュだった。


しかし前を行くタイートとユークは自分達を追ってくるビスクールの車に探し続けるルゥ-シュがいることも、ルゥ-シュが自分たちの方に少しずつ近づいていることなど思いもよらなかった。

ましてそのルゥ-シュが今は自分達の敵となって向かって来ている事を。


ルゥ-シュはただニングを奪い返すことしか頭になかった。
それを妨害するものは何者も許す気はなかったし、許すなどという事は自分の破滅にしかつながらないと思っていた。

故郷の大きな木の下でタイートと過ごした穏やかな日々はルゥ-シュの記憶から抹殺されていた。
ルゥ-シュの胸にあるのはビスクールでのし上がろうとする野望だけだった。

タイート、ユーク、ルゥ-シュは皮肉にも敵同士として向かい合う事になってしまうのかもしれなかった。


そしてそれを待ち望んでいる、ある人物がいることをこの時三人は知らなかった。
おそらくその事実をしっているのは、当事者のあの男だけだっただろう。
それほどあの男は用意周到にことを運んでいた。

男は間もなく訪れる歓喜の時を待ちわびていた。
全てが男の思惑通りに動いているように見えた。

男は込み上げてくる思いを押さえきれずに、自分でも気付かぬうちにその顔に笑みを浮かべていた。
やがて男の笑みは顔だけでなく全身を揺さぶっていった。

男が切望した未来は刻一刻と近づいていた。
己が描いた邪悪な未来に向かって立っていた男は、ある種少年のような瞳で見えない未来を見つめていた。

「あっはははは・・・・・・・・・・・・・・地の上を這いずりまわって、せいぜい踊るがいい。私の愚かものたちよ。わたしの未来のために死に行くがいい。うまくいった時には、おまえたちの骸の前で、乾杯しようではないか。あっははははは・・・・・・・」



                  つづく