タイートとユークはニングを連れたまま、まだ町はずれにいた。
ニングは車の後ろでまた眠っていた。
まだ催眠剤の効果のせいか、眠気が取れないようだ。
あたりは真っ暗で、ただ時々鳥の鳴き声が聞こえてくるだけだった。
空を見上げたタイートはぽつりと言った。
「ああ、ここでは本物の星空が見えるんだな。」
エルンゼでは大気そのものが核戦争のため汚れてしまった。
天上を見上げても、くすんで何も見えないのは仕方がない。
しかし残された人々は星空を懐かしんだ。
そして地球全体を大きな球体で包んでしまった。
天上のバリアには、縦横無尽に走る防衛のための走査線が点点と見えた。
人々はそれを星と呼んだ。
タイートはその空を思い出した。
そしてその下で生きている多くの人たちのことを。
タイートの思いは故郷へ跳び、今は相容れない間柄になってしまった父のことを思った。
さらにその先には行方もわからぬ愛するルゥ-シュ。
-ルゥ-シュは今どこにいるのだろう・・・-
タイートのその思いは、すぐに答えを見つけることになる。
ただそこには、タイートもうっすらと危惧していた結果がまっているのだが・・・
「ちょっと。ねえ、聞いてるの?」
ユークに肩を思いきり叩かれたタイートは肩をさすりながら言った。
「なんだよ。痛いな。」
「ぼーっとしてるからでしょ。」
「ぼーっとなんかしてない。」
「してたわよ。」
「はい、はい。」
「もういいわ。あなたと遊んでるヒマはないのよ。これからのことなんだけど。」
「ああ。どうする?」
「もちろん母親に会わせるのが一番だけど。」
「だけどって?すぐに会わせればいいじゃないか。」
「ビスクールがこのまま黙っているかしら。」
「ああ。そうか。」
「少しはあなたも考えてよね。」
「考えてるよ。」
その言葉を待っていたように、ユークが美しい顔でにっこり笑った。
天使のように美しく愛らしい笑顔だ。
しかしタイートはその微笑みの中に少し意地悪なものを感じたが・・・
「じゃあ、聞かせてもらおうかしら。考えたって言うあなたの素晴らしいアイデアを。」
「だから・・・」
「だから?どうなの?」
「君の考えを先に聞こう。そうだ、そうしよう。」
ユークはタイートを面白そうに見ていたが、真剣な表情になって話し始めた。
「あの姉妹にまず会わせるのよ。なんと言っても三人は血のつながった姉妹なんだもの。」
「そうだな。三姉妹か。いいな・・・」
タイートは思わず顔がゆるんでいた。
その顔を見ていたユークの顔は少し怖かったが・・・
「バッカじゃないの。何言ってるのよ。」
「い、いや。ちょっと。」
「まったくもう。男ってこれだから嫌ね。」
「悪かったよ。」
「まあいいわ。それでさっきの話しの続きだけど、まず三人を会わせてあの二人から母親を説得してもらおうと思っているの。」
「そうだな。その方がいいかも。」
「母親の方も二人の娘の事もあって、会う事を怖れているんじゃないかと思ってるの。あの二人を見る限りではいいお母さんらしいし。」
「うん。僕もそう思う。」
タイートの頭には莉絵の面影が浮かんでいた。
「なんだか嬉しそうね。」
「そんなことないよ。」
「そうかしら。顔がにやけてるわよ。」
「えっ。そうか?」
タイートは自分の顔をなでまわした。
「本当に単純なんだから。」
タイートは顔を赤くしながら髪をポリポリとかくふりをした。
「ビスクールがこのまま黙っているとも考えられないし。用心しないと。」
「そうだな。」
ビスクールの名前が出たことで、またタイートは違う女性の面影を抱いていた。
男というのは忙しい生きもののようだ。
そんなタイートをユークは目の端で捉えながら、広がる闇の向こうにある不安と闘っていた。
つづく
ニングは車の後ろでまた眠っていた。
まだ催眠剤の効果のせいか、眠気が取れないようだ。
あたりは真っ暗で、ただ時々鳥の鳴き声が聞こえてくるだけだった。
空を見上げたタイートはぽつりと言った。
「ああ、ここでは本物の星空が見えるんだな。」
エルンゼでは大気そのものが核戦争のため汚れてしまった。
天上を見上げても、くすんで何も見えないのは仕方がない。
しかし残された人々は星空を懐かしんだ。
そして地球全体を大きな球体で包んでしまった。
天上のバリアには、縦横無尽に走る防衛のための走査線が点点と見えた。
人々はそれを星と呼んだ。
タイートはその空を思い出した。
そしてその下で生きている多くの人たちのことを。
タイートの思いは故郷へ跳び、今は相容れない間柄になってしまった父のことを思った。
さらにその先には行方もわからぬ愛するルゥ-シュ。
-ルゥ-シュは今どこにいるのだろう・・・-
タイートのその思いは、すぐに答えを見つけることになる。
ただそこには、タイートもうっすらと危惧していた結果がまっているのだが・・・
「ちょっと。ねえ、聞いてるの?」
ユークに肩を思いきり叩かれたタイートは肩をさすりながら言った。
「なんだよ。痛いな。」
「ぼーっとしてるからでしょ。」
「ぼーっとなんかしてない。」
「してたわよ。」
「はい、はい。」
「もういいわ。あなたと遊んでるヒマはないのよ。これからのことなんだけど。」
「ああ。どうする?」
「もちろん母親に会わせるのが一番だけど。」
「だけどって?すぐに会わせればいいじゃないか。」
「ビスクールがこのまま黙っているかしら。」
「ああ。そうか。」
「少しはあなたも考えてよね。」
「考えてるよ。」
その言葉を待っていたように、ユークが美しい顔でにっこり笑った。
天使のように美しく愛らしい笑顔だ。
しかしタイートはその微笑みの中に少し意地悪なものを感じたが・・・
「じゃあ、聞かせてもらおうかしら。考えたって言うあなたの素晴らしいアイデアを。」
「だから・・・」
「だから?どうなの?」
「君の考えを先に聞こう。そうだ、そうしよう。」
ユークはタイートを面白そうに見ていたが、真剣な表情になって話し始めた。
「あの姉妹にまず会わせるのよ。なんと言っても三人は血のつながった姉妹なんだもの。」
「そうだな。三姉妹か。いいな・・・」
タイートは思わず顔がゆるんでいた。
その顔を見ていたユークの顔は少し怖かったが・・・
「バッカじゃないの。何言ってるのよ。」
「い、いや。ちょっと。」
「まったくもう。男ってこれだから嫌ね。」
「悪かったよ。」
「まあいいわ。それでさっきの話しの続きだけど、まず三人を会わせてあの二人から母親を説得してもらおうと思っているの。」
「そうだな。その方がいいかも。」
「母親の方も二人の娘の事もあって、会う事を怖れているんじゃないかと思ってるの。あの二人を見る限りではいいお母さんらしいし。」
「うん。僕もそう思う。」
タイートの頭には莉絵の面影が浮かんでいた。
「なんだか嬉しそうね。」
「そんなことないよ。」
「そうかしら。顔がにやけてるわよ。」
「えっ。そうか?」
タイートは自分の顔をなでまわした。
「本当に単純なんだから。」
タイートは顔を赤くしながら髪をポリポリとかくふりをした。
「ビスクールがこのまま黙っているとも考えられないし。用心しないと。」
「そうだな。」
ビスクールの名前が出たことで、またタイートは違う女性の面影を抱いていた。
男というのは忙しい生きもののようだ。
そんなタイートをユークは目の端で捉えながら、広がる闇の向こうにある不安と闘っていた。
つづく