・・・そして己の才覚だけでここまで来た。
もし兄と一緒だったらと思う事は何度かあった。
しかし兄と会う事はできなかったし、探すすべもなかった。

その兄は今どこにいるのか・・・
もう死んでいるだろうと、なぜかマクビテクスは思っていた。

そう思う事で兄と決別し、欲望のままに突き進む事が出来たのかもしれなかった。
こうして故郷も親も捨てて、生きて来た人生だった。

しかしマクビテクスの非情さが今の地位を築いたのだった。
時たま思い出す兄の事も、野心の前には霧のように消えて行った。


「こうしてはおられぬ。」
マクビテクスは、再びカイ-アを呼んだ。
今度はカイ-アの慌てふためいた声が聞こえてきた。

「今すぐ来い。」

「はっ。申し訳ありません。」


やがてカイ-アは汗をかきながらやって来た。
マクビテクスはカイ-アの顔を見たとたん、怒りが込み上げて来て思わず怒鳴りつけた。

「何をしていた?」

「はっ。それはその・・・」

「もちろんルゥ-シュの居所はつかんでおろうな。」

「は・・・それが・・・」

「ばか者。いったい何時間かかっておる。女一人、思うように操れぬのか!」

「申し訳・・・」

「もういい。お前では埒があかぬ。奴を呼べ。」

「はいっ。すぐに。」

「奴に任せるしかなかろう。」

「はあ。奴ですか・・・」

カイ-アの脳裏には、男の冷酷な瞳が浮かんだ。
思わずカイ-アは身震いした。

「エルンゼの奴らはそれでよいが・・・ルゥ-シュはどうするか・・・」

カイ-アの耳にはつぶやくマクビテクスの声が聞こえていた。


マクビテクスは少しの間考えていたが、ぽつりと少し笑みを浮かべながら言った。

「・・・しかし、ユークが出て来れば一度に片付くが・・・これはひょっとすると吉兆かもしれぬ。ふふふっふふふ。」

マクビテクスの後ろ姿をカイ-アはじっと見ていたが、やがて何かを決意したかのような顔できびすを返し、背を向け歩き出した。


「急がねばならぬ。一刻も早くお伝えしなければ・・・」

カイ-アは静かに、だがその足は速度を増して行った。


                つづく