「はっ。まことに。オルグ様は、聡明でいらっしゃる。」

マクビテクスは静かに王をたたえた。
オルグ王は、マクビテクスの言葉に少しホッとしたような表情を見せた。

「それでルゥ-シュの洗脳はうまくいっているのだな?」

「それは今後のルゥ-シュ様の働きを見ればわかるでしょう。」

「洗脳はうまくいったと聞いたが・・・」

「ですが王家の血を受け継いでおられますので。いましばらくは・・・」

「ふんっ。神聖なる王家の血筋というわけか。」

「オルグ様も王家の血筋でございましょう。」

「王家の血筋だと。そんなもの何の役にもたたぬ。今この国を治めているのは分家と軽んじられた俺だ。」

「おお、それはもちろん偉大なるオルグ様です。本筋と申されましてもルゥ-シュ様は今はオルグ様に仕える身でございます。」

「当然だ。この国をここまでにしたのは我が父であり、私なのだ。」

「はい。私は若き頃より偉大なる指導者をこの目で見てまいりました。」

「ルゥ-シュなどただの兵士に過ぎぬ。俺の思うままに動かなければ生きて行けないのだ。わが祖父がキーケルの祖父の愚かさに落胆し、民を連れてエルンゼを出てから40年以上。
ビスクールは強大な国となった。今やエルンゼなど怖れるに足らぬ。ビスクールの足元にも及ばぬではないか。」

「まことに、さようでございます。ですが・・・」

「わかっておる。エルンゼを我がビスクールのものにするのももうすぐだ。もともとこの計画を私に発案したのはお前ではないか。」

「はい。このままではビスクールに住み続ける事はできないのです。汚染は町に広がりつつあります。民の中には病人も既に大勢、出ております。今は伏せておりますが、近いうちに多くの民のしるところとなりましょう。」

「だからエルンゼを我が地とし、エルンゼの奴らを残らずこのビスクールの民とそっくり入れ代える。そうであろうが。」

「はい。ですが一つ懸念している事がございます。」

「何だ?」

「もしルゥ-シュ様が今度の計画をうまく成し遂げた後、どうなさるのです?」

「ふっ。またルゥ-シュか・・・」

「ビスクールの中にはルゥ-シュ様を正統な指導者と思っている者もおるようで・・・」

「バカな奴らだ。ルゥ-シュごときに何が出来る。」

「はぁ、ですが念には念を。」

「ルゥ-シュが失敗すれば次の戦士を送りこむまで。成功した場合は・・・ルゥ-シュは病気になるか不慮の事故で死ぬか。どちらにしても二度と私の前に現われる事はない。」

「なるほど。さすがオルグ様。私が余計な口出しをする必要はございませんでしたな。」

「もうよい。下がれ。」

「はっ。では。」

マクビテクスは頭を軽く下げると部屋を後にした。
部屋を出たマクビテクスは、笑っていた。

その顔には謎めいた微笑が張りつき、見るものを凍らせるような冷たさがあった。


                つづく