その頃、ビスクール帝国を支配するオルグ王は自分の執務室にいた。

オルグ王の執務室は、広く美しかった。
柔らかな光が天井や壁から降り注ぎ、調度品はシルバー色で揃えられていた。

部屋の奥には、大理石のように輝く白い石に彫られた胸像が2体飾られていた。
一つはオルグ王。
もう一つは前の王。すなわちオルグの父だった。

さらに二つの胸像の上には大きなオルグ王の肖像画が、部屋に入って来た全てのものを見下すように掛けられていた。
そして肖像画から視線を下に下ろすと、同じ顔をしたオルグ王が冷たい瞳で来訪者を見ていた。

部屋に入って来たもの全てが身体の芯まで、凍るような気持ちになる。
ギュッと縮みそうな心臓をつかみ、氷の刃で貫かれるような気がした。
この部屋にはそんな冷たさが溢れていた。

その部屋に声が響いた。
男の声は低く、少しかすれていた。

「オルグ様。」

「マクビテクスか。」

「入れ。」

部屋に入って来た男は、背が低く痩せていた。
オルグ王の前に来ると、表情一つ変えず王に言った。

「お呼びでございますか。」

「ああ。そうだ。ルゥ-シュはどうしてる?」

「ルゥ-シュ様ですか。それはもう立派な戦士におなりです。」

「そうか。」

「やはり気になりますか?」

「ん?いや。」

「そうですか?気になさっても当然だと思いますが。」

「黙れ。気になどしておらん。」

「ほっほほほ・・・」

マクビテクスが笑うのをオルグ王は少し苦い表情で見たが、すぐに問いかけた。
「それで21世紀の日本は今どんな状況だ?」

「それはルゥ-シュ様から直接ご報告があると思いますが・・・」

「うまく行っているという事か?」

「いや、それもあの件を士気しておられるのはルゥーシュ様ですから本人にお聞きになる方がよいでしょう。」

「逃げる気か?」

「とんでもない。わたくしはルゥ-シュ様に敬意を払っているだけでございます。オルグ様。」

「見えすいたことを言うな。」

「とんでもない。私は心の底からルゥ-シュ様には感心しているのですよ。」

「ふんっ。」
オルグ王はマクビテクスの真意がわからずじっと見つめた。

「ルゥ-シュ様はエルンゼなどというバカな国でお育ちになられた割には立派な軍人になられました。最初にお会いした時には想像も出来ませんでしたが。さすが・・・」

「わかった。もういい。ルゥ-シュがどんな成果を上げるかはわからん。失敗すればまた次の策を考えるまでだ。そうであろう?」

オルグ王はマクビテクスの言葉をさえぎるように言った。
まるで聞きたくない事に耳をふさいでしまいたいかのようだった。

そしてマクビテクスはそんなオルグ王の態度に何の不審さも感じていないようだった。
まるで最初からオルグ王がそうするのがわかっていたように。



                  つづく