ビスクールの戦士に後をつけられているとは知らずに、ユークとタイートはニングの泊まっているホテルへと向かった。

フロントへ行くとユークは小椋登志子と名乗り、ニングの部屋にアポイントをとった。
最初はお付のメイドでも出たのだろう。
しばらく話していたが、そのうち相手が代わったらしくフロントの口調が替わった。

やがて受話器を置いたフロントの男性が、最上階のスイートルームの部屋番号を告げた。
ユークとタイートはエレベーターでニングのもとへ向かった。

部屋の前には屈強な男が二人立っていたが、ユークとタイートがドアに向かっても何も言わなかった。
ドアを軽くノックしたとたん、すぐに静かにドアが開けられた。

ドアの前に立っていたのは栗色の髪を後ろに束ね、黒いワンピースをまとった30過ぎの女性だった。
二人を見ると警戒感をあらわにドアの前に立ちふさがった。

「小椋登志子だけだと聞いています。あなたは入れません。」
タイートに向かって言い放った。

「いいじゃないか。僕も用事があるんだ。」

「だめです。あなたは入れません。」

そう言うとドアの前に立っている男に目で合図をした。
「早く向こうに連れて行きなさい。」

するとタイートは両脇から腕をつかまれそうになった。
思わずタイーとは身体を沈めたかと思うと、二人の男の背後に廻った。
あわてて向き直った一人にあざやかな飛び蹴りを入れると、向かってくるもう一人の男のみぞおちに右腕で鋭い突きを入れた。
二人の男は倒れ込んだがすぐに起きあがり、タイートに向かって構えながらじりじり迫ってきた。

「もういいわ。私が一人で行ってくるからあなたはここで待っていて。」

「でも・・・」

「いいから。」
そう言うとユークは一人で部屋に入って行った。

案内された奥の部屋にニングはいた。
しかし部屋に入って来たユークを見ると、ニングは鋭い瞳で睨むように見ながら言った。

「誰?」

ユークは平然と答えた。
「小椋登志子です。」

「うそ・・・あなたは小椋登志子じゃない!出て行きなさい。」

「ええ。私はあなたのお母さんじゃないわ。」

「どうして知っている?」

「私、あなたの妹たちに頼まれたの。」

「いもうと?」

「ええ。あなたとは父親がちがうけど。」

「何を頼まれた?」

「お母さんともう一度会ってほしいって。」

「どうして?」

「どうしてって、あなたのお母さんだからよ。」

「・・・でも母は私を拒絶した・・・受け入れてくれなかった。」

「それは驚いたからよ。気持ちが動転して思ってもいない事を言ってしまった事を後悔しているの。だからもう一度ゆっくり会えば大丈夫よ。実の親子なんだもの。」

「でも・・・」

「考えている場合じゃないでしょ。あなた、お母さんに会うためにわざわざ日本まで来たんでしょ。」

「そう。そのために父の反対を押しきって・・・」

「じゃあ決まりね。今から行きましょ。」

「ええ。」

そばで見ていたさっきの女性があわててニングを止めようとした。
「ニング様、お待ち下さい。」

「止めないで。私には、今しかないのよ。わかってるでしょ。」

「・・・」

ニングの言葉に見るからに厳格そうだった女性の顔がふっと優しくなった。
「わかりました。」


部屋から出たユークとニングを見たタイートはホッとした。

ユークが部屋に入ってから警備の男たちとは睨みあいが続いたままだったし、なにより部屋の中で交わされている話し次第によっては強行手段に出なければならなかった。

ユークが微笑みながらニングと出て来た時、タイートは心の中でガッツポーズをした。


こうしてユークとタイート、ニングの三人とお付の女性は、エレベーターに乗り込んだ。
もちろん二人の警護も一緒だった。
エレベーターの中は、6人も乗ったため少し狭く感じるほどだった。

相変わらずタイートと警護の二人とは友好関係を築ける節はなかった。


息詰まるような時間を過ぎて、エレベーターから降りた一行をじっと見ていたのはビスクールの戦士たちだった。
二人は先に1階ロビーから出ると駐車場へ向かった。

やがて大きなワゴン車がホテルの玄関前につけられた。
そこへニングたちが乗るはずの大きなリムジンがワゴン車の後ろに停まった。
ニングたちはリムジンを見るとロビーから出ると、ホテルの豪華な自動扉を通った。


一行の先頭に、ニングが立っていた。
普段なら警護がニングを間に進むところだろうが、やはり少し気持ちが焦っていたのだろう。
警護の二人を、ニングが目で制していた。


その時だった。
両脇にいた警護の二人の胸に、レーザー光線のような光が飛んだ。

二人の男たちは何事が起きたかわからないまま、目を大きく開き倒れ込んだ。
少し焦げたような匂いがして二人の男の胸に小さな穴が開き、洋服の胸が丸く燃え焦げていた。
焦げた服の丸い穴から少し煙が立ち昇っていた。
男たちはうめきながら転がっていた。


不意をつかれたのはユークとタイートも同様だった。
一瞬動けなかったのは油断だと言うのはあまりにもかわいそうだろう。

その時素早く動いたのはビスクールの戦士たちだった。
同じように立ちすくんでいたニングの腕を、ュグーニラが引っ張ると自分たちが乗っていたワゴン車に引きずりこんだ。


ユークとタイートがワゴン車に一歩踏み込もうとした時見たものは、ニングのこめかみに突きつけられたレーザー銃だった。


「ご苦労だったわね。この子はいただくわ。」
ウ-サナがくるくるした目を輝かせながら言った。

「待て。お前たちは何者だ?」

「さあ、何者かしらね~。でもお前たちに答える必要もないな。」

「お前たち?まさかビスクール?」

「ほんとにお前たちは間抜けだ。わざわざ私たちを案内してくれたのだからな。」

「くそ。ニングを返せ。」

「返すわけないだろ。馬鹿じゃないのか。」


今までの会話は男のようだが、全て女性同士の間で交わされたものだ。
すなわちユークとュグーニラの二人だ。

「さあ、行くよ。」
ウ-サナは車を発進した。


ユークとタイートは呆然と見送るしかなかった。



                つづく