呆然とするタイートを、ユークが軽く引っ張った。

二人はニングたちから見えないように、隣家の庭との境目にいたのだが思わずタイートは少し前に出ていた。
幸いにもニングたちは気づかなかったようだ。

母親は少女に向かって言った。

「おかえり。莉絵。早かったのね。」

「うん。部活、先生の都合で休みになったの。」

「そう・・・」

「お客様?」

「え、ええ。でももうお帰りなの。」

その会話を聞いていたニングは、何も言わず走り去った。
ニングの様子を見ていた莉絵は母に言った。

「どうしたの?泣いてたみたいだったけど。」

「さあどうしたのかしら。最近の子って、お母さんにもよくわからないわ。」

「でも・・・」

「さあ、もういいから。早く入って。」
そういうと莉絵は家の中に入って行った。

ユークとタイートは、ホッと息をすると家の前に出て来た。

「さっきの何?」
ユークは不機嫌そうにタイートに聞いた。

「ごめん。つい・・・」

「もう少しで見つかる所だったじゃないの。」

「あんまりびっくりしたもんだから。」

「ルゥ-って言ってたわね。」

「うん。ルゥ-にそっくりだった・・・」

「ルゥ-ってあなたの恋人だった人?」

「ちがう。だったじゃなくて今も恋人だ。」

「あら、ごめんなさい。今も思いつづけてるってわけね。」

「でもどうして・・・」

「そんな事ただの偶然でしょ。」

「でも似すぎてる。」

「そんな事、よくある事でしょ。確かこの世界ではよく似た人間が三人いるとかいう言いまわしがあったわ。あ、そうそう他人の空似っていうのよ。」

「わかったよ。偶然なんだ。そう思う事にするよ。」

「そうよ。とにかく任務中は私情は捨ててちょうだい。エルンゼの運命は・・・」

「わかってるよ。僕たちにかかってるのは。」

「わかってるならいいけど。あなたを見ていると心配になるわ。」

「悪かったね。心配かけて。それでこれからどうするんだ?」

「ニングはホテルに帰ってるはずだから、向こうでニングに接触しましょう。」

こうして二人はニングの母親の家を後にした。



                    つづく