するとユークがタイートに言った。

「さあ、タイート。これからブリ-フィングをするからついて来て。」

「ああ。わかった。」

総司令官室とは円筒の廊下でつながれた別棟の奥の部屋がユークの部屋だった。
ユークは部屋の右にある応接セットに座ると、タイートを上から見るように視線を送ると言った。

「どう、気分は?」

「まあまあだよ。」

「あら、そう。」

「それで僕の任務は?」

「まあそんなにあわてる事ないじゃない。せっかく2007年の東京から帰ってきたんだから、少しお話しましょうよ。」

「冗談じゃない。僕にはキーケル総司令官からの命令があるんだ。一刻も早く任務を始めたいんだ。」

「ふふ。相変わらずね。本当にあなたって真面目すぎて面白くないわね。」

「面白くなくて、悪かったね。さあ早く、詳しい事を教えてくれ。」

ユークはやっと真顔になった。
タイートは扱いにくい相手に、心の中で苦笑いが浮かんでくるのを感じていた。

「あはは。それじゃ始めるわよ。あなたには2003年の東京に行ってもらうの。そしてそこでニングという女の子に会ってほしいの。」

「ニング?」

「ええ。ニングこそ我がエルンゼの命運を握っている人物よ。」

「いったいそいつは何者なんだ?」

「ニングはウゴルーガ国の大統領の娘よ。大統領と言ってもウゴルーガは大統領の考え一つで国が動いているの。もちろん選挙もないし、まああったとしても100パーセントの得票で大統領が勝つでしょうけど。」

「ふーん、すごい独裁体制だな。」

「ええ、大統領やその親族たちを守るために国民は厳しい生活に耐えているのよ。最近は水害や干ばつが続いて不作続きで、わずかな食糧さえも上層部だけで、国民には行き渡っていないしね。飢餓で死んでいる人もかなりいるわ。」

「それでニングっていうやつは東京で何をしているんだ?」

「名目上は観光という事になってるけど、本当の目的は母親に会う事よ。」

「母親?」

「ええ。ニングの母親は日本人なのよ。」

「へえ。そうだったのか。」

「昔大統領が若い頃、少しの間日本にいた事があるの。その時ニングの母親と恋に落ちて生まれたのがニングよ。」

「どうしてその時結婚しなかったんだ?」

「大統領には生まれた時から結婚する相手が決まっていたからよ。」

「そんなもの、どうでもいいじゃないか。ほっといて結婚しちまえば良かったんだ・・・」

そう言ってタイートは遠くを見た。
この部屋にはいない誰かを。

「でもそういうわけにはいかないものよ。そうでしょう?」

「・・・しかし、大事な人は自分で守らなきゃいけないんだ。そうしないと結局大事な人を失ってしまう事になるんだ。」

「そうね。でも大統領には踏み切れなかった。そして帰国する時、大統領はニングだけを連れて帰った。」

「母親は子供を連れていくのを承知したのか?」

「ばかね。そんな事承知するわけないじゃないの。無理やり力ずくで奪ったのよ。母親はその後姿を消したらしいんだけど、事情を知ったニングが母親の居場所のてがかりをつきとめたの。それで母親に会うために日本に来ているの。」

「それで僕は何をすればいいんだ?」

「まず、ニングに接触して。後の事はその都度指示するわ。」

「その都度って、君も行くのか?」

「あたりまえじゃないの。こんな重大な任務をあなた一人に任せられないでしょ。」

「そりゃそうだけど・・・」

「それとも私に不満でもあるのかしら。」

「い、いや。そんな事はないよ。」

タイートはユークと一緒の任務という事を聞いていささか憂鬱になって来た。
またユークに振り回されるのかと思うと、任務を返上したいがそういうわけにもいかない。

そんなタイートを見ながらユークは面白そうに唇の端が上がっている。



                   つづく