タイートが旅立ってから1ヶ月ほど経った頃、キロイがルゥ-シュを呼んだ。

「ルゥ-シュ、お前に話がある。」
ルゥ-シュはキロイの少し苦しげな様子を見て、底の見えないような不安に包まれた。

顔色を青白くしたルゥ-シュは、幼い頃から持っていたお守り代わりの石を握りしめた。

「おじ様、お話って?」

「ルゥ-シュ、いい話なんだよ。」

「え?」

「お前の許嫁のライカから頼まれたよ。来月には結婚式を挙げたいそうだ。」

「えっ、でも・・・」

ルゥ-シュは困惑していた。

タイートはまだ軍隊に上がったばかりだ。
しばらくは帰って来れないだろう。

どうすればいいのか考えあぐねたルゥ-シュをチラッと見、キロイは目をそむけるように少し下を見ながらなおも続けた。

「来週の復活祭にここに来るそうだ。ライカは待ちきれないんだよ。」

「そんな。私、タイートが帰って来るのを待つって約束したんです。」

「いや、それは忘れてもらいたい。私はお前たちの事は知らないよ。」
キロイはあくまでも二人の事はなかった事にするつもりだった。

「でも・・・」

「ルゥ-シュ、わかっているだろう。お前とタイートの事は許されないのだ。私だって・・・」

「私、タイートを愛しているんです。タイートも同じです。お願いします。私たちの結婚を許して下さい。」

「そんな事、許せるはずがないだろう。」

「私の身分が低いからですか?誰もいない独りぼっちだからですか?」

キロイは言いにくそうにしていたが、だんだん苛立ちを抑えきれなくなっていた。

「ええい。もういいだろう。お前とこの事について話す気はない。お前は私のいう事を聞いていればいいのだ。」

「おじ様・・・」


ルゥ-シュは悲しくて悲しくて、涙をこぼした。
その様子をみていたキロイは、ルゥ-シュの肩に手を置いて言った。

「ルゥ-シュ、私はお前の事を本当の娘のように思って育ててきた。そう・・・あの時。」

キロイは遠くを見つめるように窓の外を見ていた。
「だから私はあの事を一族にも黙ってお前を引き取ったのだ。」

「え?あの事って?」

「・・・あ、いや。何でもない。」

「でも今みんなに黙ってって。あれって何の事?」

「何でもないと言っただろう。これ以上話す事はない。来週にはライカとの結婚式だぞ。いいな。」

「おじ様、待って。」

キロイはルゥ-シュの言葉に何も答えぬまま部屋を出て行った。


1週間後、明日はライカとの結婚式が行われるという日の夜、町はずれの道を一人歩くルゥ-シュの影があった。

結局タイートと連絡がつかなかったルゥ-シュは、家を出る決意をするしかなかった。

そんなルゥ-シュが向かっているのは禁断の森だった。
ルゥ-シュはなぜ禁断の森へ向かうのか・・・

2度と戻れないとわかっている禁断の森に何がルゥ-シュを待っているのだろうか・・・


                    つづく