そして全てを吹っ切るように柴田は言った。

「葉子さん、どうぞ遺産を受け取って下さい。
これは会長が絹子さんに出来るたった一つの事だとおっしゃって残されたものです。
お金という形になってしまいましたが、会長は本当に絹子さんを、そして葉子さんやご家族を愛していました。それをわかっていただきたいのです。」

「おじいちゃん・・・」
葉子の瞳に涙が溢れた。

「わかりました。お祖父ちゃんからのプレゼントですね。私、お祖父ちゃんからのプレゼントをいただきたいと思います。」

「本当に良かった。会長も草葉の陰で、喜んでいることでしょう。それでは、早速手続きに入りましょう。」
柴田はホッとしたのか、肩から息を吐いた。

そして葉子が、柴田に言った。

「いただきますが、でもしばらくは柴田さん預かってくれませんか?
私もう少しゆっくりこれからの事、自分のやりたい事を考えてみたいと思います。
それからお祖父ちゃんからの気持ちを有効に使いたいと思います。」

「わかりました。それまでお預かりしましょう。
そして田村さん、この事はあなたが証人になって下さい。いいですね?」

「しようがないですね。これも父の伝言かもしれません。私が今度の事に関わる事になったのも何十年も前に決まっていたという事でしょう。父が上の方から見ているような気がしますよ。はははっ。」

「そうかもしれませんな。田村伍長なら、そうしているかもしれません。そんな人でしたよ。あなたのお父さんは。」

田村は柴田の言葉に、父が笑っている姿が浮かんだ。

「それは引き受けますが、柴田さんもお孫さんが立派な弁護士になるまで頑張って下さい。父もきっと向こうでそう言っていますよ。」

「はい。ありがとうございます。」

柴田はメガネをはずし、テーブルの上に置いた。

話を聞いていた葉子が、不思議そうに言った。

「あの一つ気になっている事があるんですけど。」

「何でしょうか?」

「私にかかってきた脅迫電話のことなんですが。あの電話は柴田さんの息子さんの声とは違っていました。さっき室長が聞かせてくれたテープを聴いてはっきりわかりました。」

「その事で会っていただきたい方がいるんですよ。」

そう言うと柴田は、奥の部屋に通じるドアを開け、中に向かって言った。

「長らくお待たせしました。どうぞ。」


                 つづく