そう言いながら柴田はなぜか葉子の顔を見つめていた。
「へええ、恋人がいたんですか?」
葉子は思わず聞き返した。
「ええ。いらっしゃいました。末を約束された方が。」
「じゃあどうして社長の一人娘と結婚したんですか?やっぱり出世したくなったという事ですか?その恋人だった人、かわいそうですね。」
「その恋人が会長の縁談の話を聞いてしまったんです。」
「えっ!」
「それでその人は、会長の前から黙って姿をけしてしまいました。」
「そんな・・・」
「会長もずいぶん探したんですが結局見つけられなくて・・・失意の会長は結局縁談を受ける事にされたのです。」
「そうだったんですか・・・」
「きれいな人でした。絹子さんは・・・」
「会長の恋人だった人って、絹子さんっていうんですか?へええ。
そう言えば私の祖母も絹子っていう名前なんです。」
「ええ。存じております。」
「えっ?祖母の名前まで調べたんですか?」
「ええ・・・まあ。」
二人の会話を聞いていた田村がつぶやくように言った。
「柴田さん、まさか・・・」
「ええ、そのまさかだったのです。」
「いったいお二人とも何をおっしゃっているんですか?」
田村が納得したように、顎をなでながらつぶやくように言った。
「そうか!そういう事だったんですか。それで・・・いや、しかしそんな事があるなんて。ちょっと待って下さい。」
そう言うと田村は小さなカセットレコーダーを取り出した。
背広の内ポケットから小さなレコーダーを取り出した。
「ちょっと、これを聞いて下さい。」
-まだなの?早くしないと逃げられる。-
聞こえて来たのは、瀬津の思いつめたような切迫した声だった。
瀬津は、ヒステリー状態になっていたようだった。
-すいません。もうすぐです。-
柴田の焦った声が聞こえて来た。
-お母様、もう諦めるしかありませんわ。変な連中も出て来たし。-
摩椰が瀬津をなだめるように話している。
-何を言ってるの?バカな事を言うんじゃありませんよ。
あんな女に10億も持って行かれるのよ。摩椰さん、あなたはそれでいいの?-
-だって仕方ありませんわ。お父様のご意志では・・・-
-冗談じゃないわ。あの人の意志なんか・・・全部あの女が仕向けたのよ。あの性悪女。あの女が・・・絹子が仕向けたのよ。-
-絹子?絹子って?-
-ああ、もう!絹子よ。わからないの?絹子・・・あの女さえいなければ。
あの人だって私を愛してくれたのに。あの人は結局死ぬまであの女の事だけを愛していた。
あの人は私の事をただの一度も愛してくれた事はなかった・・・-
-お母様?-
-もううるさいわね。早く追いついて。絹子を殺すのよ。-
田村はレコーダーを止めた。
「これは我々が仕込んでおいた盗聴器の音を録音したものです。どうやら瀬津さんは絹子さんと葉子さんの区別がつかなくなっていたようですね。」
柴田は苦いものでも飲んだような顔をしていた。
「奥様は少し精神状態が不安定になっていたのです。私がもっと早く気がつけばよかったんですが。」
「それはやはり葉子さんの事がきっかけに?」
「それは何とも・・・」
「ですが・・・」
「・・・会長は運命というものは残酷だと言っておられました。」
「そうですか・・・運命ですか・・・しかしそれにしても何というめぐり合せなんでしょう・・・でも会長はいつその事を知ったんですか?」
「事故の事を会長がお知りになった時、言っておられました。奥様のされた事は息子かわいさだったのですが、やはりそれはしてはいけなかったと。」
「そりゃそうでしょう。」
「しかもその相手が・・・全ては皮肉なめぐり合わせだと。」
二人の会話を聞いていた葉子が、たまらず立ち上がった。
「いったいなんのお話をしているんですか?」
少し苛立っている様子の葉子に向かって田村が話し始めた。
「葉子ちゃんのおばあちゃんは絹子さん。篠井(しのい)絹子さんだね?」
「はい。」
「おばあちゃんは結婚しなかったのかな?」
「ええ。恋人がいたけど結婚する前に死んだって父から聞いたって母が言っていたのを聞いた事があります。」
「じゃあその後、お父さんが生まれたんだね。」
「ええ。・・・あの・・・それって、さっきの菱友の会長の話と似てますよね?」
「ええ。似て・・・ますね。」
「まさか・・・まさか祖母の恋人だった人って・・・会長ですか?」
「そうです。会長の恋人の名前は、結城絹子さんとおっしゃいます。」
「え?まさか・・・会長と祖母の間に生まれたのが父?ですか?えええ!まさか・・・そんな事ないですよね。」
「いいえ、葉子さんがおっしゃるとおり、あなたのお父様は会長のご子息です。ですから・・・」
「え、えええ!父が会長の子供・・・じゃあ私が孫・・・という事は・・・会長は私の祖父って事です
か?」
「そうです。あなたは会長のお孫さんです。」
「あははは・・・冗談でしょ。はあー。」
「驚かれるのももっともだと思います。会長もこの事実をお知りになった時には非常に驚いていらっしゃいました。ですがそれと同時に運命は残酷だと・・・」
つづく
「へええ、恋人がいたんですか?」
葉子は思わず聞き返した。
「ええ。いらっしゃいました。末を約束された方が。」
「じゃあどうして社長の一人娘と結婚したんですか?やっぱり出世したくなったという事ですか?その恋人だった人、かわいそうですね。」
「その恋人が会長の縁談の話を聞いてしまったんです。」
「えっ!」
「それでその人は、会長の前から黙って姿をけしてしまいました。」
「そんな・・・」
「会長もずいぶん探したんですが結局見つけられなくて・・・失意の会長は結局縁談を受ける事にされたのです。」
「そうだったんですか・・・」
「きれいな人でした。絹子さんは・・・」
「会長の恋人だった人って、絹子さんっていうんですか?へええ。
そう言えば私の祖母も絹子っていう名前なんです。」
「ええ。存じております。」
「えっ?祖母の名前まで調べたんですか?」
「ええ・・・まあ。」
二人の会話を聞いていた田村がつぶやくように言った。
「柴田さん、まさか・・・」
「ええ、そのまさかだったのです。」
「いったいお二人とも何をおっしゃっているんですか?」
田村が納得したように、顎をなでながらつぶやくように言った。
「そうか!そういう事だったんですか。それで・・・いや、しかしそんな事があるなんて。ちょっと待って下さい。」
そう言うと田村は小さなカセットレコーダーを取り出した。
背広の内ポケットから小さなレコーダーを取り出した。
「ちょっと、これを聞いて下さい。」
-まだなの?早くしないと逃げられる。-
聞こえて来たのは、瀬津の思いつめたような切迫した声だった。
瀬津は、ヒステリー状態になっていたようだった。
-すいません。もうすぐです。-
柴田の焦った声が聞こえて来た。
-お母様、もう諦めるしかありませんわ。変な連中も出て来たし。-
摩椰が瀬津をなだめるように話している。
-何を言ってるの?バカな事を言うんじゃありませんよ。
あんな女に10億も持って行かれるのよ。摩椰さん、あなたはそれでいいの?-
-だって仕方ありませんわ。お父様のご意志では・・・-
-冗談じゃないわ。あの人の意志なんか・・・全部あの女が仕向けたのよ。あの性悪女。あの女が・・・絹子が仕向けたのよ。-
-絹子?絹子って?-
-ああ、もう!絹子よ。わからないの?絹子・・・あの女さえいなければ。
あの人だって私を愛してくれたのに。あの人は結局死ぬまであの女の事だけを愛していた。
あの人は私の事をただの一度も愛してくれた事はなかった・・・-
-お母様?-
-もううるさいわね。早く追いついて。絹子を殺すのよ。-
田村はレコーダーを止めた。
「これは我々が仕込んでおいた盗聴器の音を録音したものです。どうやら瀬津さんは絹子さんと葉子さんの区別がつかなくなっていたようですね。」
柴田は苦いものでも飲んだような顔をしていた。
「奥様は少し精神状態が不安定になっていたのです。私がもっと早く気がつけばよかったんですが。」
「それはやはり葉子さんの事がきっかけに?」
「それは何とも・・・」
「ですが・・・」
「・・・会長は運命というものは残酷だと言っておられました。」
「そうですか・・・運命ですか・・・しかしそれにしても何というめぐり合せなんでしょう・・・でも会長はいつその事を知ったんですか?」
「事故の事を会長がお知りになった時、言っておられました。奥様のされた事は息子かわいさだったのですが、やはりそれはしてはいけなかったと。」
「そりゃそうでしょう。」
「しかもその相手が・・・全ては皮肉なめぐり合わせだと。」
二人の会話を聞いていた葉子が、たまらず立ち上がった。
「いったいなんのお話をしているんですか?」
少し苛立っている様子の葉子に向かって田村が話し始めた。
「葉子ちゃんのおばあちゃんは絹子さん。篠井(しのい)絹子さんだね?」
「はい。」
「おばあちゃんは結婚しなかったのかな?」
「ええ。恋人がいたけど結婚する前に死んだって父から聞いたって母が言っていたのを聞いた事があります。」
「じゃあその後、お父さんが生まれたんだね。」
「ええ。・・・あの・・・それって、さっきの菱友の会長の話と似てますよね?」
「ええ。似て・・・ますね。」
「まさか・・・まさか祖母の恋人だった人って・・・会長ですか?」
「そうです。会長の恋人の名前は、結城絹子さんとおっしゃいます。」
「え?まさか・・・会長と祖母の間に生まれたのが父?ですか?えええ!まさか・・・そんな事ないですよね。」
「いいえ、葉子さんがおっしゃるとおり、あなたのお父様は会長のご子息です。ですから・・・」
「え、えええ!父が会長の子供・・・じゃあ私が孫・・・という事は・・・会長は私の祖父って事です
か?」
「そうです。あなたは会長のお孫さんです。」
「あははは・・・冗談でしょ。はあー。」
「驚かれるのももっともだと思います。会長もこの事実をお知りになった時には非常に驚いていらっしゃいました。ですがそれと同時に運命は残酷だと・・・」
つづく