やがて、炎上した車の中から3人の遺体が発見された。
警察は、ハンドル操作を誤ったための事故と断定した。

遺体が菱友の亡き会長の夫人の瀬津、そして息子の嫁である摩椰を含めた3人だった事が発表されると世間は騒然とした。
資産家で有名な菱友家に関わる事故ということで、週刊誌ではしばらくセンセーショナルな見出しで世間の注目を浴び、ずいぶん騒がれたが時間と共にそれもいつしか忘れ去られた。
結局、葉子に対する殺人未遂は表沙汰になることはなかった。

事故から1ヵ月後。
「いやぁ~。今日はいい天気だね。しかし桜ももう終わりだな。」
歩く田村の肩に桜の花びらが一枚乗っていた。

「だいぶ散りましたね。昨日の雨で落ちちゃったんですね。」

「葉子ちゃんは花見に行ったのかな?」

「ああ。会社のお花見にも今年は結局行けなかったんです。そう言えばうちってお花見に行った事がないんです。」

「ほぉーそりゃまたどうして?」

「何でもおばあちゃんが桜が嫌いだったらしくて。お父さんも行った事がないって言ってました。」

「そうだったのか。じゃあ来年はうちの連中と一緒にどうだい?修治君と一緒においでよ。」

「はい。ありがとうございます。」

そこうしているうちに、柴田弁護士事務所のあるビルまでやって来た。
先日、葉子は弁護士の柴田から田村と一緒に事務所に来てほしいという連絡を受けた。

葉子と田村は、柴田弁護士事務所のドアの前に立った。
葉子はほんの2ヶ月前に訪問した時からずいぶん時間が過ぎたような気がした。

「コン、コン。」

「どうぞ。」
秘書の女性の声ではなく、若い男性の声が聞こえた。

ドアを開けると20歳ぐらいの青年が軽やかに立ち上がった。

「あの、紀本ですが。」

「はい。お待ちしていました。」
爽やかな雰囲気の好青年だった。

「おじい・・・あっ、先生。紀本さんがお見えです。」
中に入ると、柴田弁護士が書ものをしていたが立ち上がった。

「お久しぶりでしたね。葉子さん。そして田村さんでしたね。」

「私の事をご存知でしたか?」

「はい。会長からあなたの事は聞いておりました。」

「ほぉー。そうでしたか。」

「若いのに切れる男だと。しかも情のわかるいい男とね。」

「そうですか・・・しかしなぜ私の事を?」

「まあ、その事についてはこれからゆっくりお話ししましょう。」

葉子は柴田と田村のやりとりを、不思議な気持ちで聞いていた。
今日の訪問は、柴田に田村と二人で来るように言われていてのことだった。

これから二人の間で交わされる会話にはいったい何が・・・
確かに以前、田村から会長と面識がある事は聞いていたが、もっと深い何かがあるようだった。

「会長はきっとあなたが出て来るだろうとおっしゃってましたよ。」

「それはなぜでしょうか?」

「無論、それは葉子さんの事については調べさせていただきましたので、当然お付き合いされている修治さんという方の事もわかっておりました。
そのつながりから、田村さんという方に行き着く事も推測されていました。
まあ全てはそこから始まったという事になります。」

「・・・あの、それはどういう事なんですか?」

葉子は柴田の言葉に思わず立ち上がった。



                 つづく