「おい、野口。ちょっと頼みがあるんだ。」
「なんだ?秋本。」
「室長に会いたいんだ。」
「ほー。室長にね。」
野口の目が光った。
「わかった。予定を聞いてみるよ。」
「頼む。」
特別企画室の野口から室長の田村に会えるという連絡が来たのは翌日だった。
修治は地下の奥まった物置のような「特別企画室」を訪ねた。
修治が入社してから5年になるが、この部屋に足を踏み入れるのは初めてだった。
おそらく大勢の社員の中で、この部屋に出入りしている者は数人しかいないだろう。
それほどこの部署は一般社員、いや幹部にさえその実態は明かされていない。
修治も叔父の重役から聞いていなければ知る事はなかっただろう。
しかし葉子のためには田村たちに頼るほかはないと修治は考えていた。
修治は特別企画室のドアを 開けた。
部屋の中では、特別企画室のメンバーの一人の牛島洋子が田村室長の話を聞いていた。
「じゃあ、室長のお父さんって南方戦線にいたんですか?」
「そうなんだ。命からがら逃げてきたって親父が言ってたな。あんまり当時の話はしたがらなかったけどね。ちらっと聞いた事があるんだ。」
「へえ~。そうだったんですか。」
牛島洋子はあんまり興味がなさそうな口調だった。
修治は声をかけた。
「失礼します。」
「は~い。」
修治が特別企画室の部屋に入ると、すぐ右側に6つ机が並んでいた。
そのうち2つは、物置のように雑然と書類やら細々したものが積み重ねられていた。
奥の窓際に室長の机だろう、少し大きな机があった。
そしてその机の上にも、脇机の上にもやはり山のように書類らしきものが積んであった。
その中には新聞も所々挟まれている。
途中から抜こうものなら、雪崩のごとく倒れそうだった。
そしてその机の横に、小さな薄汚れた応接セットがあった。
そのくたびれたソファに座って、新聞を読んでいる40代後半だろうか、ちょっと渋みのある中年男がいた。
修治の姿を見ると30歳過ぎの女性が立ち上がった。
「秋本です。」
「ああ。野口君から聞いていますよ。どうぞ。田村室長には話してありますから。こちらが田村室長です。室長、野口君がこの間話してた秋本さんです。」
「第一営業部、営業販促課の秋本です。本日はお忙しいところをありがとうございます。」
修治はかしこまって挨拶をした。
「田村です。固苦しいのは苦手なんでね。気楽に行こう。さあ座って。話を聞かせてもらおうか。」
「はい。よろしくお願いします。実は・・・」
修治は葉子から聞いた菱友との問題を田村に説明した。
「ほー。10億ねえ。そりゃ大変だ。」
「はい。そのおかげで葉子の命が狙われているんです。助けてください。」
「そうだね。しかしそれには本当の敵が誰なのかを知る必要があるな・・・」
「本当の敵ですか?」
「ああ。葉子さんの命を狙ったのは誰か?」
「そりゃ、菱友の息子でしょう?」
「それをつかまないとね。なにしろ10億がからんでるんだからね。何があっても不思議じゃない。」
「そうですね。室長、葉子の事よろしくお願いします。」
「わかった。もう大丈夫だからね。安心していいよ。ただししばらくは葉子さんに動かないように言っておいてくれよ。」
「わかりました。」
修治はホッとした顔で部屋を後にした。
つづく
「なんだ?秋本。」
「室長に会いたいんだ。」
「ほー。室長にね。」
野口の目が光った。
「わかった。予定を聞いてみるよ。」
「頼む。」
特別企画室の野口から室長の田村に会えるという連絡が来たのは翌日だった。
修治は地下の奥まった物置のような「特別企画室」を訪ねた。
修治が入社してから5年になるが、この部屋に足を踏み入れるのは初めてだった。
おそらく大勢の社員の中で、この部屋に出入りしている者は数人しかいないだろう。
それほどこの部署は一般社員、いや幹部にさえその実態は明かされていない。
修治も叔父の重役から聞いていなければ知る事はなかっただろう。
しかし葉子のためには田村たちに頼るほかはないと修治は考えていた。
修治は特別企画室のドアを 開けた。
部屋の中では、特別企画室のメンバーの一人の牛島洋子が田村室長の話を聞いていた。
「じゃあ、室長のお父さんって南方戦線にいたんですか?」
「そうなんだ。命からがら逃げてきたって親父が言ってたな。あんまり当時の話はしたがらなかったけどね。ちらっと聞いた事があるんだ。」
「へえ~。そうだったんですか。」
牛島洋子はあんまり興味がなさそうな口調だった。
修治は声をかけた。
「失礼します。」
「は~い。」
修治が特別企画室の部屋に入ると、すぐ右側に6つ机が並んでいた。
そのうち2つは、物置のように雑然と書類やら細々したものが積み重ねられていた。
奥の窓際に室長の机だろう、少し大きな机があった。
そしてその机の上にも、脇机の上にもやはり山のように書類らしきものが積んであった。
その中には新聞も所々挟まれている。
途中から抜こうものなら、雪崩のごとく倒れそうだった。
そしてその机の横に、小さな薄汚れた応接セットがあった。
そのくたびれたソファに座って、新聞を読んでいる40代後半だろうか、ちょっと渋みのある中年男がいた。
修治の姿を見ると30歳過ぎの女性が立ち上がった。
「秋本です。」
「ああ。野口君から聞いていますよ。どうぞ。田村室長には話してありますから。こちらが田村室長です。室長、野口君がこの間話してた秋本さんです。」
「第一営業部、営業販促課の秋本です。本日はお忙しいところをありがとうございます。」
修治はかしこまって挨拶をした。
「田村です。固苦しいのは苦手なんでね。気楽に行こう。さあ座って。話を聞かせてもらおうか。」
「はい。よろしくお願いします。実は・・・」
修治は葉子から聞いた菱友との問題を田村に説明した。
「ほー。10億ねえ。そりゃ大変だ。」
「はい。そのおかげで葉子の命が狙われているんです。助けてください。」
「そうだね。しかしそれには本当の敵が誰なのかを知る必要があるな・・・」
「本当の敵ですか?」
「ああ。葉子さんの命を狙ったのは誰か?」
「そりゃ、菱友の息子でしょう?」
「それをつかまないとね。なにしろ10億がからんでるんだからね。何があっても不思議じゃない。」
「そうですね。室長、葉子の事よろしくお願いします。」
「わかった。もう大丈夫だからね。安心していいよ。ただししばらくは葉子さんに動かないように言っておいてくれよ。」
「わかりました。」
修治はホッとした顔で部屋を後にした。
つづく