「隆志君はずいぶんショックを受けてたわ。
もちろん博史はお金なんかもらってなかったんだけど、その時は隆志君はその事を知らなかったからねえ。
私がそれを知って隆志君に説明したんだけど、隆志君泣いてた。
結局、その後は菱友はいっさいとりあおうとしなかった。
菱友の息子が雇った弁護士に追い返されたそうよ。

それからよ、隆志君が変わったのは。
博史たちが死んだのは自分のせいだと言って、葉子ちゃんの面倒見ながら一生懸命働いたのよ。」

「そうだったんですか・・・」
兄の優しさの裏にあった苦しみを、今初めて葉子は知った。

「だから葉子ちゃんは遠慮なく遺産をもらっていいのよ。菱友はひどい事をしたんだから。」

「でも・・・」

葉子は木綿子に、命を狙われた事は言えなかった。
菱友の息子が狙ったという証拠はないのだ。
言っても心配させるだけだと思ったからだった。
ただこのままでは、また狙われる事は確実だった。

宗孝は自己中心にしか物事を考えない男だ。
遺産をもらわなければいいのだろうが宗孝の、いや菱友家の態度に葉子は遺産をもらってやろうと思い始めていた。

「ねえ、お祖母ちゃん。その息子とぐるだった弁護士ってなんていう人?」

「ええっと・・・確か柴・・・・あっそうそう柴田っていう名前だったわ。」

「柴田ね。この間会ったわ。おじいさんの弁護士だったわ。」

「おかしいわね。その弁護士、菱友の息子と同じぐらいの年よ。なにしろあの息子の遊び仲間だったんだから。二人でそうとう悪い事もしてたらしいし。」

「そうなの?あっ、じゃあ若先生の方なのか・・・」

「そうじゃない?お父さんは立派な弁護士だって聞いた事あるわ。」

「ふうううん。」

「そういうわけだから気をつけなさい。あの息子は卑劣なんだから。それに一緒にいた女がすごく図々しい人で息子以上に悪態ついていたらしいわ。何か言って来てない?」

「女の人?誰だろう?あの奥さんかな?まあ、今のところ何も言ってきてはないけど・・・言う前に行動してきたけどね。」

「えっ?何ですって?」

「ううん、何でもないの。」
葉子は長い電話を切った。

自分の両親と兄にこんな秘密があったとは、葉子は想像もしていなかった。
しかしこのままではまたいつ命を狙われるとも限らない。
どうすればいいのだろう・・・・
葉子は考え込んでしまった。


「ねえ、どうしたらいいと思う?」

「そうだなぁ。菱友が相手じゃよっぽど確かな証拠でもないと警察も動いてくれないだろうし・・・」

「だけど現に私は命を狙われたのよ。」

「うーん。」

「もう、頼りないわね。私が殺されてもいいの?」

「えっ!そんな事ないよ。そうだ!ひょっとして頼めるかもしれない。」

「何?頼めるって?」

「まあ俺に任せておけよ。いい事思いついたんだ。あそこへ頼めば百人力だ。」


修治が勤務している会社は、大手の商事会社の一つで全国に30以上の支店があり、海外にも10ほどの支店を持つ名前の知れた会社だった。
当然社員は、有名大学卒の学歴を持つ者ばかりだった。

二流大学卒の修治が入社出来たのはコネがあったからだ。
修治の父の兄、すなわち叔父がこの会社の重役だった。
その叔父のコネで、修治は就職する事が出来た。

入社してみると周りは出世欲の強い人間が多かった。
しかし修治はのんびりした性格のため出世にもたいして興味がなくライバルにならなかった事もあり、誰とも仲良く付き合っていた。

そして修治は叔父から会社の秘密を聞かされていた。
会社にある秘密の部署である「特別企画室」の事だ。

室長の田村を初めとする、5人の精鋭部隊の本当の業務は始末屋だった。
企業間で起きるトラブルにも対処するし、社員が起こしたスキャンダル に伴う脅迫などにも大きな力を発揮する。

修治の叔父も、依然特別企画室に世話になった事があった。
息子の浩一が起こした女性問題をネタに、当時進行中だったあるプロジェクトの内部資料を持ち出せと脅迫された事があった。

その時に助けてくれたのが田村たち、特別企画室の5人だった。
そして修治は、その話を叔父から内密に聞いていた。

今、修治は葉子のために田村に相談してみようと思った。


                  つづく