葉子は柴田の言っている事を理解出来ずにいた。
しかし段々今大変な事が、自分に起こっている事がわかってきた。

だがわかってくると、その内容の重大さに足が震えて来た。
葉子はソファから思わず立ちあがり叫んだ。

「えええええっ!10億?10億って言いました?」

「はい、10億円です。あなたが相続する金額です。」

「そうですか・・・10億。」
葉子はソファに倒れ込んだ。

「大丈夫ですか?」

「あ、はい。」

「この遺言については中身が中身ですので、親族の中からいろいろとありましたがそれも片付きました。」

「ちょ、ちょっと待って下さい。でもどうして私に?」

「それはわかりません。ご家族もあなたの事はまったくご存知ではなかったのです。失礼ですがあなたの事も調べさせていただきました。ですがあなたとのつながりはわかりませんでした。」

「そりゃそうでしょ。当の私が知らないんですから。」

「まあ友人でもあり顧客でもある故人の意思ですので、さっそく手続きに入りたいのです。よろしいですね?」

「えっ。でも・・・」

「何か心配な事でもありますか?」

「あんまり突然すぎて・・・それに知らない人からお金をもらうなんて・・・どうしたらいいか・・・少し考える時間がほしいんですけど。」

「わかりました。それでは考えが決まるまでお待ちしましょう。」

「はい、すいません。あの~家族の方は本当に了解されてるんですか?」

「まあいろいろ異論のある方もいましたが、結局故人の意思を尊重するという事で納得されています。ご心配される必要はありません。」

「へえええ、そんなものですか・・・」



「えっ!ほんと?」

「うん。ほんとらしいわ。」

「すごい。10億か・・・」

「うん、10億。」

「海外旅行でも行くか・・・」

「いいわね。でも・・・」

「何だよ。でもって?」

葉子は恋人の修治に、遺産がもらえるかもしれないという先日の柴田からの話をした。
修治は金額に驚き、その幸運を素直に喜んでいた。

だが葉子はこのまま10億円もの大金を手にする事にためらっていた。

「だって会った事もない人なのよ。なんか気味悪いと思わない?」

「そうだけど。10億だよ。」

「そうなのよね。」

葉子は一度菱友家の考えを聞いてみたいと思った。
柴田は納得していると言ったが、10億円もの大金を他人に横取りされる事を承知するとは思えなかった。

幸い柴田に連絡すると、菱友家では会ってもいいと行っているという事だった。
早速次の日曜日に菱友家を訪ねる事になった。


                    つづく