「ううう・・・」

太一は頭を抱え込んだままベッドに倒れこんだ。
あまりの激しい痛みに太一は意識を失った。


再び目覚めた時太一が目にしたのは、心配そうに太一の顔をのぞきこんでいる両親の姿だった。

「大丈夫?」
母が優しく尋ねた。

「おい、まだ痛むのか?」と父が母の横で太一を見つめた。

「あれを・・・」
父は母に言った。
すると母は机の上に置いてあった、白い錠剤と水の入ったコップを持って来た。

「さあ、これを飲みなさい。まだ痛いんでしょう?」

「うん。」

太一は起き上がろうとしたが頭がくらくらして、一人で座って入る事が出来なかった。
父が太一を支えてベッドに腰掛けさせてくれた。
太一は母のくれた薬を飲んだ。

「さあもう少しお休みなさい。2,3分もすれば薬が効いて痛みも消えるわ。」
太一をベッドに寝かせると、父と母は部屋を出て行った。
太一は横になりながら両親が来てくれた事で安心して眠りに就いた。


翌朝目覚めた時、頭の痛みは嘘のように消えていた。
太一は登校するとすぐに由貴の教室に向かったが、由貴はまだ登校していなかった。
昼休みにも由貴を訪ねたが、由貴の姿はなかった。
クラスメートに聞くと、今日は休んでいるのだという。

太一はがっかりしたようなほっとしたような複雑な気分で学校を後にした。
太一が帰宅するといつもなら仕事でいないはずの父がすでに家にいた。

「お父さん、今日は早いね。」

太一が居間に入っていくとそこには由貴がいた。
「おかえりなさい。待っていたのよ。」

「何をしてるんだ?俺の家で。」

「言ったでしょ。あなたには戦士としての任務があるのよ。まだ十分に目覚めていない事も報告は受けているわ。本来ならもう少しダメージから回復するまでここで暮らしてもらうはずだったけど、そう悠長な事を言っていられない状況になってしまったの。キーケル総司令官から直々に命令が出て、私も今日呼ばれたの。まあ昨日促進剤も飲んだ事だし、かなりのところまで戻っているでしょう。目覚めが不完全なところは私が補填する事になったの。」

「何言ってるのかさっぱりわかんないよ。君が変な事ばっかり言うから、あんな変な夢を見たんだ・・・それにどうして俺が戦わなきゃいけないんだ。俺はまだ13なんだ。戦争って大人がするんじゃないか。」

「ああ。でも私たちの世界では13歳は立派な大人よ。あなた変な夢って言ってたけど、どんな夢?」

「広い部屋にいっぱい俺ぐらいのやつがいて、そこにキーケルとかってのが出て来て何人かの名前を呼ぶんだ。俺も呼ばれた。」

「ああ、任命式の時の事ね。それは夢じゃないわ。」

「もういい加減にしてくれよ。」

「本来なら少しずつ覚醒するように意識装置をあなたに合わせて調整してたのよ。あなたには認識できなかったでしょうけど、あれは今まであなたが実際に体験した事よ。戦況が悪くなってしまって防衛軍も急いでいるの。それで仕方なく多少身体に負担はかかるけど促進剤を飲んでもらったの。あなたの頭痛はそのためよ。完全に目覚めるのももう少しよ。」

「でも俺はここで生まれて育ったんだ。」

「それはあなたが休養しやすいように植えつけた記憶よ。」
-我がエルンゼ国とビスクール帝国は・・・-
太一は夢で見たキーケル総司令官の言葉を思い出していた。

「それじゃあ・・・大人はいないのか?」

「そうね。ここでは20代だとまだ大人じゃないから仕方ないけど、私たちの世界では30歳以上は生きられないの。
昔・・・と言ってもこの時代からみれば10年ほど未来になるけど、バカな超大国の1つがある国を攻撃した事がきっかけになって地球上で大規模な核戦争が起こってしまった。
その結果、地球全土の95%が放射能に覆われたの。
人類はほとんど死んだわ。
生き残った人類の中でもまた争いがあって結局1%の人類がかろうじて生き残ったの。
でも生き残った人類も、放射能を大量に浴びていた。
その結果人類の寿命は大幅に短くなって科学の進歩でなんとか30歳まで延びたの。
これでもかなり良くなったのよ。50年前は20歳までしか生きられなかったんだから。50年かけてやっと10年延ばしてきたの。
キーケル総司令官だってもう28歳よ。
何もなければ去年引退するはずだったんだけど、戦況が深刻になってしまったからエルンゼのために総司令官として頑張っていらっしゃるのよ。」

「じゃあ俺も30歳までしか生きられないのか?」

「そうね。でもこの戦争に勝たなければそれも無理な状況よ。」

「ビスクール帝国との?」

「そうよ。ビスクール帝国もエルンゼと同じように、30歳ぐらいまでしか生きられないの。ただビスクールはエルンゼよりも状況は逼迫していて星全体がもう放射能に汚染されて壊滅寸前よ。だからエルンゼ帝国を侵略して自分たちが住もうとしているのよ。」

「・・・じゃあ、一緒に住めばいいじゃないか。」

「ばかな事を。ビスクール人は冷酷で残虐な人類よ。彼らはエルンゼ人を全て抹殺してエルンゼを自分たちのものにしようとしているわ。
それにしても休養が長すぎたのかしら・・・あなたほどの人がそんな甘い事をいうなんて。」

「ほんとにビスクールはエルンゼを抹殺するのか?」

「ええ。本当よ。だから私たちは故国を救うために戦うしかないのよ。」

「・・・でも。いや、おかしいよ。それなら父さんや母さんはどうなんだ?父さんは42歳だ。でも生きてるじゃないか?」

「552011号。マスクを取りなさい。」

由貴に言われた父が顔に手をやると皮膚が1枚めくれた。
その下にあったのは金属に覆われたロボットの顔だった。

「父さん・・・まさか・・・」

「そうよ。この2人はあなたの世話をするための労働機械よ。この時代で言うとロボットよ。」
母もまたロボットの顔になっていた。

太一はもう何も聞きたくなかった。
何も見たくなかった。

「どうして・・・こんな事に・・・」

「元々の原因は今のこの時代の人類たちよ。自分の事しか考えない人類ばかりになって、己の欲望のままに他人のものを奪っていった。人類同士で獲りあっているうちはまだ良かったんだけど自分たちの住む地球まで独り占めしようとした結果、そのために地球まで壊してしまった。
それは自業自得だけど愚かな祖先を持った私たちは自分たちでなんとか国を守らなきゃいけないのよ。」

「今の人間のせいなのか・・・」

「そうよ。3年後には小さいけど、戦争が始まるのよ。それから第3次世界大戦が勃発して・・・
さあ、もういいでしょう。そろそろ行きましょう。
みんながあなたを待っているわ。防衛軍特別攻撃隊隊長、タイートをね。」

太一は立ち上がった。
由貴は両親の部屋に太一を連れて行った。

部屋の右手の壁に小さなボタンがあり、由貴はそのボタンに触れた。
すると壁が開いて四角い部屋があった。

「ここから私たちの世界へワープするのよ。」


太一は後ろを振り返った。
2体のロボットが太一を見つめていた。
その眼差しはなぜか愛情に満ち、涙が浮かんでいるように見えた。
太一が部屋に入ると部屋が小さく振動し、太一は光に包まれた。



                     終わり