里香子は一人になってしまった広い屋敷の中で、ようやく自分が置かれた状況に気付いた。
その時吉岡が乗った車が、屋敷の前の道を通るのが窓から見えた。

里香子は吉岡を追いかけようと、大きな玄関のドアに走った。
ところが里香子がいくら力をこめてドアを開けようとしても、大きな木のドアはびくともしなかった。

里香子はドアを押したり引いたり必死の思いで開けようとしたが、ドアはまるで固まってしまったように動かなかった。

里香子はドアをドンドンと叩いた。

「開けて~。開けて~。誰か、助けて。」

どんなに里香子が叫んでもドアが開けられる事はなかった。
里香子はふらつく身体で広い屋敷の中を探し回った。

しかし誰もいなかった。

里香子は再び広い玄関ホールまで戻ってきた。
疲れきって戻ってきた里香子の耳に声が響いた。

-待ってた-
里香子はその声に振り返った。

そして振り返った里香子の目に入ったのは、リビングの椅子に置かれたキャシーだった。

「キャシー・・・」

-ずっと待ってた。この日を。おまえを殺す。-

「キャシー・・・なにを言ってるの?」

-お父さんとお母さんが待ってる。さあ。・・・-

そう言うとキャシーは、椅子の上からふわっと浮かんだ。

-さあ・・・-
キャシーは里香子に向かって近づいてきた。

「きゃ~~~。」
里香子は恐ろしくてドアにすがりついた。

-いくら叫んでもダメ。誰も来ない。-

振り返った里香子の前には、美しい微笑を浮かべたキャシーがいた。
キャシーは里香子に向かってゆっくり近づいて来た。

-さあ、月ちゃんが待ってる。-

「いやよ。冗談じゃないわ。私は月子のところになんか行かない。」

-さあ、早く。月ちゃんが・・・-

「嫌だって言ってるでしょ。」

里香子は近づいて来たキャシーから逃れるように、2階への階段に向かって走った。

-待ちなさい-

キャシーが里香子を追いかけて来た。
里香子は必死で階段を駆け上った。

そしてキャシーは、里香子の後をふわふわと浮きながら追いかけた。
里香子は必死の思いで2階に上がると、自分の部屋に飛び込むように入り、あわてて鍵をかけた。

やがてドアを叩く音が聞こえてきた。

-開けなさい。-

里香子はキャシーの声に震えた。

部屋の片隅にあった電話に気付いた里香子は、受話器を取った里香子はボタンを押した。
しかし受話器の向こうからはなんの音もしなかった。


愕然とした里香子の耳に聞こえてくるのはキャシーの声だけだった。

-開けなさい。月ちゃんが待ってる。-

「いやあ~~。」

そして・・・


                    つづく