翌日、武雄と理恵子の二人は自宅へと向かっていた。

「ねえ、あなた。本当に里香子あのままで大丈夫かしら?」

「大丈夫だろう。吉岡先生がああ言ってるんだから。もう少し入院していれば良くなるよ。」

「でもなんだかあの先生ちょっとおかしくなかった?」

「そうか?俺は気付かなかったが。」

「変だったわよ。それに何だか気持ち悪いし。
私はあの先生は前から嫌だったのよ。月子の主治医だったし・・・
ねえ、里香子を他の病院に入れましょうよ。」

「そうだな。そうするか。□□市の病院に一度連れて行くか?」

「ええ。そうしましょう。」

-もう遅いわ-そうつぶやく声が聞こえた。

「え?あなた今なんて言ったの?」

「俺は何も言ってないぞ。」

「あら、気のせいかしら・・・変ね。」

「おい、しっかりしてくれよ。」

「ええ・・・」

-月ちゃんが待ってる-

「ちょっと。今の声!聞こえたでしょ?」

「え?何も聞こえないよ。」

「聞こえないの?月子が待ってるって・・・」

「何言ってるんだ?」

-さあ、行きましょう。月ちゃんの所へ-

今度は武雄にもはっきり聞こえた。
「おい!今の声は何だ?」

理恵子は恐ろしくなり車の中を見渡した。
すると・・・
後ろの座席に・・・

キャシーがいた。

「ちょっとどうしてあの人形が・・・」

「人形?」

「そうよ。里香子の病室に置いてあったはずなのに・・・どうしてここにあるの?」

「里香子のなのか?」

「里香子のだけど、もともと月子が持っていた人形なの。」

「どうしてそんな物、里香子が持ってるんだ?」

「里香子がどうしても欲しいって・・・」

「もういい。そんな気持ちの悪い人形捨ててしまえ。」

「ええ。」

理恵子は後部座席に置いてあるキャシーを捨てようと手を伸ばした。
理恵子はキャシーをつかむと車を降り、海に投げ捨てた。
キャシーが海に落ちていくのを見届けた理恵子は車に乗り込んだ。

「もう大丈夫よ。海に捨てたから。里香子には新しい人形を買ってあげないと。」

「行くぞ。」

武雄は車を出してスピードを上げていった。
軽快に走り出した車の中で理恵子はホッとしていた。

-ねえ。月ちゃんが待ってるのよ。早く行かなきゃ。-
海に落ちたはずのキャシーの声が再び車の中に響いた。

「どうして?」
理恵子は恐ろしさに身体が震えた。

「あなた・・・」

「・・・」

理恵子は仕方なく恐る恐る後ろを見た。
すると後部座席には海に落ちていったはずのキャシーが、きれいな顔で理恵子を見つめていた。
そしてキャシーの身体はぐっしょりと濡れていた。

「きゃあ~~~~~。」

「おい。おい!」

「あなた。車を止めて。あの人形が・・・」

「ブレーキが・・・ブレーキが効かない。」

二人が乗った車は益々スピードを上げて走っていた。

「あなた。止めて。危ない!」

その時後部座席にいたキャシーの目が光った。
-月ちゃん。行くわよ-

車は海岸沿いの道のガードレールを突き破って行った。
キャシーの声を、武雄と理恵子は落ちていく車の中で聞いていた。



                   つづく