武雄と理恵子は里香子の病室へ行った。
「里香子。少しの間入院する事になったの。」

「いやよ。私。入院なんて。」

「何言ってるの。吉岡先生が入院したほうがいいって言ってるのよ。
すごく疲れるって言ってたじゃない。里香子だって病気を治したいでしょ?」

「でも・・・わかった。それじゃあキャシーを連れて来て。」

「キャシー?キャシーってあの人形?」

「そう。私のキャシー。キャシーを連れて来てくれないなら私帰る。」

「しようがないわね。わかったわ。じゃああなた、一度家に帰りましょう。着替えも持ってこないといけないし。」

「そうだな。里香子、おとなしくしてるんだぞ。」

「うん。早くキャシーを連れて来て。」
武雄と里香子は渋々人形を取りに帰宅した。


2週間後、武雄と理恵子は再び吉岡と話していた。

「先生、里香子はどうなんでしょうか?もう2週間にもなるのに全然良くなってないじゃありませんか?それどころかうちにいた頃より悪くなっているような気がするんですけど・・・」

「いいえ。決してそんな事はありません。少しずつ良くなっていますよ。なかなかわかりにくいんですがね。ただ完全に治るまでにはもう少し入院が必要ですが・・・」

「そうですか・・・」

「はい。全て私にお任せください。うまくやりますから。」

「は?今先生何ておっしゃいました?」

「いや。なんでもありません。里香子さんの事は心配なさらなくて大丈夫です。ふっ。すぐに帰れるようにしますから。」

「そうですか。わかりました。それではくれぐれもよろしくお願いします。」

「はい。わかりました。」
武雄と理恵子は帰って行った。


吉岡は武雄と理恵子が去った後もドアを見ていたが、眼鏡を少し上げてつぶやいた。
「そろそろゆっくり眠らせてあげますよ。ふふふふ・・月ちゃん。待っていておくれ。もうすぐだよ。」
吉岡のその瞳には怪しげな光が宿っていた。


その夜、里香子は眠っていた。

病室には月の明かりがカーテンの隙間から差し込んでいた。
その明かりがキャシーも顔を照らし出していた。
キャシーの顔にはいつもと同じ美しい微笑が浮かんでいた。


里香子はこの頃では昼も夜もわからなくなっていた。
いつもボーッとしていて、両親の言う事にもうまく答えられなくなっていた。

聞こえてくるのはキャシーの言葉だけだった。

「月ちゃんが待ってる。」

「月ちゃんって誰だっけ・・・」

里香子の意識は朦朧としていたがキャシーの声だけが頭の中に響いていた。



                 つづく