「ピチョッ」

澪は頬に冷たいものを感じて目覚めた。
手で頬をさわると濡れている。
手を見ると指先が水のような透明なもので濡れている。


「うん?なにこれ?水漏り?いやだ~上かな?」

澪の住むマンションは9階建ての3階で、1つ上の住人は以前にも水を漏らした事があった。
しかし天井を見てもしずくらしいものは見えない。
もう落ちてくる気配は無かった。

「変ねえ・・・」

もう雫が落ちる事はなかった。
澪はいつのまにかその事を忘れてしまった。
それが悲劇の始まりとも知らずに・・・


その事が始まったのは6月の半ば頃だった。
そろそろ梅雨に入ろうかという頃だった。

5月の連休は雨が降る事が多いが、今年のゴールデンウィークは晴天が続き各地の観光スポットは大いに賑わった。
だがその代わりに連休開けから雨が続き、6月に入っても雨か曇りといったはっきりしない天気が続いた。


その日は珍しくカラッと晴れて久しぶりに青空が広がっていた。
澪は前日友人と飲みに行きかなり飲んだ。
深夜に帰宅し、そのまま倒れるようにベッドに潜り込んでしまった。


すっかり目が覚めた澪は二日酔いの頭を押さえながら、冷蔵庫から水を出しグラスに注ぐと一気に飲んだ。

「ふうぅ~。飲み過ぎかな~。」

カーテンを開けサッシの窓を開けた。
澪はまぶしい太陽の日差しに思わず目を閉じた。

「うわ~。暑そう。」

「そうだ。メール見とかないと。」

澪は携帯電話をとり出そうとしてバッグを開けた。
するとバッグの中に見た事もない人形が入っていた。

「何これ?」

長い金髪に美しい顔の西洋人形だった。
宝石をはめ込んだような透きとおるブルーの瞳とピンクの唇が何とも言えず愛らしい。
真っ白な美しいドレスをまとい指先や足までも陶器のように滑らかだった。


澪は一目でその人形に魅入られてしまった。
なぜこんな人形が自分のバッグに入っていたのかわからなかったが、澪は人形をチェストの上に置いた。

その人形があるだけで部屋の中の雰囲気が変わったような気がした。いったん置いてしまうと今までそこに無かった事が信じられないほどの存在感だった。

人形はその瞬間から澪の心を捉えた。



                     つづく