「あ~あ~。今年は一人のクリスマスか・・・」
ミチコは仕事帰りの道を歩きながら白い息を吐いた。
明日はクリスマス。
そして今夜は恋人たちがロマンチックな夜を迎えるだろうクリスマス・イブ。
ミチコは今までロマンチックなクリスマス・イブなんて過した事はなかった。
なぜかいつも冬に恋人がいた事がない。
当然クリスマスも恋人のいない女友達と過すのが毎年恒例になっていた。
ところがそのいつも一緒に過していた親友の朋子が今年は彼と過すと言って来た。
ミチコも覚悟はしていた。
朋子に彼氏が出来たのは秋に入ってすぐの頃だった。
朋子がうれしそうに彼氏が出来たと話始めた。
ミチコもおかしいと思っていた。
なにしろ急に朋子が話があると言ってきた。
それで連れて行かれたのがうどん屋だった。
うどんすきの鍋をつつきながら朋子は真っ赤な顔をしていた。
うどんの湯気が熱かったのか、恥ずかしかったのか・・・
ともかく朋子は赤い顔で彼との馴れ初めを話し始めた。
友達の紹介というシンプルな出会いだった。
ミチコは聞きながら途中から馬鹿らしくなって、話の後半はほとんど聞いていなかった。
ただひたすらうどんを食べることに集中した。
まあ顔には軽く微笑みを浮かべながら聞いているふりをしていたが・・・
というわけで朋子は今年のクリスマスは彼氏と過すのだ。
ミチコはまっすぐ帰る気にもならずウィンドウ・ショッピングする事にした。
ショッピング・ビルに入るとすぐに大きなクリスマス・ツリーが飾られている。
ミチコはその大きなキラキラ光るツリーを見上げ、ため息をついた。
どこに行ってもクリスマスがミチコの後をついて来るようだった。
ミチコはエスカレーターに乗り上の階に上った。
ビルの中は真ん中が吹き抜けになっていて、その周りを取り巻くようにいろんな店が並んでいた。
洋服やバッグの店をのぞき、次にあったのがウェディング・ドレスの店だった。
ミチコは何気なくディスプレーされているウェデイング・ドレスを見た。
ウェストを細く絞り、繊細なフレアの純白のドレスだった。
そのドレスはミチコの好みにぴったりの美しいものだった。
ミチコは思わず見とれてしまった。
そして裾のあたりを見たときミチコはあっと声を漏らした。
そこにはシルバーのプレートがあった。
-ミチコのために-
そう書いてあった。
ミチコはもう一度そのプレートを見直してみたが、やはりプレートにはミチコと書いてある。
不思議な気がしてミチコはその店に入ってみた。
すると店の中にはいくつものダンボールが置かれ、店内はがらんとしていた。
「すいません。誰かいませんか?」
呼んでみたが誰も出て来なかった。
仕方なく店を出たが気になってしまい、ドレスの前で動けなくなってしまった。
するとそこへ作業着を着た男が二人店の中に入って行った。
そしてあのドレスをハンガーにかけている。
ミチコは思わず声をかけた。
「あのそのドレスどうするんですか?」
「ああ、これ。この店、昨日で閉店したんだ。だから片付けるんだ。」
「そうなんですか・・・それでこの店の人は?」
「もう帰っちゃったよ。これ車に積んだら終わりだからね。俺たちももう引き上げるよ。」
「あのそのドレスどこで売ってるんですか?」
「さあねえ・・・わかんないな。それにこの店やってた人が1ヶ月前に亡くなって、親類の人から頼まれただけだからね。」
「そうですか・・・」
ミチコは運ばれていくドレスを見送った。
3年後。
ミチコにも恋人が出来、もうすぐ結婚する事になった。
恋人の直樹は優しい性格の気のいい男だった。
その直樹から電話があった。
「プレゼントがあるんだ。明日いつものところで待ってるから。」
「うん。わかった。」
翌日ミチコがいつもの場所で待っていると直樹が走って来た。
「ごめん。遅れちゃった。さあ、行こうか。」
そういうと直樹は歩き出した。
「ちょっとどこに行くのよ?」
「まあ、いいから。ついて来いよ。」
やがて直樹は一軒のブティックの前で止まった。
「ここなんだ。おれの友達がやってるんだ。」
「へええ~。」
「入るぞ。」
「うん。」
店に入ると髭をはやしたおしゃれな感じの男が迎えてくれた。
「はじめまして。直樹とは子供の頃からの腐れ縁でして。斉藤恭介といいます。」
「はじめまして。ミチコです。こちらこそよろしくお願いします。」
「ミチコ。こっちだ。」
声の方を見ると奥の鏡の前に大きな布をかけたものがあった。
直樹が恭介を見ると小さくうなずいた。
直樹が布を外すとウェディング・ドレスが現れた。
「これを着てほしいんだ。恭介に頼んで作ってもらったんだ。いいかな?」
ミチコはそのドレスを見て息を呑んだ。
そのドレスは・・・
あの時の3年前のあのドレスだった。
今でもあのドレスの事ははっきり覚えていた。
細かなラインまで忘れなかった。
今ミチコの目の前にあるのはまさしくあのドレスだった。
そしてその足元にシルバーのプレートがあった。
-ミチコのためにー
「ねえ、あのプレートは?」
「ああ、あれ。ディスプレー用らしいんだけど、今日ミチコに見せたいって言ったら恭介が作ってくれたんだ。」
ミチコは信じられない思いでドレスとプレートを見つめた。
1ヵ月後。
今日は12月25日。
直樹とミチコの結婚式の日。
ミチコはあのウェディング・ドレスを身につけ直樹と結婚する。
そしてあのプレートはミチコの宝物になった。
おわり
ミチコは仕事帰りの道を歩きながら白い息を吐いた。
明日はクリスマス。
そして今夜は恋人たちがロマンチックな夜を迎えるだろうクリスマス・イブ。
ミチコは今までロマンチックなクリスマス・イブなんて過した事はなかった。
なぜかいつも冬に恋人がいた事がない。
当然クリスマスも恋人のいない女友達と過すのが毎年恒例になっていた。
ところがそのいつも一緒に過していた親友の朋子が今年は彼と過すと言って来た。
ミチコも覚悟はしていた。
朋子に彼氏が出来たのは秋に入ってすぐの頃だった。
朋子がうれしそうに彼氏が出来たと話始めた。
ミチコもおかしいと思っていた。
なにしろ急に朋子が話があると言ってきた。
それで連れて行かれたのがうどん屋だった。
うどんすきの鍋をつつきながら朋子は真っ赤な顔をしていた。
うどんの湯気が熱かったのか、恥ずかしかったのか・・・
ともかく朋子は赤い顔で彼との馴れ初めを話し始めた。
友達の紹介というシンプルな出会いだった。
ミチコは聞きながら途中から馬鹿らしくなって、話の後半はほとんど聞いていなかった。
ただひたすらうどんを食べることに集中した。
まあ顔には軽く微笑みを浮かべながら聞いているふりをしていたが・・・
というわけで朋子は今年のクリスマスは彼氏と過すのだ。
ミチコはまっすぐ帰る気にもならずウィンドウ・ショッピングする事にした。
ショッピング・ビルに入るとすぐに大きなクリスマス・ツリーが飾られている。
ミチコはその大きなキラキラ光るツリーを見上げ、ため息をついた。
どこに行ってもクリスマスがミチコの後をついて来るようだった。
ミチコはエスカレーターに乗り上の階に上った。
ビルの中は真ん中が吹き抜けになっていて、その周りを取り巻くようにいろんな店が並んでいた。
洋服やバッグの店をのぞき、次にあったのがウェディング・ドレスの店だった。
ミチコは何気なくディスプレーされているウェデイング・ドレスを見た。
ウェストを細く絞り、繊細なフレアの純白のドレスだった。
そのドレスはミチコの好みにぴったりの美しいものだった。
ミチコは思わず見とれてしまった。
そして裾のあたりを見たときミチコはあっと声を漏らした。
そこにはシルバーのプレートがあった。
-ミチコのために-
そう書いてあった。
ミチコはもう一度そのプレートを見直してみたが、やはりプレートにはミチコと書いてある。
不思議な気がしてミチコはその店に入ってみた。
すると店の中にはいくつものダンボールが置かれ、店内はがらんとしていた。
「すいません。誰かいませんか?」
呼んでみたが誰も出て来なかった。
仕方なく店を出たが気になってしまい、ドレスの前で動けなくなってしまった。
するとそこへ作業着を着た男が二人店の中に入って行った。
そしてあのドレスをハンガーにかけている。
ミチコは思わず声をかけた。
「あのそのドレスどうするんですか?」
「ああ、これ。この店、昨日で閉店したんだ。だから片付けるんだ。」
「そうなんですか・・・それでこの店の人は?」
「もう帰っちゃったよ。これ車に積んだら終わりだからね。俺たちももう引き上げるよ。」
「あのそのドレスどこで売ってるんですか?」
「さあねえ・・・わかんないな。それにこの店やってた人が1ヶ月前に亡くなって、親類の人から頼まれただけだからね。」
「そうですか・・・」
ミチコは運ばれていくドレスを見送った。
3年後。
ミチコにも恋人が出来、もうすぐ結婚する事になった。
恋人の直樹は優しい性格の気のいい男だった。
その直樹から電話があった。
「プレゼントがあるんだ。明日いつものところで待ってるから。」
「うん。わかった。」
翌日ミチコがいつもの場所で待っていると直樹が走って来た。
「ごめん。遅れちゃった。さあ、行こうか。」
そういうと直樹は歩き出した。
「ちょっとどこに行くのよ?」
「まあ、いいから。ついて来いよ。」
やがて直樹は一軒のブティックの前で止まった。
「ここなんだ。おれの友達がやってるんだ。」
「へええ~。」
「入るぞ。」
「うん。」
店に入ると髭をはやしたおしゃれな感じの男が迎えてくれた。
「はじめまして。直樹とは子供の頃からの腐れ縁でして。斉藤恭介といいます。」
「はじめまして。ミチコです。こちらこそよろしくお願いします。」
「ミチコ。こっちだ。」
声の方を見ると奥の鏡の前に大きな布をかけたものがあった。
直樹が恭介を見ると小さくうなずいた。
直樹が布を外すとウェディング・ドレスが現れた。
「これを着てほしいんだ。恭介に頼んで作ってもらったんだ。いいかな?」
ミチコはそのドレスを見て息を呑んだ。
そのドレスは・・・
あの時の3年前のあのドレスだった。
今でもあのドレスの事ははっきり覚えていた。
細かなラインまで忘れなかった。
今ミチコの目の前にあるのはまさしくあのドレスだった。
そしてその足元にシルバーのプレートがあった。
-ミチコのためにー
「ねえ、あのプレートは?」
「ああ、あれ。ディスプレー用らしいんだけど、今日ミチコに見せたいって言ったら恭介が作ってくれたんだ。」
ミチコは信じられない思いでドレスとプレートを見つめた。
1ヵ月後。
今日は12月25日。
直樹とミチコの結婚式の日。
ミチコはあのウェディング・ドレスを身につけ直樹と結婚する。
そしてあのプレートはミチコの宝物になった。
おわり