おかえり－１２

「どうして・・・あんたたち死んだんでしょ？」

「そうよ。死んだわよ。ねえ。」
信代が低い声で言った。

「ふふっ。そうよ。」
横にいた江梨子と利恵も笑っていた。
そんな3人を見て、恵子は低くこもった声で話し始めた。

「冴子、中島先生が好きだったのね。
そして私が中島先生に気に入られていると思っていたのね。
みんな知らなかった事だけど、中島先生は親戚だったの。私は時々母に言われて届け物を持って行ったりしてただけだったのに。

冴子はそんな私に嫉妬した。だから私をいじめたのよ。
そしてそれだけでは足りずに私を殺した。」

「違う。そんな事・・・」

「ふっ。でも中島先生は私が死んだ後すぐに結婚しちゃったのね。
そしてあなたの前からいなくなった・・・あなたがせっかく私を殺したのに。」

「恵子・・・ごめんなさい。許して。あの時、私はただ先生に憧れてただけだった。」

「そうでしょうね。私が死んだ事もあなたには過去の事でしょうね。
でも私にはあの時が全てになってしまった。
あなたのその身勝手な性格が私の人生を、全てを奪った。」

「お願い。許して・・・」
冴子は泣いていた。

「さあ行きましょう。」

恵子は冴子の手をつかんだ。
恵子の手は氷のように冷たかった。
冴子は恵子の手を必死にふりほどこうとした。
しかし恵子の手は腕がちぎれるほどの力でがっしりと冴子の手をつかんでいた。

恵子は冴子を恐ろしいほどの力で引きずって行った。
冴子の身体は柵の上に引っ張り上げられた。
そして冴子の足を江梨子、信代、利恵の３人が下から押し上げていた。

冴子は足を必死で柵に掛けようとしたが３人はものすごい力でつかんでいた。
その時、冴子の耳に恵子の声が聞こえた。

「さあ、行きましょう。」

その瞬間冴子の体は宙に浮いた。

「きゃあああああ～～～」
冴子の声が夜の町に響いた。



雅人はその時、自宅に帰っていた。

「どこに行ってたんだ？」

父の問いに雅人は答えた。
「恵子ちゃんって子と遊んでたんだ。」

「恵子ちゃん？どこの子だ？」

「知らない。」

「そうか。お母さんが探しに行ったんだぞ。それにしてもお母さん、遅いな。」

雅人は台所に行き冷蔵庫からジュースを取り出しグラスに注いだ。
そして右手でグラスを持って飲み干した。
飲み終えた雅人の右手の人差し指には小さな切り傷があった。



冴子はマンションの脇のコンクリートに横たわっていた。
血だまりの中で・・・
冴子を見下ろすように恵子がたたずんでいた。恵子の後ろには江梨子、信代、利恵の３人がいた。


やっと冴子は帰って来た。恵子のもとへ・・・・・・・・
恵子がつぶやいた。
「おかえり。」


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　終わり