それだけに冴子は雅人が気がかりだった。
恵子のように死んでしまうのではないかと心配でたまらなかった。

冴子は夫に雅人と一緒に風呂に入って、雅人の身体に傷がないか見てくれるように頼んだ。
風呂から出て来た夫に冴子は聞いた。

「ねえ、どうだった?」

「うん。身体に傷なんかなかったよ。」

「そう。よかった・・・ほっとしたわ。」

「でもおかしいんだよな。雅人は左利きだったよな?」

「そうよ。あの子が小さい時から左利きじゃないの。直そうとしていろいろやったけどダメだったじゃない。あなたも知っているでしょ?」

「そうだよな~でも・・・」

「なに?それがどうかしたの?」

「さっき風呂に入っている時、雅人右手で身体を洗っていたんだ。」

「まさか・・・見間違いじゃないの?」

「そうかなあ・・・」

冴子は身体の傷が無かった事に安心し、雅人が右手を使っていた事に意味があるとは思わなかった。



冴子は雅人の事を気にしながらも、他の3人の事も気になっていた。
冴子が戻ってきてから連絡をして来たのは信江だけだった。

「冴子、久しぶりね。元気だった?」

「あの、どなた?」

「わからない?私信代よ。」

「あの小学校で一緒だった信江?」

「ええ、そうよ。」

「私の電話番号よくわかったわね。」

「・・・ああ、冴子の実家で聞いたの。」

冴子は信代とはわからなかった。
冴子が知っている信代の話し方ではなかった。
信代は4人の中では身体も大柄で、性格も明るくのんびりとしていた。
話し方も性格同様ゆっくりおおらかだった。

しかし今の信代は気のせいか、昔のような大らかさが消えて低く抑えたような話し方だった。
冴子は少しとまどったが、大人になったのだと改めて多くの時間が流れた事を感じた。

「あ、そうだったの。信代、久しぶりね~。元気だった?」

「ええ・・・。冴子、どうして帰って来たの?」

「えっ?」

「冴子、よく聞いて。私たちは帰って来ちゃいけなかったのよ。」

「どういう事?」

「冴子、江梨子の事知らないのね。」

「江梨子がどうかしたの?」

「江梨子がこの町に帰って来たのは半年前だったわ。」

「へええ、そう。」

「帰って来て2ヶ月ぐらい経った頃、江梨子から電話があったの。」

「うん・・・」

「江梨子その時、言ってた・・・江梨子には裕美ちゃんっていう10歳の女の子がいてね。その裕美ちゃんが学校でいじめられてるって。」

「えっ?」

「前の学校では明るくて、クラス委員もしていたんですって。よく出来る子だったらしいわ。でも転校して来てからクラスでいじめられるようになって、毎日泣きながら帰って来るようになったんだって。」

「そう・・・かわいそうに・・・」

「それから何日もしないうちに裕美ちゃんがあのマンションから飛び降りたの。冴子覚えてるでしょ?恵子が自殺したあのマンションよ。」

「えっ!あのマンションってまだあるの?」

冴子は忘れようとして忘れられなかった恵子の顔を思い浮かべた。



                    つづく