冴子は担任だった荒木を思い出していた。
荒木も斎藤によく似ていた。
何事につけ無気力だった。

冴子は以前、教師になりたくてなったんじゃないと荒木が周りの教師に言っているのを聞いた事がある。当然生徒の事などどうでもよかったのだろう。

恵子がいじめられているのもうすうす感づいていたが、冴子達にも何も言わなかった。
恵子が何か言っていれば放っておく訳にもいかなかっただろうが、恵子は何も言わなかった。
その為両親も恵子がいじめられている事になかなか気付かなかった。
両親がその事を知った時には、既に恵子は追い詰められていた。

しかし果たして冴子たちにいじめているという実感があったかどうか、冴子自身にも今でもわからない。ただ恵子のおどおどする態度やいつも脅えている目つきが、冴子達の神経を逆なでるように感じていたのは間違いない。

恵子は冴子達が近付いて来るのを見ると、唇をキュッと噛んで、立ちすくんだ。
やがて自分の前で4人が立ち止まり、まわりをぐるりと囲まれると恵子は脅えた瞳で冴子達を見る。
そしていつも両手をぎゅっと握りしめ下を向く。
恵子はいつもこうして恐怖に耐えていた。

そんな恵子の姿を見ながら、冴子達はどうすれば恵子がもっとも恐がるのか考えていた。
その時の冴子達は、可愛い子供の顔に残忍な面影を浮かべていた。

ある日冴子達は、無理矢理に恵子をトイレに押し込んで出られないようにした。

「お願い。出して。」

「だめよ。あんたがいると教室が臭くなるのよ。あんたなんかトイレに居るのがお似合いよ。ずっとそこに居ればいいのよ。」
江梨子が汚いものでも見るように顔をゆがめながら言い放った。

「出して。ここから出して。利恵ちゃん、ドアを開けて。」
恵子はドアをドンドン叩いた。
4人の中で一番気の弱い利恵は恵子の言葉に辛そうにうつむいた。

「うるさいわね。騒いだって出られないわよ。」
冴子が言うと、江梨子が残忍な微笑みを浮かべて言った。

「きれいにしてあげましょうよ。」
そう言うと江梨子は掃除道具が入っているロッカーを開け、中からバケツを取り出した。
バケツに水を入れた江梨子は、トイレの中の恵子にその水をかけた。

「きゃあ~」
冴子、信代、利恵の3人も思わず息を呑んだ。

「これで少しはきれいになったでしょう。」

「あははは。ほんとね。」
3人は江梨子の言葉に笑った。

その時午後の授業開始を告げる予鈴が鳴った。

「あ、いけない。お昼休み終わっちゃう。さあ、行くわよ。」
江梨子は何事も無かった様にトイレから出て行った。
他の3人も後ろからついて行った。

4人の背後から恵子のすすり泣く声がくぐもって聞こえていた。


                   つづく