瑠衣はもう一度三人の顔が大きく写っている写真を見た。
どうもその中の一人に見覚えがある。

「え~っと・・・誰だっけ?どこかで見た事あるんだけど・・・」
瑠衣は必死で思い出そうとした。

「あ、これってあの国会議員?なんていったっけ?・・・」
瑠衣はテレビをつけた。

テレビではちょうどニュース番組を放映していた。
経済関連のニュースの後、最近世間を賑せている武器に転用されるおそれのある通信機を某中東国のテロ組織へ不正輸出したとの容疑で、一斉捜査の入った商社のニュースが映し出された。
テロ組織が摘発された為、商社が不正輸出をした事実が発覚したのだった。

そして今朝その商社の壇城(だんじょう)という社員が自殺した事を武器輸出事件との関連性を絡めて伝えていた。
その時自殺したという壇城という設計部門の社員の顔が、テレビの画面に映し出された。

瑠衣はテレビに映っている自殺したという男の顔を見て息を呑んだ。
その壇城こそがデパートで瑠衣に無理やりメモリーカードを押し付けて、あわてて走り去って行ったあの男だった。

「殺された・・・」
瑠衣はテレビを食い入るように見つめた。

「うそ・・・」
瑠衣はあの時の壇城の様子を思い出しながら、尚もテレビに見入っていた。
テレビの画面は次のニュースを映し出した。
与党である、自由党ナンバー2の大物議員の話題だった。
その大物議員が地方で行った講演会の様子だった。
大物政治家らしく恰幅のいい押しの強そうなその男の顔が大きく瑠衣の目の前に迫っていた。

男の名は橋口隆造という自由党の国会議員で、大臣を歴任して来ており現在の官房長官と共に次期総理の候補に上っている。
本来、橋口の手腕ならとっくに総理になっていてもおかしくなかったがその手腕には強引過ぎる所が有り、問題発言も度々有った。
その為にアジア諸国からの反発もあり、今まで総理になれずにいた。

おまけに橋口は時代劇にでも出て来そうな悪役のような顔をしていた。
いかにも何か企んでいそうな印象があり、国民には今ひとつ人気が無かった。
現代の政治家には手腕だけではなく、イメージも必要だった。

「あっ、これだ!」
瑠衣はパソコンの中の写真とテレビを見比べて思わず叫んだ。
橋口こそが壇城から渡された、メモリーカードの中の写真に写っている3人の男の中の一人だった。
瑠衣は目の前にある写真と書類の存在の怖さがわかってきた。

瑠衣は震える手でパソコンの中の写真と書類を印刷した。
10枚ほどの写真には橋口という国会議員と他に二人。
あとの二人も中々立派な身なりをしている。
どこかの大企業の重役といった風情だ。

じっと写真を見ていた瑠衣は他の二人もどこかで見たような気がした。
やがて瑠衣の頭の中に武器輸出のニュースがよみがえった。

「あー。さっきのニュースの・・・」
瑠衣はあわてて他のチャンネルに切替えた。
ちょうどさっきの武器輸出のニュースだ。

そこに映っていたのは瑠衣のパソコンの中の橋口と一緒に写っている写真の二人だった。
武器輸出をしたという商社の、社長の栗山と専務の川崎という人物だ。

「どうしよう・・・これ。すごい。」
瑠衣が手にしているメモリーカードの中身は今世間を騒がしているまさにその張本人だった。
しかもその当事者と国会議員の橋口が会っている写真、おまけに幾つもの数字が並んでいる書類も写っているのだ。
瑠衣にもその書類が持つ意味が想像出来た。

もしこれが世間に出れば橋口の政治生命は終わるだろう。
橋口の運命を握っている証拠の品が今瑠衣の目の前にある。

書類には名前と、その横にはおそらく贈賄の金額だろう数字が整然と並んでいる。
1000万単位の数字が幾つも並んでいる。
もちろん橋口の名前もある。
が、他に瑠衣も知っている政治家の名前も10人以上ある。
その中には、野党の幹部の名前も含まれている。
そして、さらにおぞましい事に経済産業省の役人の名前さえある。

表面上では激しくやり合っている立場の政治家達も、官僚も一皮めくれば一つ穴のムジナという事だった。
紳士面していても、ただの金と欲にまみれた薄汚れた連中なのだ。
今世間ではリストラに怯え、過酷な労働をやむなく続けている人が大勢いる。
さらにそれさえも出来ずにリストラされた挙句ホームレスになる事しか出来ずテント暮らしをする人々がいるという現実があるというのに、この連中はそんな人々を踏みつけその犠牲の上に生きているのだ。

瑠衣にこの写真が持っている事実の大きさが重くのしかかってきた。
今瑠衣が持っている小さなカードが、恐るべき平成一大疑獄事件の重大な証拠だった。
これが世間に出た時の衝撃の大きさは想像を絶するものだ。

瑠衣はいつの間にか手を握り締めていたが、その手の平はじっとりと汗をかいていた。

「私、とんでもない物をもらっちゃったんだ・・・」


                 つづく