瑠衣は、やっと自宅マンションに着いた。
転がるようにあわててエレベーターホールに飛び込んで行くと、ちょうど同じ階の2軒隣の住人がエレベーターを待っていた。

瑠衣が後ろを振り返ると、ついて来ていた人影も足音も消えていた。
外をのぞいてみてもやはり二人の気配はなかった。

瑠衣はやっと安心して自室へ入った。
部屋に入り、鍵をかけチェーンをかけても気味悪さは抜けなかった。

「ふうっ~。」

瑠衣は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出しごくごくと飲んだ。
そしてダイニングの椅子にそのままぐったりと座り込んでしまった。

どのくらいそうしていただろうか・・・
まだ瑠衣はミネラルウォーターのボトルを握り締めたままだった。

「ああ~あぁ。」
瑠衣はため息とも、なんともつかない息を一つ吐いて立ち上がった。

そして瑠衣はふと思いつき、道路に面している寝室の部屋のカーテンを少し開けそっと下をのぞいて見た。
するとマンションの前の道路に置いてある自動販売機の陰に昼間の二人が立っているのが見えた。
いなくなったのではなかったのだ。
瑠衣を見張っている。

「何なの?これ・・・冗談じゃないわ。どういう事?」
瑠衣はカーテンをそっと戻した。

「もうっ~~。深尋が言ってた通り、お見合いかな?お母さんに電話しなくちゃ。やめてもらわなきゃ。気持ち悪いったらないわ。」
怒りがこみ上げて来た瑠衣はすぐに受話器を取り、田舎の母に電話した。

瑠衣の母は名を璃ゝ子(りりこ)と言う。
瑠衣は母のこの名前が大好きだった。

呼び出し音を待つ間ももどかしかった瑠衣は受話器が上げられた瞬間に話し始めた。

「もしもしっ」

「はい。もしもし。西森でございます。」
懐かしい母、璃ゝ子の、のんびりとした声が聞こえてきた。

「もしもし、お母さん。私。」

「ああ、瑠衣。元気なの?どうしてるの?全然帰って来ないし。電話かけてもいつもいないし・・・。ちゃんとやってるの?たまには帰ってきなさいよ。」

「もう、お母さん。そんな事はどうでもいいのよ。」

「どうでもいいって事ないでしょ。」

「ああ、ごめん。そうじゃなくて・・・お母さん。ちょっと聞きたいんだけど、私にお見合いの話ってある?」

「何言ってるの?お見合いって?瑠衣がお見合いは絶対嫌だって言うからみんな断ってるのよ。お父さんもお母さんも本当はお見合いしてこっちで一緒に暮らして欲しいのに、瑠衣は全然聞いてくれないから・・・。瑠衣がお見合いする気有るならすぐにでも写真送るけど?」

「いらないわよ、そんなわけないでしょ。私はお見合いする気なんかないの。」

「そうなの?またお見合いの話なんかするからやっとその気になってくれたかと思ったのに。しようがないわね。とにかく一度帰って来なさい。お父さんも瑠衣の顔見たがってるんだから。」

「はいはい、わかりました。そうなの・・・お見合いは無いってことね・・・わかった。次の休みにはきっと帰るから。」

「本当ね。帰って来るのね?それでいつ帰って来るの?」

「えっと。まだいつになるかわかんないけどそのうち帰るから。じゃあごめんね。また電話するわ。」

「瑠衣!ちょっと待ちなさい。」
母はまだ話していたが、瑠衣は受話器を置いた。

そしてもう一度外をのぞいた。
さっきの二人の姿はもう見えなかった。

「何だったんだろう・・・あれって・・・いったいどうして私の事見張ってたんだろう・・・」
瑠衣は嫌な予感に寒気が走った。


                 つづく