ある日、梨絵の携帯電話に男からの伝言が入っていた。
「さよなら。僕は一人で逝くよ。僕は本当に君が好きだった。愛してた。ありがとう。幸せになってくれ。」

梨絵は聞きながら、泣いた。
淋しくて淋しくてたまらなかった。
梨絵は男に連絡しなかった。
男からも2度と連絡がなかった。


2ヵ月後、梨絵は結婚した友人の家を訪ねた。
帰りのバスの中から窓の外を眺めていた梨絵は男の姿を見た。
男が妻と子供らしい幼い男の子の手を引いて楽しそうに歩いていた。

「生きていてくれたのね。よかった・・・」

梨絵はため息を吐き出した後流れている涙を指でぬぐい見えなくなった男に聞こえるはず
のない言葉を言った。
「さようなら。」

もう後ろを振り返ることはなかった。
そして梨絵は携帯電話に残っていた男の名前を消した。


半年後、梨絵は駅に向かっていた。

「あの、すいません。」

梨絵が振り返ると若い男が近付いてきた。
「これ、落としましたよ。」
そう言って若い男は梨絵の定期券を差し出した。

「あ、すいません。ありがとうございます。」

「いいえ。」

「あの、良かったらお礼に食事をご馳走させて下さい。」

梨絵が言うと若い男は言った。
「そんな・・・大したことじゃありませんから。」

「いえ、それじゃ気がすみませんから、ぜひお願いします。」

梨絵は微笑みながら若い男を見た。


                       終わり