毬子は疲れていた。
大学を卒業してから12年今の会社で頑張って来た。
自分でも一生懸命やってきたと思っている。
会社を愛してもいたし、自分の仕事も好きだった。
だが、会社から見れば所詮は結婚までのつもりだったのだろう・・・
しかし、女も30歳を過ぎても辞めないと段々居づらくなって来る。
毬子は35歳になる。
もう居づらいなんてものではない。
上司どころか、若い女子社員からも冷ややかな視線を感じていた。
そしていつからだろう・・・
毬子は仕事にも会社にも何も期待しなくなっていた。
今日は25日・・・給料日だ。
最近は屈託を抱えながらの毎日が続いていたがやはり給料日はうれしい。
毬子は社用で外出していた。
仕事の帰りに何か買おうか、おいしい物でも食べて帰ろうかと思い巡らしながら、用事を済ませ帰社の途中だった。
少し前をホームレスがフラフラと歩いていた。
大丈夫かな・・・と思いながら見ていると、階段を転げ落ちていった。
毬子は固まったまま、動けずにいた。
その時、音も無く1台の車が止まった。
そして中から2人の男が出て来た。
2人とも全身真っ黒な服を着ている。
2人は倒れているホームレスの頭と足を持ち、あっという間に車の後ろに乗せてしまった。
車をよく見ると・・・
霊柩車?
そう、霊柩車だった。
「ええっ!!」
毬子は目を疑った。
運転席を見るともう1人男がいた。
それが映画やテレビに出て来るようないわゆる死神にそっくりだった。
毬子がじっと見ているとその男と視線が合ってしまった。
男は車から出て毬子の方に歩いてきた。
そして、毬子の目の前に来ると話しかけてきた。
「あなたはもう少し先ですよ。ははは。あと1週間待っていただければお迎えに参りますよ。」
毬子は聞き間違いだと思った。
「えっ!お迎えって?」
「あ、失礼しました。まだメールは届いてなかったですか。」
「メール?」
「そうですよ。最近はシステムが変わりましてね。
お迎えの1週間前にはメールでお知らせするようになっております」
毬子はイライラして来た。
「だからお迎えって何ですか?」
「そりゃ、もちろんあなたをあの世へお連れするんですよ。
つまりこちらの世界風に言うとあなたは死ぬんですよ。こちらの世界からあの世へ行っていただくという事です。」
「何ですって!」
「そんなに驚く事はないじゃありませんか。
あなたはずっと今の仕事にも生活にも絶望していたんじゃないですか?
すっかりやる気をなくして何の目的もなく毎日をただ惰性で生きている・・・
それは死んでいると同じ事じゃないですか。
この世で死んだように生きるか、死んであの世へ行くか・・・たいして変わりはないじゃないですか」
男はマントの下から手帳を出しページをめくっていたが、やがて顔を上げ毬子に言った。
「えーっと・・・現在のシステムでは、あなたのように無意味な人生を送る猶予期間は6ヶ月までとなっておりまして。期間を過ぎるとあの世へ行っていただくことになっております。
あなたはちょうど後1週間で期間満了ですので、1週間後のお迎えという事になります。」
「・・・・・・・・」
毬子はもう何が何だかわからなくなった。
「どうして?どうして私が死ななきゃいけないの!」
「それはあなた自身がよくわかっているはずでしょう。あなたは精一杯生きていると言えますか?」
「それは・・・。私はどうすれば・・・どうすれば死なないで済むんですか?」
「そうですね・・・期間満了までの1週間の間に何か目標か夢を見つけられれば期間延長できるかもしれません。」
「・・・わかりました。1週間ですね。それまでに必ずなにか見つけます。」
「それじゃあ、1週間後にもう1度お会いしましょう。一緒にあの世へ行けるといいのですがね」
死神は車に乗り込むとまた音も無く走り去って行った。
つづく
大学を卒業してから12年今の会社で頑張って来た。
自分でも一生懸命やってきたと思っている。
会社を愛してもいたし、自分の仕事も好きだった。
だが、会社から見れば所詮は結婚までのつもりだったのだろう・・・
しかし、女も30歳を過ぎても辞めないと段々居づらくなって来る。
毬子は35歳になる。
もう居づらいなんてものではない。
上司どころか、若い女子社員からも冷ややかな視線を感じていた。
そしていつからだろう・・・
毬子は仕事にも会社にも何も期待しなくなっていた。
今日は25日・・・給料日だ。
最近は屈託を抱えながらの毎日が続いていたがやはり給料日はうれしい。
毬子は社用で外出していた。
仕事の帰りに何か買おうか、おいしい物でも食べて帰ろうかと思い巡らしながら、用事を済ませ帰社の途中だった。
少し前をホームレスがフラフラと歩いていた。
大丈夫かな・・・と思いながら見ていると、階段を転げ落ちていった。
毬子は固まったまま、動けずにいた。
その時、音も無く1台の車が止まった。
そして中から2人の男が出て来た。
2人とも全身真っ黒な服を着ている。
2人は倒れているホームレスの頭と足を持ち、あっという間に車の後ろに乗せてしまった。
車をよく見ると・・・
霊柩車?
そう、霊柩車だった。
「ええっ!!」
毬子は目を疑った。
運転席を見るともう1人男がいた。
それが映画やテレビに出て来るようないわゆる死神にそっくりだった。
毬子がじっと見ているとその男と視線が合ってしまった。
男は車から出て毬子の方に歩いてきた。
そして、毬子の目の前に来ると話しかけてきた。
「あなたはもう少し先ですよ。ははは。あと1週間待っていただければお迎えに参りますよ。」
毬子は聞き間違いだと思った。
「えっ!お迎えって?」
「あ、失礼しました。まだメールは届いてなかったですか。」
「メール?」
「そうですよ。最近はシステムが変わりましてね。
お迎えの1週間前にはメールでお知らせするようになっております」
毬子はイライラして来た。
「だからお迎えって何ですか?」
「そりゃ、もちろんあなたをあの世へお連れするんですよ。
つまりこちらの世界風に言うとあなたは死ぬんですよ。こちらの世界からあの世へ行っていただくという事です。」
「何ですって!」
「そんなに驚く事はないじゃありませんか。
あなたはずっと今の仕事にも生活にも絶望していたんじゃないですか?
すっかりやる気をなくして何の目的もなく毎日をただ惰性で生きている・・・
それは死んでいると同じ事じゃないですか。
この世で死んだように生きるか、死んであの世へ行くか・・・たいして変わりはないじゃないですか」
男はマントの下から手帳を出しページをめくっていたが、やがて顔を上げ毬子に言った。
「えーっと・・・現在のシステムでは、あなたのように無意味な人生を送る猶予期間は6ヶ月までとなっておりまして。期間を過ぎるとあの世へ行っていただくことになっております。
あなたはちょうど後1週間で期間満了ですので、1週間後のお迎えという事になります。」
「・・・・・・・・」
毬子はもう何が何だかわからなくなった。
「どうして?どうして私が死ななきゃいけないの!」
「それはあなた自身がよくわかっているはずでしょう。あなたは精一杯生きていると言えますか?」
「それは・・・。私はどうすれば・・・どうすれば死なないで済むんですか?」
「そうですね・・・期間満了までの1週間の間に何か目標か夢を見つけられれば期間延長できるかもしれません。」
「・・・わかりました。1週間ですね。それまでに必ずなにか見つけます。」
「それじゃあ、1週間後にもう1度お会いしましょう。一緒にあの世へ行けるといいのですがね」
死神は車に乗り込むとまた音も無く走り去って行った。
つづく