男は石原修二と名乗った。
28歳の営業マンでやはり佐紀と同じように時間つぶしの為この店に入ったのだと言った。
ひとしきり話終えた後、修二は佐紀に言った。
「実は僕、今月いっぱいで今の会社辞めるんです。」
「えっ?」
「僕の家は両親が共働きで、僕は子供の頃からずっと両親が帰ってくるまで一人でした。
でも少しづつ家の事を手伝うようになってだんだん料理にも興味を持つようになって。
父と母と僕の食事は小学生の頃から僕が作ってました。
おいしいって言って喜んで食べてくれるそのひと時が僕にはとても大事な時間でした。
3人で食事をしている時もそして料理を作っている時もとっても楽しかったんです。
だから一人でも全然淋しくなかった。
母が仕事を辞めて家にいるようになっても僕は時々作っていました。
そしていつの頃からかもっともっと料理をしたい、いつか料理の勉強をしてコックになりたいと思うようになったんです。
でも両親は許してくれませんでした。
母に随分泣かれましてね。僕はあきらめて大学を卒業し就職しました。
でも、やっぱり料理の道が忘れられなくて・・・で、1年前から料理学校で勉強を始めたんですが、来月フランスに行ける事になったんです。
料理学校の先生が紹介してくれて三ツ星レストランで修行させてもらえる事になりました。
あれ、初対面のあなたにどうしてこんな事話してしまったんだろう・・・」
「すごいですね。夢を追い続けるなんて。」
「いやー、そんな~。ただ後悔したくなかったんです。
サラリーマンとして働いてきましたけどなんか違う、自分の人生これでいいのかって思いがどんどん強くなって。そうしたらあきらめたはずの夢がもう抑えきれなくなってしまったんです。」
「そうですか・・・私、夢なんて、見ることも忘れてた・・・」
「今までにやりたい事とかなかったんですか?」
「・・・あっ。あったわ。私子供の頃アナウンサーに憧れてて、高校生の頃は放送部に入って一生懸命発声練習とかしてた。」
「へええ。アナウンサーですか・・・素敵だろうな。」
「あはは。やだ。その夢も大学に入って毎日遊んでるうちにとても叶わない夢だってあきらめちゃって。今あなたと話すまですっかり忘れてたぐらいだもの」
「でも、いいじゃないですか。今からだっていくらでも夢に向かって歩き出す事は出来ます。どうですか?僕と競争しませんか?どちらが先に夢を叶えるか。」
「えええ」
「僕は2年したら日本に帰ってきます。2年後のクリスマスにもう一度会ってお互いの夢に向かってどれだけ近づけたか確認しましょう」
「でも・・・。そうね。そうしましょう」
「約束ですよ。楽しみが出来ました。僕、頑張れそうです。」
「ええ。わたしも。」
修二と佐紀は握手をした。
そして今佐紀は新しい生活を始めようとしていた。
テーブルや椅子はリサイクルショップで買ったが一つだけ少し身分不相応な家具を買った。
高校生の頃一人暮らしを思い描いていた頃、真っ赤なソファをリビングに置きたいと思っていた。
一歩踏み出す為に買ったのが赤いソファだった。
これからこのソファと嬉しい事も悲しい事も一緒に経験していくのだ。
そして2年後、修二に会う時はどんな私になっているんだろう。
これからは自分で自分を楽しみながら歩き始めるのだと佐紀は思った。
その時、佐紀は修二の乗った飛行機のエンジン音を聞いたような気がして窓から空を見上げた。
真っ青な空に一筋の飛行機雲がくっきりと浮かんでいた。
終わり
28歳の営業マンでやはり佐紀と同じように時間つぶしの為この店に入ったのだと言った。
ひとしきり話終えた後、修二は佐紀に言った。
「実は僕、今月いっぱいで今の会社辞めるんです。」
「えっ?」
「僕の家は両親が共働きで、僕は子供の頃からずっと両親が帰ってくるまで一人でした。
でも少しづつ家の事を手伝うようになってだんだん料理にも興味を持つようになって。
父と母と僕の食事は小学生の頃から僕が作ってました。
おいしいって言って喜んで食べてくれるそのひと時が僕にはとても大事な時間でした。
3人で食事をしている時もそして料理を作っている時もとっても楽しかったんです。
だから一人でも全然淋しくなかった。
母が仕事を辞めて家にいるようになっても僕は時々作っていました。
そしていつの頃からかもっともっと料理をしたい、いつか料理の勉強をしてコックになりたいと思うようになったんです。
でも両親は許してくれませんでした。
母に随分泣かれましてね。僕はあきらめて大学を卒業し就職しました。
でも、やっぱり料理の道が忘れられなくて・・・で、1年前から料理学校で勉強を始めたんですが、来月フランスに行ける事になったんです。
料理学校の先生が紹介してくれて三ツ星レストランで修行させてもらえる事になりました。
あれ、初対面のあなたにどうしてこんな事話してしまったんだろう・・・」
「すごいですね。夢を追い続けるなんて。」
「いやー、そんな~。ただ後悔したくなかったんです。
サラリーマンとして働いてきましたけどなんか違う、自分の人生これでいいのかって思いがどんどん強くなって。そうしたらあきらめたはずの夢がもう抑えきれなくなってしまったんです。」
「そうですか・・・私、夢なんて、見ることも忘れてた・・・」
「今までにやりたい事とかなかったんですか?」
「・・・あっ。あったわ。私子供の頃アナウンサーに憧れてて、高校生の頃は放送部に入って一生懸命発声練習とかしてた。」
「へええ。アナウンサーですか・・・素敵だろうな。」
「あはは。やだ。その夢も大学に入って毎日遊んでるうちにとても叶わない夢だってあきらめちゃって。今あなたと話すまですっかり忘れてたぐらいだもの」
「でも、いいじゃないですか。今からだっていくらでも夢に向かって歩き出す事は出来ます。どうですか?僕と競争しませんか?どちらが先に夢を叶えるか。」
「えええ」
「僕は2年したら日本に帰ってきます。2年後のクリスマスにもう一度会ってお互いの夢に向かってどれだけ近づけたか確認しましょう」
「でも・・・。そうね。そうしましょう」
「約束ですよ。楽しみが出来ました。僕、頑張れそうです。」
「ええ。わたしも。」
修二と佐紀は握手をした。
そして今佐紀は新しい生活を始めようとしていた。
テーブルや椅子はリサイクルショップで買ったが一つだけ少し身分不相応な家具を買った。
高校生の頃一人暮らしを思い描いていた頃、真っ赤なソファをリビングに置きたいと思っていた。
一歩踏み出す為に買ったのが赤いソファだった。
これからこのソファと嬉しい事も悲しい事も一緒に経験していくのだ。
そして2年後、修二に会う時はどんな私になっているんだろう。
これからは自分で自分を楽しみながら歩き始めるのだと佐紀は思った。
その時、佐紀は修二の乗った飛行機のエンジン音を聞いたような気がして窓から空を見上げた。
真っ青な空に一筋の飛行機雲がくっきりと浮かんでいた。
終わり