佐紀は自分部屋のドアの前に立ち、一つ深呼吸をした。
ショルダーバッグのポケットから部屋の鍵を取り出し少しぎこちない仕草で鍵穴に新しい鍵を入れ、力を入れて鍵を廻した。ド
アはガチャッと軽い音をたてた。
佐紀はドアを開け自分の部屋に入った。
部屋にはまだ片付けられていない荷物がいくつも積んである。
佐紀はテーブルの上にバッグとアナウンサー学校の資料を置いた。
そして水道の蛇口をひねり流れ落ちる水を満足そうに見つめていた。
佐紀は商社としては中ぐらいの規模の商事会社のOLだった。
高校を卒業してから12年。
就職し、親元から毎日会社に通い続け、いつの間にか12年経ってしまった。
20代の前半頃まではそれでも同僚たちと飲み会や合コンと遊び歩いたし、旅行にもあちこち出かけそれなりに楽しい毎日を過ごした。
社内恋愛も不倫も経験した。
そして20代後半になって佐紀は気づいた。
社内でいつの間にか自分がベテランと呼ばれるようになり、後輩の女子社員からは煙たがられるようになって、最近では飲み会に誘われる事もなくなった。
同期で入社した女子社員はみんな結婚退職したり、転職したりして結局佐紀一人が残った。
自分が職場で一人浮いた存在になっている事は認めたくなかったが厳然とした事実だった。
家では両親が見合いの話を持ってくるが、全く気乗りせず写真を見ることも無かった。
佐紀には両親の心配がうっとうしく、一人暮らしを考えた事もあったが一人立ちする踏ん切りもつかなかった。
何より親元にいれば小遣いも思うまま、洗濯や掃除もしてくれる。
こんな楽な暮らしと人暮らしの不自由さは比べられるものではなかった。
佐紀はそんな毎日を過ごしながらいつか仕事にも恋愛にも飽きていた。
つづく
ショルダーバッグのポケットから部屋の鍵を取り出し少しぎこちない仕草で鍵穴に新しい鍵を入れ、力を入れて鍵を廻した。ド
アはガチャッと軽い音をたてた。
佐紀はドアを開け自分の部屋に入った。
部屋にはまだ片付けられていない荷物がいくつも積んである。
佐紀はテーブルの上にバッグとアナウンサー学校の資料を置いた。
そして水道の蛇口をひねり流れ落ちる水を満足そうに見つめていた。
佐紀は商社としては中ぐらいの規模の商事会社のOLだった。
高校を卒業してから12年。
就職し、親元から毎日会社に通い続け、いつの間にか12年経ってしまった。
20代の前半頃まではそれでも同僚たちと飲み会や合コンと遊び歩いたし、旅行にもあちこち出かけそれなりに楽しい毎日を過ごした。
社内恋愛も不倫も経験した。
そして20代後半になって佐紀は気づいた。
社内でいつの間にか自分がベテランと呼ばれるようになり、後輩の女子社員からは煙たがられるようになって、最近では飲み会に誘われる事もなくなった。
同期で入社した女子社員はみんな結婚退職したり、転職したりして結局佐紀一人が残った。
自分が職場で一人浮いた存在になっている事は認めたくなかったが厳然とした事実だった。
家では両親が見合いの話を持ってくるが、全く気乗りせず写真を見ることも無かった。
佐紀には両親の心配がうっとうしく、一人暮らしを考えた事もあったが一人立ちする踏ん切りもつかなかった。
何より親元にいれば小遣いも思うまま、洗濯や掃除もしてくれる。
こんな楽な暮らしと人暮らしの不自由さは比べられるものではなかった。
佐紀はそんな毎日を過ごしながらいつか仕事にも恋愛にも飽きていた。
つづく