綾子は意を決したように席から立ち上がると里美の前に立った。
だが里美は席を立とうとした。
しかし綾子の必死の思いは全身からみなぎっていた。
その勢いに押されて里美は座り込んだ。

「里美さん、お願い。聞いてほしいの。本当にごめんなさい。昨日私ちゃんと言えなくて・・・。私は里美さんのお父様の事きっと何かの行き違いだと思っています。私、里美さんの事大好きです。里美さんのお父様の事も信じています。これからもずっとお友達でいてください。お願いします。」

教室の中は水を打ったようにシンと静まり返り、昨日綾子に取り入っていた級友は悔しそうに唇を噛んでいた。

「綾子さん、ありがとう。私こそごめんなさい。追いかけて来てくれてた事わかってたのに・・・私からもお願いします。これからもずっと仲良くしてください。」

里美の頬に涙が流れた。
綾子も泣いていた。やがて二人ともにっこり笑った。

「この写真のおばあちゃま、とっても楽しそう。横のお友達と寄り添うようにして・・・」
郁美は1ヶ月前に逝ってしまった祖母の綾子の遺品の整理を手伝っていた。

「ほら、お母さん。この写真見て。」

「あら、本当に。おばあちゃまが女学生の頃ね。裏に名前が・・・。親友・里美と共にって書いてあるわ。」

「ふうううん、親友か・・・おばあちゃまの青春時代ね。素敵ね。」

郁美はいつも綾子が座っていた籐の椅子を見ると、綾子が楽しそうに微笑みながら郁美を見ていた。

「えっ!」
郁美は思わず目をこすった。
郁美がもう1度見直すと、籐の椅子だけがかすかに揺れていた。

その時一陣の風が吹き、どこからか花びらが2枚ゆっくりと漂いながら綾子と里美の写真の上に舞い降りた。


                 終わり