郁美は祖母の部屋をのぞいた。
祖母は籐の椅子に腰掛けたまま眠っていた。
夢でも見ているのだろうか・・・指がかすかに動いた。
「さとみさん・・・ごめんなさい。許して」
郁美は祖母の眠りを邪魔しないようそっと部屋の戸を閉めた。
郁美の祖母、池内綾子は数年前に脳梗塞で倒れてた。
命は助かったが後遺症が残ってしまい、左半身が不自由になってしまった。
今ではトイレに行くのも大変になっていたが決して家族に頼ろうとしなかった。
昔は自宅でお茶を教えたりしていた事もあったが今は1日部屋にこもっている事が多くなった。
それでも気丈な祖母はいつも凛としていた。
郁美はそんな祖母が好きだった。
-綾子は夢の中にいた。-
夢の中の綾子は16歳だった。
ようやく戦争も終わりまだまだ物資は少なく、食料も不足していた。
綾子の通っている学校は戦前からの学校で、いわゆるお嬢様学校だ。
この時期に学校で勉強出来るのは財力のある親を持つ者ばかりだった。
綾子の家は代々続く旧家で綾子は一人娘だった。小さい頃から大事に育てられ美しく心優しく成長した。だが自分の意思を主張する事が無く、常に一歩引いてしまうようなところがあった。
そんな綾子が里美と知り合ったのは同じクラスになってからだった。里美の父はいわゆる闇屋上がりの成金だったが、その父親の希望で里美はこのお嬢様学校に通っていた。里美は押しの強い父親に似ず心優しい芯の強い少女だった。綾子は美しいだけでなく、成績も優秀でクラスの中では憧れの存在だったが他の高慢なところの多い級友達とは性格が合わず淋しい思いをしていた。そんな時里美と知り合った。綾子と里美は全く環境が違ったがすぐに仲良くなり、いつも一緒で周りからは双子みたいなどと言われていた。
そんなある日、里美の父が暴力事件を起こし警察に連行された。それは闇屋時代の仲間とのいざこざが原因だった。
すぐに里美の父の事はクラス中の噂になり里美が教室に入るとくすくす笑ったり、聞こえよがしに父親の事を囁くのだった。
里美にはクラス中の冷たい視線が突き刺さるようだった。
つづく
祖母は籐の椅子に腰掛けたまま眠っていた。
夢でも見ているのだろうか・・・指がかすかに動いた。
「さとみさん・・・ごめんなさい。許して」
郁美は祖母の眠りを邪魔しないようそっと部屋の戸を閉めた。
郁美の祖母、池内綾子は数年前に脳梗塞で倒れてた。
命は助かったが後遺症が残ってしまい、左半身が不自由になってしまった。
今ではトイレに行くのも大変になっていたが決して家族に頼ろうとしなかった。
昔は自宅でお茶を教えたりしていた事もあったが今は1日部屋にこもっている事が多くなった。
それでも気丈な祖母はいつも凛としていた。
郁美はそんな祖母が好きだった。
-綾子は夢の中にいた。-
夢の中の綾子は16歳だった。
ようやく戦争も終わりまだまだ物資は少なく、食料も不足していた。
綾子の通っている学校は戦前からの学校で、いわゆるお嬢様学校だ。
この時期に学校で勉強出来るのは財力のある親を持つ者ばかりだった。
綾子の家は代々続く旧家で綾子は一人娘だった。小さい頃から大事に育てられ美しく心優しく成長した。だが自分の意思を主張する事が無く、常に一歩引いてしまうようなところがあった。
そんな綾子が里美と知り合ったのは同じクラスになってからだった。里美の父はいわゆる闇屋上がりの成金だったが、その父親の希望で里美はこのお嬢様学校に通っていた。里美は押しの強い父親に似ず心優しい芯の強い少女だった。綾子は美しいだけでなく、成績も優秀でクラスの中では憧れの存在だったが他の高慢なところの多い級友達とは性格が合わず淋しい思いをしていた。そんな時里美と知り合った。綾子と里美は全く環境が違ったがすぐに仲良くなり、いつも一緒で周りからは双子みたいなどと言われていた。
そんなある日、里美の父が暴力事件を起こし警察に連行された。それは闇屋時代の仲間とのいざこざが原因だった。
すぐに里美の父の事はクラス中の噂になり里美が教室に入るとくすくす笑ったり、聞こえよがしに父親の事を囁くのだった。
里美にはクラス中の冷たい視線が突き刺さるようだった。
つづく