刀剣乱舞書いてしまった……。
オリジナル審神者(♂)が出てきます。
流行りにハマりブラック本丸です。
ご注意ください。
審神者簡単プロフィール
・高校生
・眼鏡男子
・特定の人物にだけ無自覚たらしになる傾向がある
・主夫レベルカンスト
審神者。
突如現れた、歴史修正主義者達に対抗するため、様々な時代から様々な人間が選抜されやつらの目論見を防ぐことを役目とした付喪神である刀剣男士達を使役する選ばれた人間。それが審神者である。
なんて体のいいことを言っちゃいるが、所詮審神者は犠牲だ。敵に負ければ別の審神者が用意されるし、代わりに戦ってくれる刀剣男士とかいう神様に気に入られたらそのまま生贄にされる。政府のやつらは神の意思なんて考えちゃいないから恨みを買っていたとしてもなんら不思議じゃない。審神者は神の怒りを静めるために用意された人柱。
周りから見ている俺からしたら、審神者になることができた、選ばれたのだ、と喜んでいる奴らが可哀想で仕方がない。喜んでいる奴らがこれから経験することを考えると絶対審神者なんかになりたいない、なれと言われたら全力でNOと答える自信が湧いてくるぐらいに絶対嫌だ。
そんなクソみたいな仕事を喜んで引き受けたようなやつの中には、神を神と思わず、むしろ自分が神、だとかふざけた妄想をしている奴がいる。
イケメンに囲まれて乙女ゲー感覚に陥り、仕事をしないでいちゃつくことに夢中になってしまったやつとか。美形があまりにいるもんだからそっちの趣味になってしまって夜な夜な、神相手だぞしっかりしろ目を覚ませと引っ叩きたくなるような男とか。中々出てこない刀を出したいがために、手入れもしないで戦場に出しまくて資材集めをしたやつとか。短刀を役立たずと切り捨て刀解したり、手入れもしないでそのまま転がしておくやつとか。まぁ、とにかく色々いるわけだが、大抵は神の怒りに触れることをしているわけで呪われて死ぬよりひどい目にあったやつが大半だ。使役するっつってもお願いする形なのをなぜわからないのか理解できない。お前周りに審神者見てこいと蹴っ飛ばしたくなる。
あとは、政府に捉えられて審神者の権利を剥奪され、もし喋ろうものならお仕置き部屋に連行される。
そういうやつらは無駄にプライドが高くて、やめさせられた腹いせに一般人は知るべきではないことをペラペラ言おうとする奴らが多く、それに困った政府はおいたが過ぎた審神者にお仕置きをすることにしたのだ。
ちなみに、敵のところに一人で放り出した方が早くね?という俺の質問に政府のやつはめんどくせっと返してきたんであいつ達は一度呪われて審神者の苦悩を知るべきだと思う。
お仕置きするのは誰がやるのかっつーと、政府の人間に才能を買われて拾われてきた生きることに困っている、俺のようなやつだ。
審神者の才能があった両親を歴史修正主義者達に殺された俺は何がどうなったのかその場にあった包丁を使って襲ってきた太刀を倒した。体はボロボロで血まみれだったしなにも覚えちゃいないがただ、憎くて仕方がなかったことだけは覚えている。その後、慌てて駆けつけてきた政府に保護され、政府の人間の一人のもとで世話になることになり、その人の仕事を手伝っていたらいつの間にかおいたが過ぎた審神者を捕まえる手伝いをされるようになって、そのまま暗殺術やら拷問やらを学ばされていたというわけだ。
普通の包丁一本だけで太刀を倒したのだから、歴史修正主義者達に脅威と認定されて殺されるかもしれない。その対策として覚えておけ、とか言ってたんだがな。騙される方が悪いの一言で片付けやがったあいつ呪われろ。
まぁ、両親の死が原因だったのか人の死に疎くなった俺は丁度いい人材だったんだろう。拾われた身なのに文句を言って俺が殺される側に回るのは困るし、いつかこれに慣れちまう日が来るのかと思うと嫌で嫌で仕方ねぇけど、文句も言ってられないから仕方ないと飲み込むしかないのだ。政府に助けてもらわないと俺みたいなのは簡単に死んじまう。
「だからってこれはねぇわ」
戸籍上では血のつながりはないが親子ってことになっている男が差し出してきたタブレットには俺が明日から派遣される本丸の状況とそうなった過程のことがみっちりと。思わずタブレットを放り出した俺は悪くない。
そもそも、入院ついでに勝手に調べられて審神者になる才能はないとわかっているはずだ。両親は才能があったのになぜない、と嫌味をちょうだいしたからよく覚えている。
新しい審神者が見つかるまでの間とは書かれているが、俺の才能ではできて刀剣男子達を人体のままにしておくこととぐらいだ。結界もギリギリではできるだろうが、本職のやつらに比べると薄い壁程度の強度にしかできないだろう。そんな俺が審神者になったところで戦果は出せないし、というか戦場にすら連れていけない。絶対に俺よりもうまくやれる審神者がいるはずだ。なぜ俺が抜擢されたし。
これがまだ、ちょっとした用事でしばらくの間本丸にいれない審神者の代わり、とかならまぁいいかと頷いただろうが、これはない。絶対ない。
「拒否権があると思ったか?」
「だと思ったよコンチクショーが!!」
■ ■
俺に課せられた仕事は、ブラック本丸過ぎたために解任されたクソ審神者の、後任の審神者が見つかるまでの間代理の審神者をする、というものだった。代理だから戦闘にはでなくていいし、遠征をさせる必要もない、刀剣男士達の怒りを買わない範囲のことなら自由にしていいとのことで、そのくせ金はがっぽり手に入る、なんていい仕事なんだろうと思うだろう。
ちなみにどれぐらいの金が入るか、というと将来少しは楽して暮らせるぐらいの金額だ。命が掛かっているというのに、将来の金についてどうするか悩んでいた俺は金のことを聞いて即答してしまったのだった。
だが、猛烈に帰りたい。
「おまちしておりました!」
タブレットと荷物片手にやってきた俺を迎えに来てくれたのは審神者のサポート役だという狐だった。帰りたい、今すぐに帰りたい。
もふもふと狐を撫でくり回しつつ、耳を傾ける。
「私はこんのすけと申します。それでは早速広間に行きましょう」
「行きたくないです」
「行きましょう」
「……はい」
さすがサポート役というか、なにも文句を言わずにもふらせてくれている。行くのを渋る俺の腕に抱かれつつ、道の案内をしてくれているし結構いいやつみたいだ。
だが、それでも足を動かしたくなくなるような殺気が、ずっと発せられている。玄関にいた時は臭ってこなかったが、刀剣男士達がいるという居間に近づく度に、血の臭いがしてきた。廊下も心なしか光がだんだんとなくなってきているし、空気がとてつもなく重い。
「大丈夫でございますか?」
「あー、ちょっと吐きそうだが……なんとか大丈夫だ」
神の殺気に晒されているせいなのか、気分が悪くなってきた。体にはずっしりとなにかが重みをかけてきてでもいるのかとてつもなく重い。一歩一歩踏み出すのにも一苦労だ。体も心も、これ以上先に進むことを拒否している。
それでも行かねばならない。メンタルケアは後任の審神者に丸投げするつもりでいるが、せめて一人でも多く手入れぐらいはしてやらないと後任が可哀想だ。正式な政府の人間ではないといえ、中に入った以上は途中で放り出すわけにはいかない。こうなればヤケだ、何があっても一人は手入れさせてもらうとしよう。
俺の体調を心配し声をかけてきてくれるこんのすけの優しさに心の中で泣きながら、体に鞭打ってズンズンと血で所々汚れた廊下を突き進む。俺が先に進むのを拒むように強くなる殺気に体が震え、今にも吐きそうだが、それは根性で耐える。ツンと鼻につく血の臭いは鼻が痛くなるほどに強いが、鼻を手で押さえることでどうにかする。
さぁ、着いたぞ。体はもう震えていない。血の臭いには少し慣れてきた。着いた途端に殺気が全身を切り刻むように強くなったがここで引いたら男の恥じよ、と自分を励まし大きく息を吸い込む。血の臭いが強い場所の空気はクソ不味いので余計吐き気が増した、失敗した。もう二度としない。
こんのすけを血で汚れた床に下ろすのはちょっと気が引けたので肩に乗せ、思いっきり襖を開く。
むっとした熱い空気と血の臭いが顔を襲い、朝食べたものが逆流しかけたが既のところで口にまで来るのは抑えた、よくやった俺。
中にいたやつらは、ひどい有様だった。全身傷だらけ、中には誰かに手を貸してもらって起き上がっているやつまでいる。入れば殺す、そういう目で俺を睨みつけている。
「今日から世話になる、新しく配属された代理の審神者だ」
配属っつっても、後任が見つかったらおさらばの名ばかり審神者だが、黙っていろと言われているので黙っておく。
「よろしく頼む」
予想通りだが、ガン無視はさすがに心にグサリと刺さるからやめてほしい。後ついでに殺気をしまってほしい切実に。
話しかけたところでどうせ無視なのは変わらないだろうからこんのすけに話しかける。
「こんのすけ、資源はどこにある」
「手入れ部屋にございます、ご要望通り、手伝い札共に42人分ご用意いたしました」
昨日のうちに説得(物理)をして用意させておいて心底よかった、ちょっとばかし殺気が弱くなったぞ。
しかしどうするか。手入れ部屋に来い、といって素直に来るとは思えないし、無理矢理連れて行こうものなら首が飛びそうで怖い。
はぁ、と息を吐き出し先に己の意志を伝えておくことにしよう。
「先に言っておく。俺はお前達に必要以上に関わるつもりはないし、仲良くしたいわけでもない。怪我したままでいたいっていうならそれでいいし、好きにしてくれ。ただ俺も好きにさせて、もらうぞ!」
俺の近くで弟達を守るかのように短刀を手に持ち俺を睨みつけていた資料では容姿に反して男らしい性格であり、頼りがいがあるためか一部の審神者からは兄貴と呼ばれていると記載されていた薬研藤四郎の腕を無理矢理掴み上げ、横抱きし一目散にその場から逃げ出した。
途端に罵声やら叫び声やらが響き渡り、鼓膜が破けそうだ。
彼の兄弟達は襖ごと、俺の足を突き刺そうとしたのか短刀が足元にこんにちわ、その兄弟の一番上扱いらしい太刀は襖ごと俺の首を飛ばそうとしたのか、襖の上の方がスパンと切り落とされ、鬼のような顔とこんにちわ。
事細かに説明してくるこんのすけのおかげでそれを知ることをできたので回避したにはしたが、首は柱と同じように傷はつけられてしまった。生暖かい液体が首を伝って気持ち悪し痛い。その痛みを我慢し走っている間に、腕の中の薬研は暴れ、更には俺の腹にグサリと短刀を突き刺してくれやがった。
痛い、とてつもなく痛い、それでもこいつ達が味わってきたであろう痛みに比べればなんてことない。口から零れそうになる血は無理矢理飲み込んで体の中に戻し、動くたびに出たり入ったりする短刀のせいで激痛が襲うが歯を強く噛み締めて気合で耐え、手入れ部屋に放り込む。
明らかに俺を殺そうと追いかけてくる奴らが入ってこれないように結界を張り、ドンドン、やら色々聞こえてくる音はガン無視し、驚いた顔で倒れたまま見てくる薬研を横目に自分の腕に噛み付き、勢いよく短刀を腹から抜き、自分の服で血を拭ってやってから手入れを始める。こんのすけには腹と首の応急処置を頼み、自分の刀を取り返そうと襲ってくる薬研は足を振り払って転ばせ、足に足を絡め動きを封じ込め、応急処置が終わったところで、上から応急処置を文句も言わずにしてくれたこんのすけと共に伸し掛かり、動きを封じ込んで薬研の怒鳴り声は無視して手入れに集中する。
ジタバタと暴れ、容姿に似合わない男前そうな声で思わず泣きそうになるような罵声を吐かれたが無視して手入れを進めていると、急に動かなくなった。慌てて起き上がると倒れたままピクリと動かない。脈を確かめるとちゃんと脈打っていた。呼吸ができなくなってしまったのかと焦ったが、しばらくするとすぅすぅと寝息が聞こえてきたので大怪我を負った状態で暴れたせいで疲れ果てたんだろうと推測し、手入れを続ける。
手伝い札を使って手入れはすぐに終わらせることができたが、薬研はまだぐっすりと眠っている。
その様子に安心すると途端に激痛が襲ってきた。腹を見れば巻かれたばかりの包帯が真っ赤に染まっている。遠慮なくぐさりと刺してくれやがってよっぽど触られたくなかったんだろう。心配した様子で顔を見上げてくるこんのすけの頭を撫でてやると毛布をとってきます、といって手入れ部屋から出て行った。外に鬼のような顔をしたであろう神々がいるはずなんだが、怖がる様子もなく出て行くとは度胸が据わってやがる。
刺される、ほかのやつらに襲われる、というところまでは予想の範囲内だったのでまぁ、問題ない。こんなこともあるだろうと、包帯やら消毒液やらを大量に注文しておいたし手当てに困ることもない。初日から使うことになるとはさすがに想定してなかったんだが、横抱きが悪かったか。
薬研を無理矢理部屋に入れた際に転げ落ちたタブレットを拾い上げ、中に保存されている書類にもう一度目を通す。
タブレットに書かれていた前任の審神者は同じ人間とは到底思いたくないような人間だった。今まで俺が捕まえてきた違反を犯した審神者を全部混ぜ合わせて出来上がったような最低な人間だった。そのくせ審神者としての才能はピカイチで、たった一週間で全ての刀を揃えやがったのだ。どんな非道な人間でも才能があるせいで失うわけにも行かず、しかし放っておくわけにもいかず、幾度となく監視者を送ったり、審神者に隠れてこっそりと手入れを別の審神者にしてもらえるようにと手配したりと政府はしていたようだが、それでもそいつが止まることはなかった。たんまりと資材は残っていやがるくせに、手入れをせず放っておき、休ませもせずに連戦し、腹が立てば暴力を振るい、夜な夜な自分の部屋にお気に入りの刀剣男士を呼び出しては、と本当に反吐が出る。
こんのすけが持ってきてくれた毛布を薬研の上に被せてやり、こんのすけを抱き上げる。
「ありがとうなこんのすけ。助かった」
首筋をもふってやるとこんのすけは気持ちよさそうに目を細めた。あーやばい、こんのすけをもふってるだけで癒される。こんのすけだけ持ち帰りできねェかな。
「なぁこんのすけ、すごい気配に包囲されてる気がするんだが」
「されていますね」
「抜け道あると思うか?」
「私めなら抜け出せますが……あなた様は無理でしょう」
最初はドンドンやら音が鳴っていたのに途中からしなくなったのでちょっとばかし安心していたんだが、気がつかなかった。完全に包囲網を張られ、逃げ道が一切ない。殺気が全方向から発せられているし、どこが誰、とまでは特定できないが確実に俺を殺すならレベルが高い者を配置しておくだろう。確実に首が飛ぶ、空に飛ぶ。
死ぬのは別に怖くない。一度死にかけたせいで死の瀬戸際に落とされても怖いとはちっとも思わない。だが、安々と死んでやるつもりはない。これから派遣されてくる審神者も殺させてやるつもりはない。戦いの中で生きてきたやつらに効果があるかは分からないが、何もせずに死ぬぐらいならみっともなく足掻いてみるとしよう。
「狸寝入りはやめたらどうだ、薬研藤四郎」
ピクリ、と毛布に包まった薬研が動く。しばらくするとこちらを睨みつけながら起き上がってきた。予定通りだ。
「いいぜ、殺りたきゃ殺れよ」
相手を挑発する顔を作り、薬研に短刀を投げて返してやる。俺を睨みつけたまま、片手で受け取った薬研だが目には少し迷いが見える。手入れされただけで自分がなにもされていないこと、自ら殺してもいいと言ったことに少しばかり動揺しているようだ。動揺してくれずに殺されたらどうしようかと思ったが、いらぬ心配だったようだ。
「だが、審神者がいなくなったら困るのはお前達だぜ? お前達だけじゃ手入れはできない。手入れができなければやがては……折れる。特に短刀は早く」
俺は本当の審神者じゃないからホントのところはどうだが知らないがどうやらこいつも俺と同じように知らないようで動揺しているのが伝わってきた。
「俺を殺して仲間が死んでいくのをなにもできずに見ているか、俺に手を貸すという屈辱を味わう代わりに仲間と共に生きるか、選べ!」
腹の傷がさっきよりも痛くなってきた。負傷しているのに無理して大きな声を出すべきじゃなかった。だが、痛みなんて気にしちゃいられない。薬研が下唇を強く噛み締めているのが、ぼやけている中で見えた。音は聞こえても、声は聞こえない結界の中では周りに意見を求めることもできず、決断することを迷っている。答えは決まっている、でも他のやつらが自分と同じだという確信がない。だからこそ、決めかねる。
薬研がガタガタと震え出した。
「俺は……」
薬研の言葉の続きを聞く前に、俺の視界は真っ黒に染まった。
■ ■
ぐちゃり、べちゃり、ぐさり、聞こえてくる音が全て不快で仕方がない。ベトベトに体に絡み付いてくる赤い液体も、足元になんだがよくわからない真っ赤な塊とキラキラと光る緑色の物体が散乱していて、それを見ているとひどく気分が悪くなる。目を逸らすと、手が真っ赤に染まっていた。真っ赤な手で、真っ赤になった包丁を握っていた。
その包丁が氷のように冷たくて、何かの液体がボロリと目から零れた。
「……最悪だ……」
一体なんの夢だったのか、起きた瞬間には覚えていたのにもう忘れてしまった。ただ、とてつもない不快感が残っているから昔のあの光景を夢でみたんだろう。最近は見ていなかったが、ちょっと前までは毎日のように見ていたせいで覚えちゃいないのにわかる。身を起こすと腹に激痛が走ったが我慢して起き上がり、枕元に置かれていた眼鏡をかける。意識を失っている間に着替えさせてくれたのか、寝着として持ってきていたゆるい服を捲ると丁寧に巻かれた真っ白な包帯が出てきた。こんのすけがやってくれたのだろうか。
夢見が最悪だった上に、激痛でもうこのまま部屋の中に篭っていたいところだが無理して手入れ部屋に小さな結界を張ってしまったせいで、本丸全体に張った結界が緩んでいる。心の中で愚痴をこぼしつつ、そのままの体制で結界を張り直していく。
「ん? ちょっと待てここどこだ」
手入れ部屋の構造と明らかに違うし、張りっぱなしになっていた結界の気配が遠くの場所にある。
その結界を壊して、本丸全体に張っている方に組み合わせてある程度強化できたが、侵入を防げるかと言われると微妙なラインだ。
結界を張り終え、部屋を見渡すと部屋が不必要に広い。俺はこの半分で十分だ。布団を畳み、とりあえず一番端にあった押し入れにしまっておいて、壁に寄せられていた荷物の整理を始める。着替えと、念のための救急箱と勉強道具しか入っていないので簡単に終わる。もう一つ持ってきたものがあるが、それは布団をしまった押し入れの奥の方に隠してしまっておく。
布団から少し離れたところに置かれていたテーブルは鞄が置かれていたところに設置し直し、その上に適当に勉強道具を置く。刀剣男士達がいた部屋とは違ってこっちの部屋は綺麗に掃除されているのは審神者が使っていた部屋だからなのだろう。
「こんのすけ」
どこだ、と続けようとする前に、襖を開けてこんのすけが入ってきた。
「おはようございます、主様」
主様、と言われてむず痒くなったが、やめてくれと言ったところでこんのすけにとってはいまの主は俺なんだからまぁ、いいとしよう。可愛いから許す。
「あぁ、おはよう。てっきり金に物言わせたぜ!っていう部屋を想像してたんだが意外と普通なんだな」
「全て処分させていただきましたので」
「……容赦ねェな」
可愛い顔でなんてこと言いやがる。
物に罪はないのだから寄付とかにしておけと言いたいところだが処分しちまった方が気分的には楽だろう。汚い奴が買ったものなんて寄付しようとは思わないか、普通。ファイヤー!と叫びながら焚き火してやろうと思っていたのだが捨てられちまったものは仕方ない。
燃やしたかったなーとぼーっと考えていると、下からこんのすけが顔を覗いてきた。心配をしてくれているこんのすけをもふりつつ、心配かけたことを謝ると撫でてくださいと要求されたので遠慮なくもふり続けた。こんのすけに癒され、仕事を始めるかと腰を上げると戸越しに、少しいいか、と誰かに声をかけられた。
「誰だ」
「薬研藤四郎、だ」
「は? え、や、薬研、はぁ!?」
「……悪い、俺の顔なんてみたくないよな」
昨日あれだけ嫌がっていた薬研が自ら俺のところを訪ねてきたということに驚き、情けない声をあげたのだが、どうやら薬研は俺が自分のことを嫌ったと誤解させると後々面倒なので慌てて訂正する。
「いや、驚いただけだ。ちょっと待ってろ、こんのすけ座布団どこだ」
「こちらです」
「これか」
適当に向き合うように座布団を置いて、戸を開く。
ちょこん、と開けたすぐそばに座っていた薬研は俺が顔を見せたことに目を見開き固まった。そんなに驚くことか、と思いつつ入るように言って座布団に座る俺に対し、薬研はその場所から動かず、こちらをチラチラと見るだけだ。
「……中に入っていいぞ」
なんだか悪いことをしているような気分になってきた。
本物じゃない審神者なのに主扱いされているかのような行動をとられると居心地が悪いので大変やめていただきたい。
で、なんのようだ。と尋ねると少しビクリとしてから俺の様子を上目で探りながら、薬研は口を開いた。
「あんたは、一体なんだんだ」
ズルッと腕を滑らせすっ転けた。
暗殺でもされるのかと覚悟していたというのに見ればわかるようなことを聞いてきたので拍子抜けし、芸人ばりの勢いで転けた、恥ずかしい、消えたい。
薬研はというと、いきなり転けた俺を心配してくれているのかおろおろとしている。恐怖に支配され、人の腹をぐさりと刺してくれたやつとは思えない表情だ。本当は、こういう顔をするやつなんだろうか。
恥ずかしい、と思いながら起き上がり、コホンと咳をしてから返答する。
「どっからどう見ても人間だと思うんだが」
「人間は自分を刺したやつを部屋に簡単に入れたりするのか?」
「……しないわー」
今薬研に言われてそうだな、と同意してしまった。
ガン無視の上に、手入れしようとしただけなのに二箇所に傷を負ったわけだ。しかも両方とももうちょっとずれていたら確実に死んでいた箇所で、その相手に座布団までひいてやって部屋に入れる俺は普通じゃないな、うん。
けど人間であることに変わりようはないし、しっかり否定しておかないで変な誤解を生ませてめんどくさいことになりそうだがあいにく人間だという証拠を見せろと言われてこれが人間です、という証拠を持ち合わせていない。
「なんで俺を手入れしたんだ、殺されるとは思わなかったのか?」
「思わなかったわけじゃねぇよ、むしろ殺されるとしか思ってなかった」
空きっぱなしの戸の向こうから小鳥の鳴き声が聞こえてきた。愛らしい鳴き声を聞いていると幾分か心が軽くなる。
そういや、腹が減ったな。
「なぁ、お前飯は?」
「まだ、だけど」
「そうか、じゃあついてこい」
審神者としての威厳云々と言われ、支給された服は通っている学校の制服とその上から羽織るなんだかよくわからない真っ白な布に赤いラインが入っている着物。たまにすれ違う学生審神者が羽織っているものと同じものらしいが、これの名前は聞き忘れたので羽織る着物でいいだろう。
寝着は脱ぎ捨て、鞄から着替えを取り出して手早く身に付け、着物を羽織り、念のためと持たされた物を薬研に隠れて服の中に隠し、部屋から出る。
春が近いこともあって日差しが暖かい。春が終わる頃には後任が来てくれるだろうか。
俺の横をとことこと歩くこんのすけを抱き上げ、行きたい場所にはどう行けばいいのか案内してもらう。途中殺気に晒されたが昨日のお陰で大分慣れた。人間の慣れのスピードは怖いほどに早いのだ。
居間の近くにある部屋に入り、椅子を少し引いて薬研にそこに座るように言いつけ、作業にかかる。二人分ならいつも作っているので、慣れたものだ。作るであろうと予測してこんのすけが先に米だけを炊いておいてくれたおかげで30分ほどで全てが終わり、出来上がったものを薬研の前に並べ、薬研の前の席の前にもう一つずつ並べる。
ぽかんとしている薬研を見て見に振りをして椅子に座り、箸を手に取る。
「いただきます」
香ばしくふっくらと焼けた鮭に箸を入れ、自分で作ったものだが甘さに舌鼓を打ちながら黙って食べ続ける。こんのすけは食事を必要としないというので、隣の椅子に座って俺を見上げてきている。
「なぁ、これは一体なんなんだ」
「箸使えるか?」
「え、お、おう」
「だったら冷める前に食っちまえ。勿体ねぇだろ」
俺が薬研のことに目もくれず食事を続けていると、戸惑いながらも薬研も食べ始めた。まだ箸の扱いが不慣れなんだろう、少しばかり苦戦している。そこで手を差し伸べると箸の扱いがいつまでたっても上達しなくなるので見て見ぬふりをする。自分で言い出せばスプーン持ってきてやるけど。
早く食べ終わってしまった俺は食器を流しで丁寧に洗いながら、苦戦しつつも食べ進めている薬研の様子をこっそり伺う。俺がなにをしたいのかわからず混乱しているようだがそれでもちゃんと食べているし、時々ふにゃりと笑っている。その顔に思わず笑いそうになり腹に激痛が走って動きを止めていたことは俺しか知らない。
食器を拭き終わり、暇だったので二人分のお茶を入れてやることにした。
お茶を薬研のそばに置いて、俺はお茶を飲みながらこんのすけをもふる。すっかりもふることにハマりもふり続けていたら、いつのまにか薬研が食べ終わってお茶も飲み終わっていた。
食器は片付け、空になった湯呑にお茶を入れ直し、こんのすけを自分の膝の上に移動させてもふる。
俺の行動の意味を知りたいのか、薬研がじっと俺の顔を見てくる。
「腹はいっぱいになったか?」
「あ、あぁ」
「手入れをした理由、だっけか。なんでだろうな、最初は手入れしたいやつがいたらやるか、ぐらいに思ってたんだが、お前達を見たら何がなんでも全員手入れしてやる、と思った。んで、気がついたらお前を掴んでた」
ボロボロになりながらも仲間を守ろうと警戒心MAXで俺を睨みつけてくるやつ達を見て羨ましかったんだろう。両親に守られるだけで、守ることができなかった俺とは違って、守り守られるこいつ達が、羨ましかったんだろう。だから、あのままにしておけなかったのだろう。なにも考えずに体が動くまま動いていたので、あくまで推測だが、そう仮定するとしっくりくるから、これでいいということにしておく。
「……なんで、俺っちを?」
「近くにいたから」
即答する。
本来なら重症のやつから手入れすべきだったのだろうが、そういうやつは奥の方にいて中に入れば首が飛ぶ状態ではさすがに無理だった。だから、俺のわりかし近いところにいた薬研の腕を掴んだというわけだ。それに抱えて走りやすそうな体型だし。
薬研が迷うように顔を下に向けて湯呑に添えていた手をぎゅっと強く握り締めた。俺を殺そうと思っていたのに殺すのに迷いが出たか?とちょっとばかし安心していると、薬研が顔を上げた。
迷いが消え失せた、決意を固めた顔だ。
「俺を側近にしてくれないか!」
「…………なんだって?」
予想していなかったことで思わず聞き返してしまった俺が聞いたのは聞こえていなかったか?とでも言いたげな顔をしてもう一度言おうとした薬研の声ではなく、甲高い悲鳴だった。
慌てて、膝の上にいたこんのすけを抱き上げそのまま悲鳴が聞こた方向に向かって全速力で走った。ズキリと傷が痛んだが無視して、相変わらず血生臭い居間の襖を勢いよく開いた。
ムワリと、昨日より濃くなった血の匂いが体を撫でた。
短刀の一人が大泣きしながら寝ている大柄の男に縋り付いている。大柄の男の服は血だらけで周りには数珠が転がっていた。
「っ……入るぞ!!」
「やめてくださいいわとおしにちかづかないで!」
一歩踏み入れただけで殺気が肌を突き刺した。肌を斬りつけるような殺気に吐き気を覚えながら、それでも足を踏み出す。
いわとおし、データの最後に乗っていた薙刀の岩融か。確か、今のところ唯一の薙刀で弁慶が使っていたということで有名で、同じ刀派である今剣と仲がいい。岩融のそばで泣いているのがその今剣、なんだろう。大きな瞳からボロボロと涙をこぼしているくせに、俺を睨みつけてくる。手に持っている短刀は振るっただけで折れてしまいそうなほどにボロボロで、それを本人も理解しているはずだ。それでも守ろうと必死になっている。
ほかのやつらもそうだ。全員が全員ボロボロのくせに、仲間を守ろうと俺の前に立ちふさがって鋭い目つきで睨んでくる。
それでも立ち止まるわけにはいかない。成すべきことがって、それを成せる力があるんだから、それをしないわけにはいかない。俺は完全無欠の善人ではないが、見て見ぬふりをする悪人でいるつもりない。
服の中に隠し持っていた物、名のない短刀を床に落とす。
「俺を殺したいなら、殺せばいい。自分の刀が折れそうなら代わりにそれを使ってもいい」
俺の真意を探るように目を細めてくるやつもいれば、目を開きただただ驚いているやつ、色々いるが今気にしなければならないのは今剣だ。
今剣は後者でただでさえ大きな目をさらに開いてこっちを見ている。その今剣と目線が合うように跪いてできるだけ笑顔で話しかける。
「お前の友人を助ける手助けを俺にさせてくれないか?」
「てだすけ……?」
「あぁ、もし俺が変なことをしようとしたら遠慮なく殺してくれていいから手伝わせてほしい」
ちゃんと笑えているだろうか。怖がられていないだろうか。今剣に信じてもらえるかと不安で不安で仕方がない。頬が震えて、なんて情けないんだろうか。
「……ほんとに、ほんとにいわとおしをたすけてくれるんですか? いじめたりしませんか?」
「もちろんだ、監視してくれても構わないぜ」
そんなつもりはないが、俺が前の審神者のような人間だったら一体どうするつもりなんだろうか、殺すんだろうな後ろからグサリと。それは、嫌だな。
ダラダラと冷や汗を流し、信じてくれますようにと神頼みを――神の前でしてるんだから効果あるだろ、なかったら困る――して、周りにいるやつらをこっそりと伺う。
こんなことを言えば周りのやつらが黙っていないと思っていたが幽霊を見るような顔で俺を見ている。その様子に思わず吹き出してしまいそうになっただろ、どうしてくれる。なんでそんな顔をしているのか分からないが、この状態は好都合だ。放っておくのが一番いい。
「約束だ、今剣。俺はお前へにも友人にも酷いことはしない」
小指を立てて腕を伸ばす。
この約束の仕方がこいつらに通じるのかわからないが、調べている暇はないし仕方がない。
「ぜったい、ぜったいですよ、いわとおしをたすけてくださいね」
さっきよりもボロボロと大泣きし出した今剣は俺の小指を小さな手でぎゅっと握ってくれた。
「任せろ」
頭を一回だけ撫で、俺の後ろでずっと警戒してくれていた薬研とこんのすけに顔を向ける。
「こんのすけ、手入れの準備! 薬研、薙刀を手入れ部屋に持って行ってくれ! 岩融は俺が運ぶ、構わないな?」
こんのすけと薬研は有無も言わずに部屋から飛び出ていった。そのことに感謝しながら、今剣に問いかけるとこくりと小さく頷いた。
血でべっとりと汚れている岩融を苦労して背負い、一歩踏み出すがフラフラと揺れて転けそうで怖い。俺が転けたところで問題はないが、重症の岩融を背負ってとなるとぶつかっただけで折れそうで怖い。
まだ2、3歩しか歩いていないはずなのだが、汗がドッと出てきた。それもそのはずだ、自分より数十cmもデカイ大柄の男を背負って、というか引きずって歩いていんだから。この時点で息が上がってきたが、根性で歩くしかあるまい。もう少し鍛えておくべきだったとかは今考えてもどうにもならん。
眼鏡が邪魔で邪魔で仕方がない、ここまで眼鏡を邪魔に思ったことなんてないぞ、と意味もないことを心の中で愚痴りながら気合で足を進める。
俺の横を戸惑いながら、心配の眼差しを向けながら歩いていた今剣は見ていられなくなったのか後ろから支えて、俺が歩きやすいようにしてくれている。さっきまであれだけ警戒していたのに手伝ってくれるとはなんていい子なんだ、こいつら俺より年上だが体がちっこいせいで思わず泣きそうになった。
昨日は離れていて幸いだったと思ったが、今は設計した人物が憎くて仕方がない。前任の審神者呪われろ。
ずるずると音を立てながら廊下を汗水たらして転ばないように気を付けながらも歩いていると、額に汗を滲ませてた薬研が戻ってきた。小さい体にこの巨体が使う薙刀は重かっただろうに、持って行ってくれただけではなく戻ってくるとは、ダブルコンボで涙が出た。
二人が手伝ってくれたこともあり、なんとか手入れ部屋に寝かせることができた。こんのすけが準備してくれていた手入れ道具を手に取り、荒い呼吸のまま手入れを始める。短刀二人は畳みに倒れこみ、荒い呼吸を整えようと深呼吸をしている。あれだけがんばってくれたんだから、普通に休憩してくれて構わないのだがそれでもなにかしようとこちらの様子を観察してきている。今剣は監視しているのかしれないが。
手伝い札を使い、ひとまず薙刀を元に戻すことはできたが岩融の方は重症が過ぎた為にピクリとも動かない。
「今剣、お前も傷を治さないか?」
「え、ぼく、ですか?」
「あぁ、無理強いはしないけど」
元通りになった岩融にべったりとくっついていた今剣に念の為に聞いておくかと思い、聞いてみるとぎょっとした顔をされた。そんなに驚かなくても、とちょっとばかしショックを受けつつ、笑顔で言葉を続けるとしばらく間をあけてからコクリと頷いた。
いやです、ときっぱり言われるだろうなと思っていたので今度はこっちがぎょっとしてしまったが、すぐに顔を元に戻して短刀を受け取り、手伝い札を使って手入れを始める。岩融ほどではないが、今剣も重症だったせいか手入れを始めるとウトウトとし始め、薬研に支えられながら眠りに落ちた。岩融の隣に寝かせてやり、薙刀と短刀を並べて置いて、やっと一息つける。
どっと疲れが出てきて、その場に倒れこむように寝っ転がると、薬研とこんのすけが慌てた顔で顔を覗いてきた。その顔にびっくりして息を詰まらせたせいか、ゴホッと小さく咳が出てしまった。それをどう勘違いしたのか、薬研に起こされ、無理矢理血でべったりと汚れた服を脱がされ、なんだ、どうした、と声をかけても喋るなとマジトーンで叱られてしまった。
「大将、無理しすぎだ傷が開いちまってる」
「……忘れてた」
すっかり忘れていた。
岩融を運ぶことに夢中で怪我をしているということが頭から抜け落ち、薬研に言われて思い出した。朝は真っ白だったはずの包帯は真っ赤に染まり、よく倒れなかったなと思わず自分に感心していると、薬研はそれを感じ取ったのか、包帯を巻き終えると背中を強く叩かれた。
「だっ! や、薬研、おまっ……」
傷口に響き、蹲って薬研を睨みつけると男前な笑顔を返された。コノヤローと思いながら痛くないように寝っ転がり、眼鏡を外しておろおろとしていたこんのすけを抱き寄せ大きめの息を吐き出す。自分が思っていた以上に緊張していたんだろう、息を吐き出しただけなのになんだか楽になった気がする。
「薬研ちょっとこっちこい」
手招きをしてやると疑うことなくどうした大将と言いながら近付いてきた。まだ二日しか経っていないのに信用しすぎじゃないか?と思いながら自分の横を軽く叩く。
「ありがとう」
顔を覗いてきた薬研の頭をわしゃわしゃと撫でくり回し、下から見上げる。
「手伝ってくれて助かった、ありがとうな薬研」
ゆでダコみたいに真っ赤になった顔を見て笑ってやる。叩かれた仕返しのつもりで照れそうなことを言ってやろうとやってやったのだが効果は抜群だったようだ。
「さすがに疲れた、ちょっと寝るわ。お前も休めよ」
薬研の返事も聞かずに目を閉じると途端に眠気が襲ってきて、一日目に続いて視界が真っ黒に染まった。