【東京異端審問】 異様な日々 出会い2③ | Killing time

Killing time

よくわからないようなことをちょこちょこ呟くだけ。
小説を書いては消してをしているかも


自己満足の為に書いているので、ペタは出来るときにしかできません。

後ひとつ、だけ続くよ。眠い_(:3 」∠)_







「で、このおっさんどうしたんだよ」


30分程度、待ちぼうけをくらいやっと現れたと思った夢見店の亭主二人組は驚いたことに自分よりも背の高いスーツの男を一人引きずっていた。自分たちよりも遅れてやってきた少年が途中から手伝って店の中に拘束して放ったはいいが、亭主の二人共が疲労が酷くやっと話せるようになったのは20分後だ。

俺の今の心中は「お外怖いよ」状態だ、早く帰りたい。


『ボク達もよくわからない。いきなり襲われたから……』


たぬき仮面の方が答えた。答えたっつってもこっちの方は口から声を出して喋ってるわけじゃなくて、脳内に直接声を送り込んでくる。女とも男とも取れる声が脳内で勝手に再生されるのには驚いた。今はもうなれちゃったけど。


「襲われたァ? よく撃退できたな」


「異能でちょっとね。しばらくしたら覚めるんじゃないかな悪夢から」


思わず顔を顰める。

もう一人のきつね仮面の方が言った言葉は説明すると、二人の能力を合わせてこのおっさんに悪夢を見させてるってことだ。誰でもわかるだろうけど。この二人の能力は確か、たぬきの方がテレパシー、きつねの方が幻覚だった。だから、テレパシーで男が悪夢だと思うものを感じ取り、それを幻覚で作って、あとはきつね特有の能力の使い方で男に夢を詰め込んだ幻覚の弾丸を撃ち込み眠らせるだけで、男を撃退したのだ。普通ならできねーけど、たぬきの方の能力はかなり威力があるらしくできるらしい。その分疲労が酷いせいで20分もぼけっとする羽目になっちまったっていうわけか。それ記憶を詠む異能だろ!というツッコミは間違っている。多分この倒れてる男が勝手に思い浮かべてたんだろう、二人を夢見店ってことを知ったうえで襲ったってことだ。


「……お前らいつもこんなことやってんのか?」


『まさか。襲ってくる人なんてこれが初めてだよ』


「襲ってこなきゃ僕達はなにもしないよ、力なきただの一般の異能者だからね」


いや絶対ただの一般の異能者じゃないよな、という言葉は飲み込んでさっさと記憶を夢の弾丸にしてもらうことにする。

弾丸にしてもらうために必要なのは思い出すこと。夢なら自分の都合いいようにやっても問題ないんだろうけど俺がしてもらうのは被害者の記憶だから、よく思い出さないといけない。死の記憶なんてインパクト強すぎて忘れたくても忘れらんねーから必死に思い出す必要もないんだけどな。


「これで全てかい?」


「あぁ、全部だ」


思い出した記憶はたぬきの方からきつねに流される。俺から流れたもんを見ているはずなのにこの二人は一切動揺してない。テレパシーとサイコメトリーの違いは人か物かっていうだけで、感情をそのまま感じちまうのは同じはずなのに、この違いだ。さすがにちょっとショックだ、どんだけメンタル弱いんだ俺よ。

ぎゅっと握った手のひらをきつねが開くとその上には金色に輝く弾丸が握られていた。これが、夢の弾丸。

あとはこれを弥唯さんに撃ち込めば終わり。

壁に寄りかかって足で男をつついていた弥唯さんは白衣のポケットに手を入れたまま拳銃を構えたきつねの前に立つ。


「おい、運び屋ちょっと弥唯さんの後ろに立ってろ」


ドアの近くでぼけっとしていた運び屋に声をかけると、少し運び屋がびくついた。声かけられるとは思ってなかったなこいつ。まぁ、いい。ホントなら弥唯さんの後ろには俺が立ってるんだが、今日は俺より力持ちがいるんだからそっちに任せる。


「後ろの人、少し屈んで。僕の射撃の腕は素人に毛が生えたぐらいなんだ」


きつねがそういうと運び屋はなにも言わずに従った。弥唯さんの方がでかいけど頭を下げておいた方がいいのは撃たれるのが悪夢みたいなもんだからだろう。悪夢なんて誰でも見たくないしな。


「っ……!?」


拳銃を構えるきつねが引き金を引いた瞬間、運び屋がまたびくついた。

パンッ!っていう乾いた音が聞こえた時も一瞬ビクつき、撃たれた衝撃でそのまま倒れていく弥唯さんへの反応が遅れた。慌てて、俺と後からきたたぬきときつねの知り合いらしい少年が滑り込んで着てくれたからなんとか頭をぶつけることはなかったけど、頭以外は酷い音を立てて床に当たってしまった。

なにも言わずに後ろにたたせたのは俺だし、運び屋が夢を撃たれた後どうなるなんて知ってるはずもないし驚いて動きを一瞬止めるのは不思議じゃないんだが、おかしい。運び屋の反射神経がいかほどのものかは知らないけど、俺より数倍いいはずなんだ。なのに、俺が受け止められて運び屋が受け止められないはずがない。

カチャと音が聞こえ、顔を上げるときつねが運び屋に拳銃を向けていた。


「な、なにやってんだきつね!」


「ルイちゃん。彼に僕達の説明をしなかったね、それはだめだよ」


「はぁ?! い、いやそれは悪かったと思ってるけど、それと拳銃向けんのとどういう関係があんのさ!」


「ん? あ、これかい。これは彼が拳銃を怖がってるように見えてね、それを確かめるために」


確かめるためになにも言わずに拳銃向けるとか何考えてやがるんだこいつ。顔を顰めてきつねを睨みつける。


『大丈夫、彼のトラウマは彼に向けられた拳銃じゃないから』


それは大丈夫っていうのか、いや絶対言わないような気がするぞ。きつねだけだと思ったらたぬきの方もかよだめだこいつら。


「じゃー大丈夫だね!」


もう一人いらっしゃいましたァーーーーー!

おかしい、おかしいよぉ、この3人おかしいよぉ……。いやこの場合多数決で俺がおかしいってことになるのか!?嘘だろ!そんなのっておかしいよ!


「ルイちゃん思考乱れてるよ?」


「お前のせいだろ、このボケ!!」


てへっとでも言いたいのか片足をあげて片手をコツンと頭に軽くぶつけたきつねにちょっとイラッときた。顔が見えないから余計ムカつく。弥唯さんの仮面でも投げつけてやりたい衝動に駆られる。

まだ俺と少年の頭を抱えられている弥唯さんはよほど衝撃があったのかまだ起きれそうにない。仮面を奪い取って投げつけたいのをぐっと我慢して、少年に抱えさせているのは申し訳ないから手伝ってもらって俺の膝の上に頭を移動させた。

起き上がれはできなさそうだけど、少しぐらいは動けるらしい弥唯さんは体を横に向けて、そうだといきなり呟いた。


「あのね、この店ではみたい記憶を夢にしてくれるんだよー。もしみたい夢があるなら頼んでみるといいよ」


あー……こりゃ、企んでるときの言い方だ。運び屋が何をみたいのかわかってるくせにあえて知らないように言ってる。長年付き合ってるから俺にはわかるけど、運び屋はわかんねーだろうな。わざわざ教えてはやらないけど、心の中で憐れむ。教えなくても、弥唯さんが何かをするわけじゃないから大丈夫だ。だって、この人は役に立ちたいだけの人だから。

運び屋は弥唯さんの思惑も知らずに手帳にペンを走らせる。書き終えると運び屋は手帳を突き出した。きつねたちの方に向けてるからこっちからはまったく見えないけど、多分やってもらおうとしてるんだろう。完全にワケありだからなーこいつ。

たぬきがなにやら言っているのか、運び屋の顔がゆがむ。俺達の方にテレパシーを送り込んでいないからまったく聞こえないけど、たぬきの手が動いたのから見て多分、当たってるはず。それでもいいと言わんばかりに運び屋が頷くと、きつねが前に出て、手早く弾を入れ、躊躇なく引き金を引いた。

さっき、弥唯さんに向けられていたときはびくついたくせに、今度はまったく動揺するようなことはない。さっきの、たぬきが言ったことは正しかったってことか。

弥唯さんはそのまま倒れたっつーのに、我慢強いっていうかなんていうか、運び屋は少しふらついただけであとはもういつも通りにぴしっと立っている。それに比べてこの人は……。


「今日は重めだったからね、もう少し回復に時間がかかると思うよ」


「はぁ?」


目の前にかがまれて言われたことに思わず低い声で返事をしてしまった。それにいやな顔をするでもなく、きつねが続ける。


「幸せな夢ほど軽いから衝撃が少ない。だから撃ち込まれた後でもすぐに帰れるんだけど、悪夢は重いからしばらく立てなくなってしまうんだ」


あの人みたいにね、と倒れている男に指を向けきつねは言葉を足した。


「喜びは心を軽く、悲しみは心を重くする。その重みが体に負担をかけてしまうからよろけたり、今の弥唯さんみたいに倒れたりする。だから弥唯さんをあんまり怒らないでやっておくれよ」


つまり、なんだ?

いつも弥唯さんが倒れるのは弥唯さんが弱いってわけじゃなくて、撃たれたのが悪夢だからってことか?なんとなくこれで正解なのはわかるんだが、すっきりしない。合っているのか訪ねたいが、きつねは言いたいことだけ言って、倒れている男のところでなにやらごそごそしているので訪ねづらい。

名刺らしきものを引っ張り出した。しばらくそれをじっと見ていると他のもないかと男を回しながらポケットに手を入れたりしているが名刺以外は出てこない。携帯すら出てこないところを見ると単独犯だろうか。


「このおじさんどうするの?」


後ろから覗き込んで少年が尋ねるときつねの手を掴んで一緒に男を調べていたたぬきも尋ねるように下からきつねを見上げる。


「弥唯さん、今日のお代はこの人の記憶を操作することでどうだろう」


「え、いいの? 変えちゃったらなんでとか聞けなくなっちゃうよ?」


「気になるところだけど、喋りそうにもないんだよねこの人やのつく職業の人みたいだから」


少し離れているから、名刺入れごと投げつけてきた。慌ててキャッチして名刺を弥唯さんにも見えるように出してみると、聞き覚えのない名前の会社の社員だと書かれていた。


『この辺にある事務所』


なるほど、やがつく職業納得。ここらへんよくいるんだよな……顔怖い大人。このおっさんもそこのってことかよ、こ、こわっやだお外ほんと怖い!


「早く回復しろ弥唯さん! 俺もう帰る!」


「わー、ルイちゃんビビリぃー」


「なんでお前らが平気なのか理解できない!」


クスクス笑ってる弥唯さんに拳骨を一つ落として黙らせる。やっぱりこいつらといると俺が変人みたいだ、お前らだからな変人はお前らだからな!!


「えっとぉー、言霊の異能者が必要ってこと?」


身長でけぇーのにこの少年まんまガキだな。喋り方がかっるい。


『そうだね、でも知り合いに言霊の異能者なんて……』


弥唯さんにいないかと尋ねるかのように顔を向けてきたが俺はもちろんと、友達なんていないし、弥唯さんにも思いつく知り合いがいないようで首を横に振っている。運び屋にはどうかと思い、顔を向けるとやれやれとでも言いたげに運び屋の肩が動いた。また手帳を引っ張り出して、それをきつねに向けて見せる。ついでにこっちにも見せてきた。


『俺の異能はそれだ』


…………なんですと?


「ま、まじかぁああああああああ!」


叫び声をあげたのは俺でもきつねたちでもなく意外なことに弥唯さんだった。




■ ■




すっかり冷めてしまった紅茶を飲み干し、もう用済みのパソコンの電源を落とした。

ふぅと息を吐き出し、不釣り合いな社長椅子に背を預ける。身長が低いせいで椅子はかなり高めの位置で止めている。机をもう少し低いものに変えればいいのだがそんなことにお金を使っている余裕などないと買い換えようとする部下たちを止めてしまったので、足が床に付かない。足元にはもう年だからと引退してしまった元秘書が手作りした足置きがあり、そこに足を乗せているので疲れることはないが、社長としての威厳は一切ない。

小学生に間違われることが当たり前になってしまうほどに身長も細く子供のような顔つきをしている女だ、そんなものは元々ないのだが、新人に示しが付かない。新しい秘書の採用試験の際に社長だと言って名刺を見せ絶叫に近い声で驚かれたのは一生忘れられそうにない。

手を伸ばしてパソコンと向き合っていたせいか腕が重い。

少し回しただけなのにバキッと音が聞こえ、女は顔を顰めた。いくら体が子供に似ていようとも子供のようにはいかない。

ガチャッとドアが開く音が聞こえ、顔を上げると新しい紅茶と一緒に追加の書類らしきものを持ってきた秘書が申し訳なさげにいた。


「すみません社長、この書類に判子を。それとお電話が来ていますがどうしますか」


「誰からかしら」


笑顔で書類と紅茶を受け取り、早速確認しながら判子を押していく。


「社長のお母様だとおっしゃっているそうです」


紅茶を一口飲みながら、こっそりと溜息を吐いた女は出ると手を動かして伝え、秘書から渡された受話器に耳を当てた。


「一体なんのようかしら、あなたとは縁を切ったはずよ」


『あなた、母親に対してなんなのその態度は! 産んでもらった恩を忘れたというのかしら!?』


「私があなたに感じた恩は全て、返したわ。ふさわしい勤め先を決めてあげて、家まで買ってあげて、それ以上に何をしろというのかしら」


秘書はすでに社長室から出て行ったためいない。それが原因になっているのか少しずつイラつきが増えるごとに顔が冷めていってしまう。

元々この会社の社長は女の祖父だった。その祖父が死ぬ寸前次の社長にと指名してきたのは一族の誰からも次の社長だと思われていた女の父ではなく、女だった。そのことが原因になり、母との関係は険悪だ。父とは未だに連絡を取り合いはしているが、それでもいいとは言えない。他の一族のものとは連絡すらしていないし、顔もほぼ忘れかけている。

布団に沈み、震える手を伸ばしながら祖父の口から発せられた言葉を思い出し、女は己の母を馬鹿にするように溜息を吐き、言葉を続けた。


「おじい様は言ったわ。すべてを私に任せる、一族のものを生かすも殺すも自由にするがいいと。私が美形好きなのはご存知ですわよね、だったらなぜ縁を切ったのかわかるはずだわ。あぁ、ごめんなさいあなたはそんなこともわからない馬鹿でしたわね。その馬鹿をわざわざ生かしてあげているのよ? 感謝はされても恨まれる意味がわからないわ」


もう話すことはないとばかりに一方的に電話を切り、紅茶を一気に飲み干す。


「まったく、嫌になるわね。ただでさえ今は忙しいというのに、美形以外のために時間を割くだなんて」


判子の押し忘れがないかをしっかりと確認したあと女は椅子から降りた。

書類を机の上に乱暴において、上に重石替わりの大きめの綺麗な石を置くと女は社長室を飛び出し、すぐ隣にある大きな窓を開く。心地いいとは到底言えない生暖かい風が体を撫でることを不快に重いながら、女はその窓から飛び降りた。もちろん、窓の奥にはベランダのようなものはなく、社長室は会社の最上階だ。この会社は、60階の高層ビルだ、その上から落下したとなれば生きている確率はないに等しい。

けれど、女は恐れることもなく、腕を伸ばし下へと落ちていく。

窓が開かれた音を聞いて慌てて駆けつけた秘書は、落ちていった女を心配するでもなく、下を少し見ただけで窓を閉め、社長室から書類とティーカップを手に取り、秘書室へと戻っていってしまう。慣れていないものが見れば慌てふためくであろうが、秘書はすでに10回以上その現場を目撃している上に、採用された際にそのことを先輩秘書からまず最初に言われたので、驚きはすっかり無くなってしまった。


「あの、社長また行ってしまいました」


社長が社長室からいなくなっていたら報告をするというのは決まりごとなので、秘書長に報告するとその場にいた秘書全員が溜息を吐き出した。それに苦笑しつつ、新人秘書は書類を提出し、ティーカップを洗うためにもう一度秘書室を出た。

秘書たちが胃をキリキリとさせ心の中で愚痴をつぶやいているころ、女はというと地面に着地していた。

女自身が持つ力を使い着地する寸前に重力を操り、体への負担を極端になくしたのだ。そのおかげで足に痛みは全くない。周りを歩いていた社員に驚かれたり、またかという視線を送られたりしているがその処理はできる部下たちに任せているので女は気にせず、歩き出す。大きな階段の前に立つとまた重力を操り、勢いよく飛び降りる。片足で着地し、そのまま跳び、今度はもう片方の足で着地し、また跳ぶを繰り返し、5分もすれば随分と会社から離れた場所にあるビルの下に人目に付くこともなく到着した。

あたりを見渡して、その周辺の地図を思い出し、家への最短距離を頭の中で導き出し、まだ跳んだ。




■ ■




そんなに大きな声で驚く必要はあるのか?とこっそり顔を歪める。

確かに、自分の異能については何も言っていなかったが大げさすぎはしないかと内心思ってはいたが、口には出さない。幼少期から付き合っている異能だが、未だにコントロールはできていない。ただ言葉を発するだけでそれが言霊になってしまうことは多々、というよりすべてなってしまう。その対処法として、言葉を発さない。発さなければならないのなら、間を開けるようにとしている。そのせいか、思ったことを口に出さないようにするのは癖だ。何かを思ったとしても、口から出てくることはない。

ぐいっともう一つの癖である口を隠すまでに伸ばした服の襟の上を掴み、上に引っ張る。口を動きにくくするためにベルトで固定しているので、あまり上に上がらないのだがどうしてもやってしまう。

まだ驚いたまま固まっている弥唯が動き出すまで待つのも面倒なので、手帳に文字を殴り書きして、見せる。


『やるのか、やらないのか』


弥唯の前にも一様晒し、狐と狸仮面の二人に向ける。

「え、っと……いいのかい?」


白が声を一切出さず、手帳に文字を書くことで会話をしていることから、異能を使いたがっていないと読み取ったのだろう。躊躇しながらも、狐が尋ねてきた。

『使いたくない、というわけではない』


伝えたいことだけを書き、また見せるとしばらく悩むように仮面を隠すように手で覆った狐は頭を下げた。


「よろしくお願いするよ。お名前はなんていうのかな?」


『白』


「白、さんね。この人、起こしたほうがいいかい?」


答えずに、倒れている男のすぐそばで屈み、口についたベルトを外す。

押さえ込まれる束縛感が口元から薄くなり、ジッパーの下ろしやすくなった。首元まで開け、小さく咳をする。今日一日、一言も発していないので声がしっかり出るか確認をしたのだ。

あーと小さく声を出してから、もう一度咳をして、言葉を出す。

「<起きろ>」

男一人に意識を向け、言葉にしただけ異能は発動した。

耳を塞いでおけ、と先に言わなかったのはその必要がないからだ。白の能力は言霊を操る異能。無意識的にだろうが、自動的に言葉が言霊となる。その代わりなのか、意識を操りたい者だけに向けることで、その人物だけを操ることができる。例え周りに誰がいようともだ。

そもそも、周りにいる中で起きることができるのはただ一人、悪夢に苦しみ汗を流している男だけなので、耳をふさぐ云々は必要ないのだ。

目を開いた男が白を視界に入れた途端、暴れ出した。足を動かし、手を動かしどうにか逃げようと藻掻いているが混乱してるのだろう、ただ藻掻いているだけで邪魔だとは思うが慌てることはない。

腕を掴みあげ、背に纏めて押さえつける。膝で踏みつけ、体重をかけて動きを封じ込めつつ、耳元に後ろから近づく。

「<なぜ、あの二人を襲ったのか答えろ>」

感情を込めることで言霊の強さを増し、効きやすくする。

男から表情が抜け落ち、ガタガタと震えていた口がゆっくりと開かれていく。

「組に引き入れようとした」

言い終わった途端に、男に表情が戻り、自分が話していたということに驚き、慌てふためる。どうして自分が口を開いたのか、分かっていないのだろう。

「<どうしてだ? この二人にそんな価値があるのか?>」

「未来が、見えると」

なるほど。と思いながらも、言葉を重ねていく。男は白に従い、質問に答え、答えてしまったことに慌てる。を繰り返していたが、そんなことは気にせず、白は言霊を重ねに重ねていく。

聞き出したものはこうだ。

すべてを夢にできる二人組がいる。その二人組はどんな記憶だろうと抜き出し、夢として押してくれる。その力がほしい。その力があれば上へ登れる。組はどんどんと大きくなる。一石二鳥。

間違いだらけだ。

白はまだ、知らないが二人組が夢にできるのは記憶に刻まれたものだけであり、すべてではない。もちろん、未来も見えない。そもそも、記憶を詠む、ではなく思い出を見せてもらう、が愛のテレパシーだ。相手が覚えていないものは夢にできないし、聞き出すにしても二人ができるのは幻覚を夢として見せることと、相手の心を読むことだけだ。相手の心は教えないという気持ちが強ければ強いほどに読みにくい。いわば、とても頑丈な壁かドアに阻まれ、中が全く見えないのと同じだ。

子のこと全ては知らないが、未来予知の能力ではないことがわかっている白は、わざとらしく溜息を吐いた。

『話、大きくなってる……』

「ほんとにね。まったく、誰がこんなデタラメにしたんだが」

愛の声は男に聞こえていないが、悠のことはしっかりと聞こえている。デタラメ、という言葉に反応し、顔を悠の方に向けるが、悠はやれやれという外国の映画でよくある大げさな肩をすくめるポーズをして男を馬鹿にするだけだ。

「それだけで襲われるなんてたまったもんじゃないよ全く。もういいや、僕達の記憶ごと無くしちゃってくれ」

仮面越しでもわかるにっこりとした顔。

そういうと、狐でも狸でもないただの白い仮面をつけた弥唯がのろりと立ち上がる。ふらついた足取りで男の近くに歩き寄り、いきなり頭を掴んで、デコをぶつけた。

「<そいつの言葉を聞いてから、ここから出て行け>」

「ふふっ……君はぜーんぶ忘れるんだよ、二人のこと、ここで起きたことすべて、忘れるんだ」

男はこくりと頷き、ゆっくりとした動きで出て行った。ドアがばたりと閉まると外の音は何も聞こえなくなる。そのせいで本当に男が出ていき、どこかに行ったのかは全くわからない。

出て行かせることだけでも、十分でありそれ以上を行う必要もない。もう出している必要もないのでジッパーを元の位置まで戻し、ベルトで再度拘束する。

弥唯も起き上がれるようになり、もうこの場にいる必要はないと思われる。と立ち上がり、目線をルイに向けているとその意味がわかったのか、ルイも立ち上がった。

「おっしー! 終わったし、帰っか。またな、夢見屋」

有無を言わせぬといった感じで弥唯と白の腕を掴み、二人に――もう一人いるが――挨拶をしてさっさと外に出ていく。

外には、男が倒れていた。

ということはなく、誰の姿もない。

一息ついたルイは相変わらず、ふたりの腕を掴んだままだ。されるがまま、状態でルイに引きずられるまま歩き、帰りにつく。

白の心は、この場に来た時よりも軽くなっていた。

夢にしてもらうため、思い出したのは白が命を救われる瞬間、そして平和な日々を送った思い出。例え、夢だとしてももう一度あの光景が見えればと願っていたことが叶った。どれだけ探しても見つけられない、主人を思い浅い眠りにつく日々が、今日一日だけ変わるのだ。心が軽くならないはずがない。

引きずられながらも、思い出すのは主人のことばかり。

その様子を見てニヤつかれ、更には上から見下ろされていることを、まだ白は知らない。