ドイツのランプメーカーOSRAMに入社してからずっと技術寄りの仕事を続けていたある日、会社から興味深いオファーがありました。
「照明デザイン(照明計画)の仕事をしてみないか?」
ドイツのOSRAM本社には照明デザインやコンサルティングを行う部署がありました。
その業務を日本でも展開する計画があるのでやってみないか、というお誘いです!
ここでちょっと疑問に思われる方があるかもしれません。
「ランプメーカーが照明デザインをすることができるの?」と。
日本では照明器具メーカーが照明デザインを行うことが一般的です。
事実、どの照明器具メーカーにもそのような業務をする部署があります。
その目的は販売促進、つまり、自社の照明器具を建築プランのなかに組み込んでもらい、販売するためのサービスです。
ですから、日本で照明や建築に関わる仕事をされる方から見れば、ランプメーカーで照明デザインをするということは奇異に感じられるかもしれません。
でもOSRAM社には、
「我々が創り、販売しているのは“光”である。ランプはそのパッケージにすぎない。故に、光源メーカーである我々こそが“光”の効果や使い方を利用者に提案する役割を担うべきである。」
というフィロソフィー(理念)があるのです。
そのフィロソフィーを元に照明デザインやコンサルティングの活動をしていたというわけです。
私は、二つ返事でこのプロジェクトに加わることにしました。
そして『照明デザインを光から発想し、光で空間を構築する』メソッドを学んだのです。
照明デザイン・照明計画というと、空間を明るくするとか、照明器具のデザインを選んでレイアウトするということと思われるかもしれません。
しかし、私達が行っていたのはそのような枝葉のことではありません。
まず、その空間の目的やどのような行為が行われるかなどの条件から、その場に必要な光の状態を決めてゆきます。
光の状態とは単に明るさだけに限らず、色合いや強さなどといった光の成分から発想し、その光が照らす物体(素材)との関わり、あるいはその場における行為・行動、視覚への影響などへも及びます。
ここにランプメーカーであることの強みがあるのです。
“光”を創っている張本人なのですから、その成分は誰よりもよく知っています。
ランプは、種類によって光を出すメカニズム(発光原理)が違います。
それら各種ランプの特性の違いを微細なところまで理解し、条件によって使い分けの判断ができるのはランプメーカーのアドバンテージと言えるでしょう。
さらに人間との関わりも考慮し、照明という機能を根幹から作り上げてゆくのがOSRAMで学んだ照明デザイン法なのです。
もちろん、最終的な仕上げは美しくなければなりませんから、美的な感覚も不可欠であることは言うまでもありません。
この「照明デザインを光から発想し、光で空間を構築する」方法を、日本でも様々なプロジェクトで実践しました。
照明プレゼンテーションでは、先に述べたように空間の条件からどのように光の要件を絞り込み、どんな光源を選びどのように照射するか、そのためにどのような照明器具を選定しレイアウトするかという、照明計画のプロセスに従ってご説明します。
すると、どのお施主様もとても興味深そうに聞いてくださり、こちらの計画の意図もよく理解してくださいます。
そればかりか、同席される建築家の方や建設会社の方からも解かりやすいとご好評でした。
こうして、私は照明デザインと照明コンサルティングの仕事に関わるようになっていったのです。
キャリアの初期に築いた光の技術的な知識を基に、光で空間を構築する - 学生時代に漠然と考えていた「ハード(技術)とソフト(生理・心理とデザイン)を取り持つような仕事をしたい」という想いがようやく実を結びました。
いえ、本音を言えば、本当にそんな仕事ができるようになるなんて、あまり期待していなかったのです。
でも思いは通じるものなのですね。
その後別の事業の仕事なども経験し、結局OSRAM社には14年間お世話になりました。
そして「ハード(技術)とソフト(生理・心理とデザイン)を取り持つような仕事」を私の一生の仕事にしようと心に決め、『照明プランニングと照明コンサルタントの事務所 at light laboratory(エーティー ライト ラボラトリー)』を設立したのは2002年2月12日のことでした。