シンガポールと香港と日本のアートを楽しむべく、日々を過ごしているKellyです。
最近は食料品の買い出しと、早朝のジョギングしか外出していません。
昨日夕方に首相のスピーチで、Stay Home施策(Circuit Breaker)の6月1日までの延長が案内されました。
ここ数日、シンガポールでは1,000人を越える感染者数で、予想はしていたものの、当初予定から4週間の延長に気落ちしました。
Daisoで買い物、美容院で髪のお手入れもしたかったのですが、またしばらくお預けです。掃除用品はネットで買うことにしましょう。
さて今年1月、マレーシアのキャメロンハイランドに旅行しました。その頃、まさか世界がこのような状況になるとは夢にも思ってもいませんでした。
キャメロンハイランドは旅慣れた飲み仲間からのお勧めでした。
シンガポールの周辺には日帰りを含め、多数の海リゾートがあります。キャメロンハイランドは高原リゾートで、のんびりホテルステイがよかったそうです。
そしてもうひとつの理由。
ジム・トンプソンが失踪した場所でもあるのです。
ジム・トンプソン?
ご存知ない方もいらっしゃるかもしれませんが、タイ・バンコクに旅行したことのある方なら耳にしたことがあるはずです。
戦後、タイのシルク産業を再興したアメリカ人実業家です。色鮮やかで目を惹くデザインのシルクスカーフをご覧になったことがあるのでは。
キャメロンハイランドで行方不明となり、未だ真相は明らかになっていません。
「推理作家アガサ・クリスティやディクスン・カーなどがこれを聞いたら、絶好の小説材料として雀躍するであろう」(上巻 p165)
小説化にあたり、キャメロンハイランド周辺を取材旅行したようです。キャメロンハイランドまでの道中や、至る所の丁寧な風景描写がそれを物語っています。
なぜこの小説が面白いのか?
「事実は小説より奇なり」と言いますが、時代背景や未解決であること、そしてジム・トンプソン自身に謎が多いことは見逃せません。
そして、松本清張の豊かな想像力、奇抜な発想が加わっています。ネタバレ記事にしないため、小説の本筋に関わることはできるだけ避けてみましょう。
時代背景
舞台は1967年。ガイド的な解説を試みましょう。(ガイドはCOVID 19対応で8月までお休み中)
マレーシアからシンガポールが独立したのが1965年。それから2年後の1967年はまだ混乱期と言えるでしょう。
英国軍は1971年まで、治安維持という名目でマラヤ連邦であったマレーシア及びシンガポールに駐屯し、その後、英連邦5ヶ国(英国、オーストラリア、ニュージーランド、マレーシア、シンガポール)で防衛取極を結びました。
当時、インドシナ半島はベトナム戦争の真っ最中です。アメリカの支援する南ベトナムは北ベトナムのゲリラ的な攻撃に攻めあぐねていました。
北ベトナムはソ連や中国が支援していました。インドシナ半島の共産化がマレー半島に飛び火しては困ると、英国軍はマレーシアに駐屯し、それで失踪事件の捜査陣には英国軍の司令官も含まれていたのです。
ジム・トンプソンの二面性
小説『熱い絹』の中ではずっと別名ですが、この記事ではジム・トンプソンという名前を使い続けましょう。
タイシルクの実業家であることは有名ですが、それ以前は何をしていた人かご存知でしょうか。
社会人としてのキャリアは建築家としてスタートしましたが、その後OSS(Office of Strategic Services, 米国CIAの前身の機関)に所属し、様々な訓練を受けた後はタイで太平洋戦争の終結を迎えました。イメージとしてはスパイです。
巧みな置き換え
小説『熱い絹』で目が離せないのは、松本清張がキャメロンハイランドの事件を巧みに日本に関連付けて、置き換えている点です。
事実関係が気になる方は、後述の『失踪〜』をご覧くださいませ。小説を先に読むか、こちらを先に読むかは非常に悩ましいところです。
わたしの順番はバンコクに行って、『失踪〜』を読み、キャメロンハイランドに行ってからの小説『熱い絹』でした。
ちなみに、キャメロンハイランドの女子旅は観るもの、食べるものありで、それはそれは楽しかったです。別途、記事化の予定です。
ガイドをするようになり、旅行の前に色々と下調べをすることが習慣化しました。確かに歴史や地理が少しでも頭に入っていると現地で効率的に動くことができます。
一方で、ガイドブックの情報をそのまま確認しているような面もあります。現地で偶然発見することも旅行の楽しみです。
結局、旅行の後にもいろいろ読むことになります。またバンコクやキャメロンハイランドにも行きたくなる訳ですが、再訪できるのはいつの日か…。
一刻も早く、人々が自由に行き来できる日が来ますように。
【本日の連絡先】
松本清張『熱い絹(上・下)』講談社文庫
ウィリアム・ウォレン著 吉川勇一訳『失踪 マレー山中に消えたタイ・シルク王子』第三書館