9月9日 救急の日 | ドクターヒロの健康・お悩み相談室

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 延岡市のような地方都市では医師不足が本当に深刻です。

 地元の開業医が診療時間後に、入院施設のある別の病院の
応援に出向いて行くことも珍しい事ではありません。

 そのような事情で・・
 先日の日曜日は、朝から近くの病院の当直を手伝っていました。
折しもこの日は「9月9日救急の日」、
なんとなく嫌な予感がしていたのですが・・
当直室に入るとすぐに、関連の老人ホームから電話がありました。

 短期入所中の老人が、朝食をうまく飲み込めずに嘔吐した直後に
呼吸状態が悪くなり、低酸素血症の状態で意識も低下しているそうです。
どうやら気道に誤嚥したようですが、吸引しても回復しないとのこと。
すぐに病院に搬送してもらうことにしました。

 患者さんが到着。まずは、上気道内の残渣を十分吸引して酸素を投与。
しばらくは経口摂取ができないので、点滴で栄養管理。
誤嚥後には肺炎を起こしやすいので、抗生剤も投与して
経過を見ているうちに、次第に元気を取り戻してきました。
しかし、これから先のことを考えると楽間的ではいられません。

 この患者さんは93歳の男性で、
自力では歩けないほどに足腰が弱っており、
これまでも入浴中の失神や骨折を繰り返すなど、
衰弱が目立ってきていました。
長生きしているのは熱心な介護の賜物です。
しかし、日一日と老衰は進みます。

今回の事態は、お粥もうまく飲み込めず咽に詰まらせる段階まで
弱っているということです。
 状態が落ち着いて退院できたとしても、
その後はどうすればいいでしょうか? 
口から食べさせれば、また誤嚥するでしょうね・・。
 胃瘻を作って、経管栄養をするべきでしょうか? 
しかし胃瘻からの経管栄養は、本来もっと若い人が
顎や口腔、食道などの病気になったときに行っていた処置。
飲み込む力もなくなった高齢者は消化器も弱っており、
QOL(生活の質)の改善はあまり期待できません。
それにたとえ胃瘻からの栄養を入れても、
いったん嘔吐すれば誤嚥してしまいます。

 老化は自然現象として受け入れて、あまり余計な(?)ことは
しないでおくべきでしょうか? 
それではいかにも見放すようで、ちょっとまずいのでは・・
という家族も多いでしょう。
意識調査によれば、自分自身には希望しない医療行為でも、
親に対してはやって欲しいという人の方が多いようです。


 何が正しいのか強烈な社会基準がないままに、
老衰による問題と病気による問題との区別があいまいとなり、
受け身のままに医療を受ける機会が増えて、
医療費をも圧迫している現代。
私たちは、自然の摂理というものについて
見直す時期を迎えているのかもしれません。


 あまり楽しいことではありませんが、
たまには自分の老後についても真剣に考えておきましょう。
まだ少数派ですが、尊厳死の意思決定を
明確にしている人も増えてきているようです。