山田太一著「遠くの声を探して」・・・
山田太一著「遠くの声を探して」
平成4年11月25日 発行
新潮文庫
法務局入国管理局警備官の笠間恒夫は29歳。
高校を卒業して大学受験を2度失敗、
2年目の冬にアメリカへ渡り西海岸で2年過ごし帰国。
その後高卒の公務員試験を受験し、英語が話せることで東京入国警備官になった。
ある日の早朝、不法滞在のバングラデシュ人たちを逮捕するため彼らの住むアパートに行き、そこから逃げた一人を恒夫が追いかけていた時、突然身動きもできないほどの得体のしれない恍惚感に襲われる。
その経験をしたあと、突然どこからか女の声が話かけてくるようになる。
「アナタハ、ダレ、ナノ?」
その女の声と話しながら、恒夫はこれが自分自身の精神が創り出した妄想ではないかと最初疑うのだが、彼女は恒夫も知らない芭蕉の俳句「こちら向け我もさびしき秋の暮」を知っていると話し、フレズノ(カリフォルニア州中部フレズノ郡にある都市)に叔父がいると話した。
さらに、こうして恒夫と話せるのは、彼女が”誰か思いを受け止めてくれる人はいないかと心から願った”結果、その想いが恒夫に届いた奇跡だと言う。
その頃恒夫は、上司の勧めで柴田芳恵と見合いし婚約まで進むが、彼女に精神を操られた末に失態を演じ破談。
ただ、そんなことは恒夫にとって問題ではなく、彼の願望は謎の彼女と逢ってみたいという強い欲求となっていく。
恒夫は彼女に逢いたいと申し入れ、彼女もそれを受け入れるのだが、物語の最後、ようやくそれを果たせるかと思える寸前彼女は恒夫に別れを告げ、声の主は最後まで謎の女として物語は終わる。
「アナタノ明ルイ世界カラハ私ノ内部モ外見モ想像ガツカナイ」
「私ノ醜サモ想像デキナイ」
「アナタ二ハ見エナイ世界ガアル」
そんな言葉を残して・・・。
作者がどうしてこのような筋書きを思いついたのかはわかりませんが、あらすじ自体は以上に書いたままです。
それに肉付けをして読者を作品の中に引き込む描写力が素晴らしい。
山田太一さんは1934年6月6日生まれで 2023年11月29日に89歳で亡くなっています。
Wikipediaには、「松竹で木下惠介の助監督をした後、フリーとなり、テレビドラマの脚本家に転身」とあり、「早稲田大学の同窓に劇作家の寺山修司がおり、在学中、寺山と深い親交を結んだ」とあります。
鮮明な映像が頭に浮かぶことで脚本が書けるわけですね。
まさしく才能に溢れた大脚本家であり素晴らしい小説家だった。
今度は「寺山修司からの手紙」も読んでみたい・・・。